フェルディナント・ヤマグチ氏 産業用エンジンの魅力にのめり込む!現役エンジニアが語るクボタのエンジン

種田敏行氏 フェルディナント・ヤマグチ氏 写真
コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ氏
×
株式会社クボタ エンジン技術部長 種田敏行

クボタが誇るエンジン事業を担う本丸・堺臨海工場にやってきたフェルディナント・ヤマグチ氏(以下、フェル氏)。
普段は日経ビジネスオンラインの連載『走りながら考える』で自動車評論を行うフェル氏だけに、エンジンにはちょいとうるさい。
エンジン事業部長 鎌田保一氏に、自動車エンジンとは似て非なるクボタの産業用エンジンの魅力を聞き、興味津々。
「こんな面白いエンジンをつくっているのはどんな人たちなのか。ぜひお会いしたい!」と、エンジン技術部に潜入。実際のエンジンを目の前に、テンション高く企業機密にも切り込むフェル氏。エンジン技術部長 種田敏行氏率いるエンジニア軍団との対決の行方は……。

Profile

種田敏行

エンジン技術部長。1989年、久保田鉄工(現クボタ)に入社し、以後、エンジン技術部にてOEM向けエンジン開発を担当。フランス駐在を経て2014年より現職

Profile

フェルディナント・ヤマグチ

自動車評論家、コラムニスト。一般企業に勤める傍ら、自動車に関するコラムなどを執筆し人気を博している。講演やテレビ・ラジオなど様々なメディアで活躍中。著書に『仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはなぜ売れる?』(日経BP社)など

エンジンを替えるだけで、様々な環境、用途に対応

ズラリと並ぶエンジンに、マスクをしていても興奮を隠しきれないフェル氏。ズカズカと企業機密に斬り込み、エンジン技術部長 種田敏行氏もタジタジ!?

フェル: さて、クボタの産業用エンジンの中枢を担うエンジン技術部にやってきました。……お!これがエンジンの現物ですね。

種田: ここに並んでいるエンジンは、2.4~2.5リッターの4気筒のエンジンで、ベースエンジンから求められる性能や使用用途に合わせ、カスタマイズを加えたラインナップになります。

フェル: なるほど。おや? 後ろの布がかぶせてあるのもエンジンですか?

種田: あー、フェルさん、そっちはダメです。

フェル: ダメと言われると余計に見たくなる(笑)。何か企業機密でも?

種田: いえ、それはちょっと……。

フェル: ひょっとしたらアメリカのあの会社やヨーロッパの某企業のOEM……?

種田: 勘弁してください(苦笑)。すでに鎌田(エンジン事業部長)からもお聞きになっていると思いますが、当社は、100馬力帯の小型産業用エンジン市場で世界No.1であり、そのうち半分以上がOEMビジネスで、8割が海外向けの製品となります。守秘義務もあるため、ここらでご容赦いただけますか。

フェル: 自社搭載用よりも、OEMのほうが多いとは……。クボタのエンジンは、業界も一目置く高性能という証しですね。ちなみに、2000種類ものエンジンをつくっていらっしゃると伺いましたが、エンジンへのニーズはそれほど多岐にわたるものなんでしょうか。

種田: そうですね。同じ馬力帯の農機1つとっても、コストを考えるなら3気筒、低振動がいいならば4気筒、あるいはエンジンの静粛性を優先するなら副燃焼室式、燃費の良さを求めるなら直噴式といったように、お客様のニーズによってあるべき設計は異なってきます。さらには、コンパクトなのに高馬力で低燃費といった難易度の高い要求や、エンジンの排出ガス規制が各国で年々強化されるなか、国によって異なる規制にも対応していかねばなりません。

現在、主力の100馬力帯以下のラインナップに加え、2019年から実施される欧州排出ガス規制「StageⅤ」に対応した高馬力帯の産業用大型ディーゼルエンジン「V5009」を市場投入するのもそのためで、常に「一番適切なエンジンをどうぞ」とご提供できるのが当社の強みの1つでもあります。

フェル: ぶっちゃけ、多品種少量生産を実現するとなると、さぞや現場は大変なのでは? 

