世の中の変化に対応する
ジオマテックの薄膜と加工技術

ジオマテックの自動車向け機能性薄膜使い慣れた部材に価値ある機能をまとわせる

自動車は、安全性・走行性・経済性・環境性・快適性など多くの要求に応える機能を数多く詰め込んだ、至高の工業製品。
それを構成する部材には、パネル1枚、パイプ1本に至るまで高度な技術が注ぎ込まれている。
ジオマテックは、独自の機能性薄膜の形成技術を駆使して、自動車用部材の表面に新たな価値を持つ機能を付与する。

薄膜形成のプロフェッショナルが自動車用部材に新たな価値を産み出す

菅原浩幸 氏
ジオマテック株式会社
取締役 執行役員 兼 CTO
菅原 浩幸

自動車業界は今、100年に一度と言われる変革期の真っ只中にある。コネクティビティ(接続性)、オートノマス(自動化)、シェアリング(共有)、エレクトリック(電動化)などにおける技術的躍進は、他方で安定的な通信性や高い環境性、あるいは、軽量性、デザイン性の維持といった新たな課題の解決が求められている。つまり、自動車を構成する部材の一つひとつに、これまで以上に高度な要求が求められるようになっているのだ。

そうしたなかで、薄膜を形成する高度な技術によって自動車分野に進出しているのがジオマテックだ。求める機能や特性を持った薄膜を形成できるという、ジオマテックが長年特化してきた薄膜加工技術は、幅広い材料で多様な形状の部材表面に適応できる。その応用は極めて広い。様々な自動車用部材にさらなる高度化が求められるなかで「私たちの機能性薄膜を活用すれば、使い慣れた部材に価値ある新たな機能をまとわせることができると確信しています」とジオマテック株式会社 取締役 執行役員 兼 CTOの菅原浩幸氏は話す。

これまでジオマテックは、ドライバーに正確な情報を伝えるナビゲーション用液晶パネル前面のタッチパネル用電極膜(ITO)やカバーガラスに施す反射防止用コーティングなどを通じて、車載用部材の高機能化に貢献してきた。確固とした品質マネジメントシステムを構築し、自動車技術の発展をリードするティア1企業に向けて、量産部材の豊富な納入実績がある。

増反射ミラー膜、反射防止膜、赤外線カット膜(HUD)、ハーフミラー膜(ルームミラー)、加飾膜(内装部品)、抗菌膜(ハンドル)、指紋防止付反射防止膜、タッチセンサー電極膜(ディスプレイ、タッチパネル、帯電防止(シート))

ジオマテックの機能性薄膜の形成技術で、新たな機能を付加することが可能な自動車用部材の例。求める機能や特性を発現する薄膜を、所定部材の表面に自在に形成することが可能だ

スマートミラーの視認性を誘電体薄膜で極限まで高める

バックミラーの写真。LCD-ON時は透過し、LCD-OFF時はミラーになります

ジオマテックの誘電体薄膜を用いたハーフミラーならば、光の吸収を最小限に抑え、情報表示時とルームミラーとして利用する時のいずれにおいても、良好な視認性を実現できる

ジオマテックは、薄膜の光学特性を自在に制御可能な高度で豊富な知見を保有している。その技術は、宇宙の神秘を探る天体望遠鏡の反射鏡や、高い視認性が求められるスマートフォンのタッチパネル作りの分野で磨かれてきた。

近年の自動車には、地図や道路状況などデジタル情報をルームミラーに表示するスマートミラーが搭載されるようになった。液晶パネルの前面にハーフミラーを置き、情報表示と鏡の機能を必要に応じて使い分けるものだ。一般的に、銀のような光の吸収が少ない金属でハーフミラーを作ったとしても、約20%もの光が損失してしまう。ジオマテックは、光学特性を活かした設計技術とナノオーダーでの均一性を保つ薄膜形成技術を駆使して、光の損失を最小限に抑えたハーフミラーを実現している。

LEDライトの結露防止と融雪をヒーターで実現

レンズカバー ヒーティングテスト 着雪状態、融雪完了
冷却スプレーを使い疑似的に着雪状態をつくる
ヒーターをON、数十秒で視界がクリアになる。ヒーティング温度など、設計自由度も高い

