技術パラダイムの変化で過熱する業界の枠を越えた“エンジニア獲得競争”

40代の採用も当たり前に?
“異次元の採用”に沸く転職市場

株式会社 リクルートキャリア リクナビNEXT編集長 藤井 薫氏
株式会社 リクルートキャリア
リクナビNEXT編集長
藤井 薫
 日本経済はバブル期以来の深刻な人手不足に陥り、多くの業界で人材獲得競争が激化している。リクルートキャリアの転職支援サービス「リクルートエージェント」における2018年2月の転職求人倍率は1.80倍。業界別ではコンサルティング業界(5.91倍)やインターネット業界(4.55倍)、職種別ではインターネット専門職(5.66倍)、組込・制御ソフトウエア開発エンジニア(4.77倍)などの高倍率が目立つ。

 中でも、AI、IoT、半導体、自動運転、コンサルティングサービスなど、デジタル時代のビジネス変革をリードするITエンジニアの転職は右肩上がりで増加し続けている。異業種への転職が増えているのも注目すべき傾向だ(図1)。

図1 図1  「すべての産業・企業で、事業構造を転換するデジタル・トランスフォーメーションが加速する時代。これまで業界内もしくは、企業内にいなかった先端分野のエンジニアの価値が急速に高まっています」と指摘するのは、リクナビNEXT編集長の藤井 薫氏だ。

 「注目すべきは、例えばSIerなどで働くSEが、業界のデジタル変革を推進するコンサルティングファームへ、電機メーカーのデータサイエンティストが自動運転技術の開発に注力する自動車業界に転じるなど、業界の垣根を越えた“異次元の採用”が活発化していること。さらに、図2にあるように、35歳の壁も消えていて、キャリアのある方なら40代、50代での採用も少なくありません」(藤井氏)

図2 図2  とりわけ「半導体」、「コンサルティング」、「ネットサービス」、「自動車」の各分野でハイタレントのニーズが増しているという。そこではどんなスキルや経歴を有する人材が求められているのだろうか。以下では、各業界の動向や求人需要の最前線に精通した、多数のエンジニアと企業とのマッチングを図るトップコンサルタントたちの話を紹介しよう。
注目の転職市場①[半導体]

メモリ需要の増大で
激しい人材争奪戦を展開

株式会社 リクルートキャリア
エージェント事業本部
ハイキャリア・グローバルコンサルティング部
シニアコンサルタント
杉山 友章
 日本の半導体産業が「衰退産業」といわれたのも今は昔。2014年ごろからは形勢が反転し、中には数百名規模のエンジニア採用を打ち出している企業もあります。その背景の1つとして、IPv6の登場でIPアドレスを理論上無限に付与できるようになったことが挙げられます。コネクティッド技術の進展で、IoT(Internet of Things)が生み出す膨大なデータを格納するためのメモリ需要が指数関数的に増加し、DRAMやNAND型フラッシュメモリの製造が大活況を呈するようになりました。世界的に半導体エンジニアが不足するなか、中国の大手チップメーカーが各国のトップタレントを引き抜くといった動きもあり、グローバルな人材流動が起きているように見えます。

 それに加え、Google(Alphabet)やAppleなどこれまで需要側だった企業がプロセッサなど各種半導体の自社開発を行うようになりました。そうした動きは国内企業でも見られます。メモリ用チップを製造するメーカーは、大量のエンジニアを増員しようとしていますし、パワー半導体などの自社開発に乗り出している需要側企業も多数の技術者を募集。そうしたことから、人材の奪い合いは極めて激しいものとなっています。

 半導体産業の不況下で一時的に異なる職種に就かれた方の採用も活発で、50代のハイキャリア転職が増えているのも最近の特色です。業界内での転職が主流ではありますが、プロセスエンジニアなどはそれだけでは賄いきれず、液晶パネルなど微細加工技術に携わった経験を持つ技術者を採用するケースも散見されます。転職を決断した多くのエンジニアにとって、高報酬以外に最先端技術の開発に携われることも大きな魅力となっています。

 現在のように過熱した状況はいずれ落ち着くとしても、スマートデバイスには必ず半導体が搭載されますので、この活況は中長期的に続くものと思われます。また、大量のデータを利活用するにはAIやディープラーニングなどの技術が不可欠なので、今後はそうした分野に詳しいエンジニアに対するニーズもますます高まっていくことになるでしょう。
注目の転職市場②[ネットサービス]