種田: 確かに、若干製造しなければいけない製品のバリエーションが豊富すぎるところもあるかもしれません(笑)。お客様のニーズに応えつつ、同時にコストや工程を抑制していく上では、「部品ピッキングシステム」など生産ラインのIT化を進めるとともに、エンジニアの創意工夫もポイントとなります。

当社ではエンジンの設計・開発を一人のエンジニアに任せ、営業と一緒に、お客様との打ち合わせや試運転の現場などにも積極的に足を運ばせるようにしています。

フェル: おお、まさに開発と営業が一体となってユーザーニーズに即した事業を展開されていると。種田部長も海外経験が豊富であられるのでは?

種田: 5年間ほどフランスに赴任していたことがあります。

フェル: フランス……やはり。種田部長の醸し出す雰囲気から、この方は間違いなくおフランス帰りと推察しておりました(笑)。

種田: わはは、そうですか(笑)。私の仕事がちょっと変わっていたのは、建機や農機の担当ではなく、フランスのAIXAM(エクサム)というコンパクトカーのメーカーを担当していたことです。

堺臨海工場の「品質監査棟」で排出ガスを測定。クボタでは、世界で最初に始まった排出ガス規制の認証である、カリフォルニアのCARB認証を先駆けて取得。排出ガス規制については、自動車が先行したものの、産業用エンジンの要件も、年々、厳しくなっているとか

クボタエンジンの納入台数は25万台を超えた(記念式典にて 2017年1月)。左は 鎌田事業部長 右 AIXAM社 PRESIDENT フィリップ・コランソン氏

取引開始当初はまだ知る人ぞ知るという小さなメーカーでしたが、今や欧州のコンパクトカー市場でトップシェアを占める一大企業に成長しています。エンジンという動力源を提供することで、世界中の企業の成長をサポートできるのも、産業用エンジンを手掛けるエンジニアならではのやりがい、だと思います。

フェル: おー、自動車にもエンジンを提供されているとは。クボタのエンジンが搭載された自動車が、欧州で走り回っているとは知りませんでした。なんだかうれしいですね。

種田: 搭載機種のバリエーションも含め、多様化かつ高度化していく要請に応えていくには、エンジンのプロとして、ベースとなるエンジンブロックを基本に、お客様のニーズによって変えるところと、絶対に変えてはいけないところもある。そこは各エンジニアの腕の見せどころでもあり、同時に仕事の醍醐味でもあります。

フェル: エンジニア一人ひとりが、担当するエンジン開発にしっかりと責任を持ち、結果にコミットしているからこその世界のクボタエンジンである、と。

種田: 加えて、当社ではディーゼルだけでなく、同じサイズと信頼性を兼ね備えたガソリンや天然ガスエンジンもラインナップしています。「ワンソース・マルチプルソリューション」と呼んでいますが、グローバル化に伴い、様々な地域の排出ガス規制、燃料事情、お客様のアプリケーションにフィットする多様なソリューションを提供すべく、搭載互換性を確保し、ディーゼル、ガソリン、天然ガス、LPGと柔軟に幅広く対応できる体制を整備しています。

燃料の柔軟性(ディーゼル、ガソリン、天然ガス、LPG)→発電機、耕うん機、芝刈り機、自動車、建設機械、トラクタ

クボタのエンジンは、幅広いラインナップにより、多様なアプリケーション・馬力・使用燃料のニーズを満たすことができ、地域によって異なる排出ガス規制・使用環境にも対応できる

フェル: エンジンを替えるだけで、様々な環境、用途に対応できるとは、顧客にとっては万々歳ですね。どんなにハードルの高いオーダーにも応えるとは見上げたプロ根性。ぜひ、エンジニアの方々にお会いしたいですねえ。

種田: では、現役エンジニアたちを紹介します。どうかお手柔らかに。

クボタのエンジンを搭載するAIXAMのCOUPÉ GTI

エンジニア一人ひとりが、エンジンを丸ごと任される

クボタのエンジン事業を支えるエンジニアたち。今回集まってもらったエンジニアたちの他にも多くの精鋭たちを抱える

フェル: 皆さん、やはり機械工学専攻の方が多いのでしょうか。

種田: そうですね。新卒入社の社員の7割が理系で機械工学や電気電子などの専攻出身者が多いですね。

フェル: おっ、女性もいらっしゃる。リケ女(=理系女子)ですね。仕事は何を担当されているんですか。

――主に欧州の外販向けエンジンの設計を担当しています。

フェル: なかなかタフなネゴシエーションが必要となる場面も多そうなお仕事とご推察いたしますが……。

――お客様のご要望をしっかりとお聞きするのはもちろんですが、プロとしての視点や調整・交渉力が求められる場面も数多くあります。日々、いい意味での緊張感を味わいながら、仕事に向き合っています。

フェル: やはり、海外向けエンジンを担当するケースが多いのでしょうか?