自動車のヘッドライトやテールランプの光源をLED化する動きが広がっている。LED化は、省エネルギー化に効果的ではあるが、解決すべき新たな課題も抱えている。電球を光源に使っていた時には点灯時の発熱を、結露防止や融雪に利用できた。ところが、発熱が少ないLEDに替えると、結露や雪の付着を防止する仕掛けを別途組み込む必要がある。

ジオマテックでは、ライトやランプのカバー表面に透明導電性材料である酸化インジウムスズ(ITO)の薄膜を形成し、透明ヒーターとして活用する方法を提案している。定期的な通電による発熱で、除去が困難な状態になる前に、結露や雪の付着を防止できる。通常こうしたヒーターは、熱線ヒーターを使用することが多いが、局所加熱となる熱線ヒーターでは熱伝導性の良いガラス素材が主流である。

だが、ジオマテックの透明ヒーターならば面で発熱するため素材の熱伝導は重要ではなく、プラスチックの基材上にも形成可能だ。同じ仕組みを、リアウインドウの結露防止用の熱線の代わりに利用することもでき、既に、JR北海道で運行している電車運転席のポリカーボネート製窓ガラスに、この技術が採用されている。

サーモグラフィ画像。左:熱線タイプ、右:面タイプ。線で発熱するか、面で発熱するか。

画像:熱線タイプと面タイプの比較
熱線部の周囲は温まりにくいため、面全体を温めることで均一な融雪が可能に

金属薄膜に電波を通すナノサイズの空隙を作り込む

先進運転支援システム(ADAS)や自動運転車において、走行中の周辺環境を把握するミリ波レーダーの搭載が進んでいるという。ただし、レーダーをそのまま自動車に取り付けると、デザイン性を著しく損ねてしまう。このため、フロントグリルのメーカーエンブレムの裏に仕込む実装法が検討されているが、従来の金属製エンブレムをそのまま使ってしまう際の問題点として、ミリ波を遮断する問題がある。

そこで活用できるのが、ジオマテックの保有する、ミリ波を通しながら質感の高い金属光沢のエンブレムを作る技術。真空中でナノサイズの金属材料の塊(クラスター)を飛ばして薄膜形成し、あえてミリ波が通過できる微小な空隙を残して薄膜を形成可能だ。

インジウム薄膜の写真。色が違う

写真はインジウム薄膜。色合いのコントロールも可能

周囲を察知するレーダー搭載の自動車イメージ

今後もレーダー搭載車は増加していく

親水性と撥水性、どちらの薄膜も自在に形成

バックモニターのカメラカバーなど、曇りのない良好な視界の確保が求められる部材の視認性を高める方法には、方向性が両極端な2つの方法がある。1つは部材表面の親水性を高めて、均一に濡れた状態にする方法。もう1つは、逆に撥水性を高めて水滴が付かなくする方法である。これら2つの方法は、「ミストの付着を避けたい部分には親水性」、「水分の凍結や水やけが気になる部分には撥水性」と使い分けられている。

自動車メーカーは、部材の利用シーンを吟味しながら、これらのうちいずれの方法を採用するのか判断している。ジオマテックの薄膜形成技術ならば、いずれの特性を持つ薄膜でも、基材となる部材の材料を問わず形成できる。

車内温度の上昇抑制に、もう1つ機能を付加

直射日光にさらされるルーフガラスに赤外線(IR)を遮断する薄膜のコーティングでも豊富な実績を保有するジオマテック。IRフィルターのコーティングは、車内温度の上昇を抑制する効果的な方法であり、リアやサイドといったより多くのガラスに施せば、快適性と経済性の向上につながる。ジオマテックの技術を駆使することで、夏には赤外線を遮断し、冬には通電することでヒーターとしても使える多機能な薄膜をコーティングすることも可能だ。

ジオマテックは、光学特性など薄膜の物性を熟知。さらに、自動車用ガラスに求められる透過率仕様、基準などに関する知見もある。部材に盛り込みたい特性や機能、耐久性、環境性、コストなどを指定すれば、最も要求に近い薄膜を提案してくれるのだ。