サービスを多層化させる
非IT系企業の採用が拡大

株式会社 リクルートキャリア
エージェント事業本部
ハイキャリア・グローバルコンサルティング部
シニアプロフェッショナル
内堀 由美子
 企業が提供するサービスがリアル、ネット、バーチャルと他領域にまたがるようになったことで、ネット人材(インターネット関連のスキルを有する人材)を必要とする企業がネット企業(スマホアプリ、メディア、ゲーム、ECサイトなど)だけではなくなってきました。
 例えば小売業界では、ネット活用といえば自社ECサイトの設置やキャンペーンのWeb連動が過去の主流でしたが、今では店舗に近づくだけでレコメンドされた商品のクーポンがプッシュ通知でスマホに届いたり、商業施設で消費者がどういう行動をしたか(通った経路、買った商品・買わなかった商品の区別など)をデータで可視化してマーケティングに生かす試みをしたりなど、高度なデジタル施策が推進されています。

 小売りだけでなく、金融機関・メーカーなどの非IT企業のデジタル関連部門での募集が大幅に増えています。インターネットやそこから取得できるデータを活用したサービス・事業の企画ポジション、そのサービス・事業をプロモートするためのマーケティングポジション、よりスピード感のある開発・改修を内製化して行えるエンジニアポジションなど。非IT企業はそうしたネット人材を社外から採用するしかありません。実際に、スマートシティを推進している住宅関連企業がIoTベンチャー企業の企画職の方を採用したり、オンラインサービスのUI/UXを高めたい金融機関がソーシャルゲーム企業のデザイナーの方を採用したりと、過去にはなかった転職事例も見られるようになりました。また、こうした人材を採用するため、従来の人事制度の変更や特別枠を設ける企業も現れ、ネット人材の転職チャンスは大きく拡大しています。

 また、ベンチャー企業の人材採用も依然として活発です。日本ではまだまだ数は少ないですが、大手企業からベンチャー企業への転職を希望する方も増えつつあり、年代としても20代だけでなく40代の転職も増えてきました。最近のベンチャー企業はIoT関連の事業を主軸にしていることも多いため、メーカー(機械系)のエンジニアの方々の新たな転職先としても注目されています。
注目の転職市場③[コンサルティング]

戦略提案の変化に伴い
エンジニアの大量採用が進む

株式会社 リクルートキャリア
エージェント事業本部
ハイキャリア・グローバルコンサルティング部
コンサルタント
稲垣 礼仁
 国内市場の飽和に伴い、大手企業を中心にグローバルなマーケットでビジネスを展開する必要に迫られることから、最先端のICTを用いて事業活動を変革するデジタル・トランスフォーメーションの取り組みが本格化しています。これまで日本企業のドメスティックユースのIT化は主にSIerが担ってきましたが、積極的な海外展開およびビジネス戦略推進をデジタル・トランスフォーメーションで実現していく必然性を余儀なくされる動向から、グローバルマーケットでノウハウを持つ外資系ファームにコンサルティングを依頼する企業が増加中です。

 ビジネス戦略も企業の基幹システム(ERP:Enterprise Resources Planning)と結びついたSCM(Supply Chain Management)やSRM(Supplier Relationship Management)などを視野に入れながら提案されることは言うまでもありません。ストラテジ系の職種でもIT素養を持つ人材が求められています。デジタル系の職種ではWebのスキルを持つ人材が不可欠ですし、製造現場のIIoT活用ではアナリティクス技術も欠かせません。事例としては、「モノを提供して対価を得るビジネス」から「成果課金サービス」への移行といったドラスティックなビジネスモデルのチェンジにおいて、成果を測定するセンサーテクノロジーから得られるデータ分析手法の提案など、活躍のステージは広がっています。また、欧米に後れを取るセキュリティコンサルティングのニーズも高く、セキュリティ系の経験者も高い需要があります。このような動向から、エンジニアに対する求人ニーズが増大。年間1000人単位の採用を計画するファームもあるなど、大きな転職市場が形成されています。

 転職決定者のボリュームゾーンは20〜30代後半ですが、それより上の年齢層では一定のスキルとマネジメント経験が高く評価されます。ERPの専門知識を持つ一定以上の規模のプロジェクト経験者なら、50代の採用事例もあります。