種田: 8割は海外向けなので必然的にそうなりますね。赴任はせずとも、海外出張は頻繁にあります。

フェル: 欧米諸国以外にもエンジンを供給しているんですか?

――はい。私は、主にタイ・中国向けのエンジンを担当しています。
――私も、中国やインド向けのエンジンを担当しています。

フェル: 先進国と違う、新興国市場向けならではの設計のポイントや御苦労もあるのでは?

――コストやメンテナンス性が重視される傾向があるので、先進国向けならコモンレールエンジン(排出ガス浄化、低燃費に配慮した電子制御燃料噴射システム)を使うところを、設計で工夫をし、機械制御燃料噴射システムで環境性能を実現することが求められますね。

――中国やインド向けに、ディーゼルエンジンの設計を担当していますが、電子制御を使わず、機械制御で高性能・高燃費のエンジンを製造していくためには、アイデアが必要。制約がある分、やりがいがあります。

実際に自分がつくったエンジンの横で、パチリ。「これは私がつくったエンジンです」と胸を張って言えるのも、一人ひとりのエンジニアが、丸ごとエンジンの設計を任されるクボタだからこそ。「自動車業界のエンジニアには、なかなか味わえない醍醐味ですね」(フェル氏)

種田: 求められるエンジンを製造していく上では、メイン部品をつくっている恩加島事業センターの鋳物製造部門との連携もポイントです。

例えば、軽量コンパクトでありながら高出力。このクボタエンジンの相反する特長を両立させている技術の1つが、「中空ケレン」※1と呼ばれる鋳物の技術です。

その他にも、多岐にわたるニーズに合わせ、エンジンの構造もますます複雑化しています。設計段階から鋳物製造部門とタッグを組み、「これはムリだ」「こうやったほうがいい」などと、日々、侃々諤々(かんかんがくがく)やり合っています(笑)。

フェル: 創業の事業である鋳物製造部門が社内にあるのも、クボタの強み、というわけですね。

おっ、ここにあるエンジンはガソリンとLPGをスイッチで切り替えて使える仕様ですか。これが噂の「ワンソース・マルチプルソリューション」というヤツですね。

種田: はい。先にも申し上げたように、排出ガス規制に加え、国によって異なる燃料事情に合わせた対応も求められます。インドやタイなどの新興国は排出ガス規制がまだ緩く、燃料事情も遅れているため、コスト、メンテナンスを優先したエンジンへのニーズが高い。

ただし、数年もすれば、欧米と同じレベルになるでしょうから、その時点で蓄積してきたノウハウを水平展開していけるのも当社の強みだと考えています。

(※1 高熱が発生するシリンダー間を冷却するために、機械加工ではなく細い水路を鋳抜く鋳造技術。高い冷却効果を得ることで、コンパクトかつ高出力なエンジンを実現)

設計部門と鋳物部門の協働がクボタエンジンの強み

恩加島事業センターでは、キュポラで溶かしたものを低周波炉で保持した材料(注湯)を出湯。クボタエンジンは、この赤く溶けた合金から生まれる。工場見学にも慣れてきたのか、ひるむことなく近づくフェル氏

砂型を形成するための金型についての説明を熱心に聞くフェル氏

軽量コンパクトで高出力なエンジンを製造する上で、カギを握るのがエンジン各部の冷却性能。培ってきた鋳物の技術を生かし、クランクケース内に鋳物で空間をつくる(鋳抜く)型となる「中子」(写真)の精度をアップ。毛細血管のように細かな水路を巡らせることで、冷却機能向上を実現している

恩加島事業センター内にあるクランクケースの仕上げライン。この過程を経て、他の3つのエンジン工場に出荷されていく

マニピュレーターというハンドリングマシンを巧みに使い、砂型からエンジンのクランクケースを取り出すアクロバティックなシーンをじっと見守るフェル氏

自分のエンジンが搭載された建機・産業機器が世界で活躍する醍醐味

フェル: 改めて、クボタならではの仕事の醍醐味について、皆さんの意見を聞かせていただけますか。

――やっぱり「このエンジンは、私が開発しました」と言えることでしょうか。先日、韓国に出張に行ったばかりですが、海外に出張や旅行で行くと、工事現場に目が向いてしまいます。そこで自分のエンジンが乗った建機が活躍していると、ついつい自慢したくなりますね(笑)。

フェル: とはいえ、社外的にはそう大っぴらには話すわけにもいかない……「クボタエンジニアあるある」というところでしょうか(笑)。ベテランのエンジニアの方もいらっしゃいますが、いかがですか?