生き物が進化の過程で得た能力を多様な部材の表面にまとわせる

蛾の目のCG画像
蛾の目の画像。複眼が綺麗にならんでいることが解る。ナノオーダーの形状が光学特性や防汚特性に寄与している

蛾の複眼は、まぶたで守ることも洗浄することもないまま、むき出しの状態で空を飛び、敏感な視覚能力を維持している。その秘密は、汚れや水滴の付着を防ぐ、複眼の表面形状と素材の特性にあるという。生物が何億年もかけた進化の過程で得た能力は、工業製品の性能や機能を高める際の効果的方法を示唆しているのではないだろうか。

ジオマテックは、蛾の複眼の仕組みを模した超撥水表面処理技術である「g.moth™」を開発した。これまでの撥水性薄膜の課題だったミストの付着も起きない、究極の超撥水を実現できる技術である。加えて、表面の微細形状を最適設計することで、表面の光学特性を自在に操り、あり得ないほどの超高透過性と超低反射性を実現することも可能だ。

「g.moth™の処理対象を広げる技術や量産適用を見据えた生産技術も開発しており、なおかつ機械的強度も実用に耐えることを確認済みです。g.moth™によって、多くの機器や設備に使われている既存の部材が、代わるモノがない価値を持った部材へと生まれ変わります」と菅原氏は言う。

蛾の拡大写真

ナノサイズの突起と撥水性薄膜で蛾の複眼を実現

蓮の葉が水を弾いている写真

ナノサイズの突起形状の上に撥水性薄膜を形成することで、水も油も汚れも寄せ付けない超撥水性を実現。しかもその効果を、様々な基材の表面にまとわせることができる

g.moth™は、素材表面にナノサイズの突起形状を形成することで超撥水性を生み出す技術だ。表面に水滴や油、汚れが付いても、突起の先端だけに触れる状態になるため、簡単に取り去ることができる。そして、微細突起の表面には撥水性の薄膜が載っているため、突起の間に水滴や油が入り込むこともない。

「g.moth™の技術を日々磨くことで、TACやPETなど樹脂フィルムだけだった処理対象となる基材の材料が、現在はガラスやポリカーボネート、アクリルなどへと広がっております」(菅原氏)と言う。

最小限のメンテナンスでモノの機能と美観を維持

スポイトで落とした水滴を丸く弾く超撥水膜の写真

g.moth™で超撥水性機能を付与したモノの表面に水滴を垂らすと、ボールのように弾み、転がって、跡形もなく消えてなくなる。同様に、人が触った指紋の跡や水垢などのような汚れが頑固にこびり付くこともない。このため、最小限のメンテナンスでモノの機能とデザイン性を両立することができる。

こうしたメンテナンスの容易さは、様々な応用でメリットをもたらす。例えば、デジタルサイネージのような公共の場に置くディスプレイの視認性を、手間いらずで長時間にわたって維持できる。また、バスルームの浴槽や鏡、建物の外壁の汚れを防ぐことも可能だ。将来、自動車の外装に応用できるようになれば、これまで雨中を走行したら汚れてしまっていたボディーが、逆に雨が降るたびにピカピカになるのも夢ではない。

親水処理品は水滴が面に貼りつくように薄く広がり、超撥水処理品は水滴が玉のように乗る、θ:水滴接触角 θ=10度:超親水性 θ=150度:超撥水性

表面に超撥水処理を施すと、落とした水滴は玉のようになり、跡形もなく取り去ることができる。この技術で油や汚れも簡単に除去可能になり、最小限のメンテナンスでモノの機能と美観を維持できる

そこに何もないかのような超高透過・超低反射

左:ガラス、
							右:g.moth処理。ガラスは反射して向こう側が見えない。

ガラスなど透明な基材表面にg.moth™処理を施すことで、超高透過、超低反射な光学特性を実現できる。実用的耐久性も備えており、高い視認性が求められる表示機器などへの応用が広がる。写真はガラスとg.moth™の比較実験の様子。反射が高まるように基板を5枚設置している。「ガラス」に外の風景が写っている=反射が高いことがよく解る