 上述で示したように、グローバル戦略を実現するデジタルトランスフォーメーションノウハウはコンサルタント候補にとって必須条件であり、外資系コンサルティングファームには、ナレッジデータベースや多様なトレーニングメニューによるフォローアップ体制が充実しています。このような背景から、社会のデジタル化を加速する仕事を担うことに大きな意義を感じて、転職を決断するエンジニアの方が増加傾向にあります。
注目の転職市場④[自動車]

自動運転やコネクティッドに
関連する技術者ニーズが急増

株式会社 リクルートキャリア
エージェント事業本部
ハイキャリア・グローバルコンサルティング部
シニアコンサルタント
所 寿紀
 自動車産業では、「自動運転」、「コネクティッド」、「電気自動車」、「シェアリング」の4トレンドが同時進行しています。中でも「自動運転」や「コネクティッド」領域では組込・制御ソフト、Webアプリケーション技術を必要とするため、完成車メーカーや部品サプライヤーは、ソフトウエア開発に携わる人材を積極的にIT業界から採用しています。

 「自動運転」では「画像認識アルゴリズム開発」、「経路生成アルゴリズム開発」、「制御システム開発」が代表的な募集職種で、民生機器や精密機械、工作機械メーカーなどで組込・制御ソフトウエア開発に従事されている方、インターネットサービス企業やSIerなどでビッグデータなどデータ生成に従事されている方など、多様な業界出身者の活躍が期待されています。「コネクティッド」では、クラウド、無線通信、セキュリティなどの技術を使ったサービスの開発に携わる職種が多く、ITベンダーやSIer、インターネット関連企業出身者に多く期待が寄せられています。

 以前の自動車業界では業界経験者の転職が主流でしたが、現在は高い専門性と経験を持つハイキャリア人材を異業界から採用することが多く、人材獲得競争も過熱しています。私は主任クラスのリーダー層や課長・部長クラスの管理職層の転職支援を担当しておりますが、多くの方々が転職後、開発プロジェクトの取りまとめや技術戦略を描くといった重要なポストにて活躍されています。

 転職を実現された方の多くは、自動運転技術開発など、社会へ与えるインパクトの大きさに魅力を感じ、自動車業界へ興味を持たれるようです。また、コスト競争などでモチベーションが低下していた家電メーカーのエンジニアが、恵まれた投資環境で先進的な技術開発に携われることに魅力を感じて自動車業界へ転身される、といった事例も見られます。

 自動運転に関して、メーカー各社は東京五輪開催の2020年までに「レベル3」(条件付き運転自動化)を目指していますが、最終目標の「レベル5」(完全運転自動化)の実現にはさらに多様な技術開発を要することから、自動車産業のソフトウエア系人材ニーズは中長期にわたり維持されるはずです。

エンジニアのよりよいキャリア形成をサポート

 最近の転職求人倍率の高まりは、生産年齢人口の減少を反映したものだが、ここで取り上げた業界に見られるエンジニアに対するニーズは、インダストリー4.0と呼ばれる社会変革の進展を担う人材不足を物語っている。

 「デジタル・トランスフォーメーションの裾野が広く、IT、電機、機械、化学、知財など、当社で預かる求人には、毎月新たなポストが加えられています。今はあらゆる分野のエンジニアにとって、新しいステージでさらなる活躍をするチャンスが広がっているといえるでしょう」(藤井氏)

 リクルートキャリアの転職支援サービスは無料で活用でき、転職活動をする際にはコンサルタントがあたかもプロアスリートの代理人のように、個人では難しい待遇や諸条件の交渉はもちろん、そのタレントに見合った新しいポストを設ける提案まで行うという。

 実際に転職活動を行うかどうかは別として、コンサルタントによるサポートのもと、定期的に自身のキャリアを客観的に分析し、現在の職場と自分のスキルや能力にミスマッチがないかどうかを確認することは、よりよいキャリアパスを描くことにつながるはずだ。
お問い合わせ
リクルートエージェントのご案内
●転職をご検討の方
URL:https://www.r-agent.com/
TEL:0120-050-454(10:00〜18:00 ※土・日・祝日を除く)

●採用をお考えの企業様
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TEL:0120-98-3046(9:00〜18:00 ※土・日・祝日を除く)