――入社以来、エンジン開発に携わっていますが、当社の場合、自動車のように何十万台というロットではなく、多品種小ロットかつ高性能をアイデアで実現していく必要があります。

さらに、マイナス何十℃にもなるような寒冷地や、エンジンにとって大敵となる砂埃(すなぼこり)が多く高湿度といった過酷な稼働環境、あるいは数年間まったく使用していないような状況下でも、一発で100%始動が求められるのも、産業エンジンとしての難しさです。

ハードルは高いですが、クボタのあらゆる技術を集結することで、例えば電子制御を使わないメカエンジンが、ハイテクエンジンに負けないポテンシャルを発揮し得ることがある。こうした達成感を味わえるのも、産業用エンジンメーカーならではの醍醐味だと思います。

「とことんエンジンにこだわっていきたい」と語るベテランエンジニアの力強い言葉に、エンジンには一家言あるフェル氏も、心打たれた様子。「飽くなきエンジニア魂、素晴らしいですね」

フェル: 自動車メーカーなら、部品や機能ごとの分業になりますし、つくったエンジンも、自社製品に搭載するのが基本ですが、クボタのように「広く社会の動力源になっている」というのはエンジニア冥利に尽きますね。

また、自動車業界では、若者の車離れやカーシェアリングの競合などによる市場縮小が大きな課題となっていますが、その点、産業用エンジンは、グローバル規模で市場拡大が期待できる。安定的な市場をバックに、高品質なエンジン開発に没頭できるのは、働く場としても非常に魅力的です。

今後、「こういうことがしたい」という目標があれば、ぜひ聞かせてください。

――世界規模で排出ガス規制がますます厳格化していく時代に備え、地球環境に配慮するのは当然ながら、その地ならではの歴史や文化、街の在り方をも守りながら、都市の発展に貢献できるような動力源を広く生み出していきたいです。

――生涯エンジニアとして、とことんエンジンにこだわっていきたい。その観点から、これから進出する大型エンジン市場でNo.1を目指すのはもちろん、IoTなどのハイテク技術も活用し、エンジン搭載後、通信でエンジンの稼働状況などを取り込んでいくような新たな取り組みにもチャレンジし、エンジンの究極の形を突き詰めていきたいですね。

フェル: 飽くなきエンジニア魂、いや実に素晴らしい。御社のテレビCMのメッセージにもあるように、「壁がある。だから、行く。」というわけですね。

環境規制などの新たな社会課題に応えていく上では、機械工学だけでなく、電子工学や化学、物理など、今後、様々な分野の人材が必要になるのではありませんか?

種田: はい。あとはエンジンが好きになってくれる人がいいですね。私もそうですが、ウチの技術者はみんなエンジンが大好きなんですよ。

エンジンのメリットは、手軽に動力を生み出し、かつどこでも使える点にあります。だから、エンジンが搭載されているのは自動車だけじゃない。そこで私たちクボタの出番がある。産業・運搬機械に幅広く搭載され、生活を支えている産業用エンジンの認知度を高め、その魅力、面白さを感じてくれる仲間と一緒にエンジンの世界を盛り上げていきたいですね。

フェル: 130年近く、綿々と受け継がれてきた匠(たくみ)のワザ。一人ひとりのエンジニアのパワーや最先端技術。それが合わさり、時代の要請に応え続けてきたからこそクボタの産業エンジンがある、というわけですね。

「エンジンの未来」、楽しみになってきました。自動車業界の末席を汚す人間として、私も外野からヤジウマ的に貢献したいと存じます。

クボタのエンジンブロックとともに、匠(たくみ)たちとパチリ。「恩加島事業センターの皆さんの頑張りが、クボタのエンジンへと繋がっていくんですね。」とフェル氏は話す

堺臨海工場にディスプレーされている昔のクボタエンジンを前にポーズ。遡ること大正初期、社会の要請に合わせ、農耕用エンジン発動機の開発からスタートし、グローバルに活躍する今のクボタエンジンがある

日経テクノロジーオンラインSpecial フェルディナント・ヤマグチ氏、「ターミネーター」の世界でクボタの「水道管」と「2000種のエンジン」の秘密に迫る。
お問い合わせ先株式会社クボタ