また、ガラスなど透明な基材表面にg.moth™の処理を施すことで、光学特性を劇的に向上させることもできる。

g.moth™の微細な突起形状のアスペクト比(開口部の直径に対する深さの比)は2.5〜3に設定され、開口部の径が上面から底面に向かって徐々に細くなっている。物体の反射率は、空気と物体それぞれの屈折率の違いで決まる。一般的な反射防止コーティングでは、光学設計を工夫して、低い屈折率の材料と高い屈折率の材料を積み重ねて、疑似的に反射率を低減している。g.moth™では、空気だけがある突起上面から、ガラスだけがある底面へと、疑似的な屈折率が連続的に変化。このため、原理的には反射率が限りなく0に近くなるというわけだ。そのためガラスの両面にg.moth™処理を施すと、透過率は約99.8%になる。

プレート基板:平坦面の場合、屈折率は急激に変化。g.moth:屈折率の変化を緩やかにできる

ナノ突起を通過する光は緩やかに屈折する。これにより表面反射が小さくなり、透過が大きくなる

g.moth™が実現する超高透過、超低反射な光学特性は、デジタルサイネージやテレビ、監視カメラ、時計などカバーへの応用に最適だ。また、ショーケースのガラスに利用すれば、なかに置いた宝石がまるで目の前にあるかのように見えるようになる。布で表面を拭いても簡単には傷がつかない強度も備えているため、スマートフォンのディスプレイ用反射防止膜としても活用できる。明るい屋外では視認性が落ちる有機ELパネルに応用すれば、その視認性は高まることだろう。

パイプ内部を超撥水性に、液体搬送性能と信頼性を向上

g.moth™処理は、フィルムやプレートのような平坦な基材だけではなく、パイプのような円筒形のモノの内部にも施すことができる。水や油など液体を運ぶパイプの内部にg.moth™処理を施せば、流体の抵抗は限りなくゼロに近づき、より小型のポンプで液体を運ぶことが可能になる。

また、内部に汚れが付着することもないため、メンテナンスが楽になり、信頼性や耐久性も向上する。長期にわたって使用する水道管や汚れやすいジュース、ビールのサーバー、さらには使用中のカーボン付着で性能が劣化しやすい自動車の部品にも効果的だろう。

SUSパイプ 汚れ防止機能なし ザラザラしている
SUSパイプ 汚れ防止機能あり ツルツルピカピカ、光が反射している

パイプの内部にg.moth™で超撥水性を付与することで、内部への汚れの付着を最小限に抑制できる。写真はg.moth™を施していないパイプ(左)と施しているパイプ(右)に工場排水(流速:8L/min)を流したパイプ内部の30日間経過後の付着状況

革新的な生産技術の開発で、 g.moth™の応用拡大を加速

g.moth™によって実現する、超撥水性、超高透過・超低反射といった比類ない特長は、様々なモノに新たな価値をもたらす。スマートフォンなど身近な機器から産業プラントのような社会を支える施設まで、応用先は極めて広いと期待している。ジオマテックは、より多くの活用を後押しするため、g.moth™の生産コストの低減と生産性向上を狙った新技術の開発に着手している。

現状では、ナノレベルの突起形状を転写するための版は、工程が長く手間を掛けて作製している。これを、グラッシーカーボン(以下、GC)に酸素イオンビームを照射するだけの表面処理を施すことで、同じ形状の版を1/3以下の工数で作製する技術を東京理科大学 基礎工学部 電子応用工学科 谷口淳教授と共同開発している。詳細は申し上げられないが、この技術により版の低コスト化も実現できる。この技術を早期に開発し世の中への普及に努めたいとジオマテックは考えている。

1.酸素イオンシャワーを照射
、2.モスアイモールド、3.樹脂を滴下、4.UV硬化、5.離型

図は谷口教授の研究発表より抜粋した資料。分かりやすく工程を紹介している。g.moth™の応用拡大を後押しするため、ジオマテックは東京理科大学の谷口 淳教授と共同で、生産性の向上と生産コストの低減を目指す技術開発を進めている

これまで5回に渡りジオマテックの薄膜形成技術について紹介してきた。今まで伝えてきたパイプへの形成技術や自動車向け機能性薄膜だけでなく、さまざまな場所への応用や可能性を秘めている薄膜。今後のジオマテックの薄膜形成技術に期待したい。