ソーシャル・デバイスSpecial対談 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速

IoT(Internet of Things)の概念を採り入れて製造業を革新する取り組みが工業先進国を中心に進んでいる。「第4次産業革命」とも呼ばれているこのムーブメントは、製造業だけにとどまらず社会全体に大きな影響を与える可能性を秘める。こうした製造業の新たな動向や、製造業におけるIoT基盤を実現するうえでの課題について、先進的なFA機器を積極的に展開している独Beckhoff AutomationでIoTにかかわるSven Goldstein氏と、IoTのキーテクノロジーであるセンシングにまつわる事業を担当するロームの長畑隆也氏が議論した。

長畑氏
 IoTの概念は、あらゆる分野に広がりつつあります。その中で特に目立った動きを見せているのが製造業ではないでしょうか。ドイツ政府が推進する「Industry 4.0」をはじめ、製造業の革新を目指すプロジェクトが世界各地で立ち上がっていますが、いずれもIoTが重要な位置を占めています。この製造業を巡るIoTの動向に、半導体メーカーである我々ロームも注目しています。IoTの普及とともに産業用半導体デバイスの新しい需要が生まれているからです。

 ロームは1958年に、抵抗器メーカーとして創業し、1960年代後半に半導体市場に進出しました。当初は、主にコンシューマ機器向けを中心に製品を展開していましたが、最近では自動車向けと産業機器向けの売上比率を急速に増やしています。私が主に担当しているのは、IoTを実践するうえで欠かせないセンシングにまつわるソリューションを提供する事業です。

 Beckhoff Automationは、ものづくりの現場に向けた製品や技術を手掛けておられますが、IoTにはどのようにかかわっているのでしょうか。
Goldstein氏
 Beckhoff Automationは、1980 年の会社設立以来、PC ベースの制御技術を軸に数多くの製品やソリューションを生み出してきました。産業用PC、駆動装置、I/O(入出力)機器、自動制御ソフトウエアなどを提供しており、それらの主な用途は生産システム、各種自動化機器、ビルオートメーションなどです。本社は、ドイツ北西部のノルトライン=ヴェストファーレン州フェアルにあり、主要製品の工場もここにあります(図1)。また当社は、世界の大手FAメーカーや産業用機器メーカーが採用している産業用オープンネットワーク規格「EtherCAT」の開発元です。トヨタ自動車が、この規格の最新仕様である「EtherCAT P」を工場のIoT化に向けて採用することを、2016年春に発表し、業界で大きな話題になりました。

図1 Beckhoff Automationのプリント基板工場 図1 Beckhoff Automationのプリント基板工場  私が担当しているのは、PLC(Programmable Logic Controller)、NC軸制御、プログラミング環境など多くの機能を網羅する自動制御ソフトウエア「TwinCAT(The Windows Control and Automation Technology)」です。クラウドをはじめとする他のシステムとの接続性や、他社製品との相互運用性を確保するための業務にかかわっています。

 Beckhoff Automationのビジネスの大きな特長は、PC(パーソナル・コンピュータ)のプラットフォームを利用した「PCベース」のソリューションを提供していることです。この特長は、IoTの普及とともにビジネスを発展させるうえで有利だと思っています。高い柔軟性を備えたPCベースのソリューションは、様々なIoT対応機器との接続性を確保しやすいからです。
長畑氏
 IoTに対する高い関心を示す企業は日本で増えています。特に、「第4次産業革命」のブームが世界に広がった2014年ごろから、製造業にかかわる日本企業の間でIoTを活用する機運が急速に高まりました。当初は、情報を収集しながら、導入や事業化の可能性を検討している企業が多かったようですが、最近では若年層の人手不足や技術継承などの社会的課題を背景にIoTをベースにした新しい仕組みをものづくりの現場に実際に導入する動きが活発化してきました。
Goldstein氏
 製造業におけるIoTを巡るトレンドは、「自動化の技術とIT(Information Technology)の融合」と表現できると思います。このトレンドが始まったのは、私たちが自動制御の分野にPCベースのソリューションを提案した約20年前からだと認識しています。つまり、PCベースのソリューションが登場したことで、生産にかかわる様々な設備からデータを収集する仕組みが構築しやすくなりました。これとともに、実際に生産設備から集めた様々なデータを使って生産管理を強化したり最適化したりする取り組みを始める企業が出てきました。製造業におけるIoTの典型的な活用方法の一つですが、現場への実践導入の動きはかなり以前から始まっているわけです。

 ただし当初は、集めたデータを分析するための要件を整えることが焦点でした。特に大きな問題になったのは、収集した大量のデータの蓄積です。データを分析して、有益な情報を抽出するためには、この仕組みが不可欠ですが、大規模ストレージの構築に多額の投資が必要なことから、本格的な導入に踏み切れる企業はなかなかありませんでした。

 この状況を大きく変えたのが、大手ITベンダーなどが提供しているクラウド・サービスです。この登場によって、大量のデータを扱えるITシステムを調達するためのコストが格段に下がりました。しかも生産設備を増設して収集するデータが増えたときにも、クラウドならば素早く対応できます。クラウド・サービスが製造業に普及するとともに、自動制御とITの融合は、ますます加速するでしょう。
長畑氏
 クラウドの普及とともに、いわゆる「ビッグデータ」を活用する動きが活発化していることは、私たちも実感しています。関連する製品や技術に関して問い合わせをくださる産業分野のお客様が最近になってぐっと増えました。

 目下のところ明確なニーズとして捉えているのは、温度、圧力、光など、ものづくりの現場に偏在するアナログ量を検出するセンシング技術です。私たちは、センサデバイスだけでなく、センサからデータをサーバーなどに送信する無線通信モジュールなどの周辺技術も幅広く手掛けています。IoTの普及を後押しするために、これらを個別に提供するのではなく、市場のニーズに合わせて複数の技術を組み合わせ、ユーザーの皆さんが使いやすい形にして提供したいと思っています。その一例が、マイコンを内蔵したセンサ・モジュールや、無線モジュールとセンサデバイスを一体化したモジュールです。このモジュールに実装するアプリケーション・ソフトウエアも併せて提供しています。

図2 EnOcean電池レスシグナルタワーセンサ 図2EnOcean電池レスシグナルタワーセンサ センサ数値に異常が検出された際点灯。シグナルタワーの点灯情報を光のエネルギーで無線送信しアラートを表示させる。  具体的には、モーターの振動や温度を監視する「振動・温度センサ・モジュール」や、製造装置の稼働状態を視覚化するシグナル・タワーの点灯状態を検出する「シグナルタワーセンサ」を現在提供しています(図2)。2017年3月にドイツのハノーバーで開催された大型展示会「CeBIT」では、これらのセンサ・モジュールを使った「マシンヘルスモニタリングソリューション」のデモ機を展示しました(図3)。工場で数多く使われているポンプの稼働状態を監視するシステムです。このデモ機には、「シグナルタワーセンサ」や「振動・温度センサ・モジュール」を含む11種類のセンサが取り付けられています。センサで取得したデータを、ゲートウエイを介してクラウド・サーバーに送信し、そこに蓄積することが可能です。このシステムを利用して生産工程の最適な稼働を維持管理することができますし、故障につながる兆候を事前に検出し、故障が発生する前に対応する予知保全が実現できます。

図3 「マシンヘルスモニタリングソリューション」のデモ機 図3「マシンヘルスモニタリングソリューション」のデモ機
Goldstein氏
 マシンヘルスモニタリング・システムや、これをベースにした予知保全の技術は、生産効率の向上や省エネなど生産現場に多くの利点をもたらすはずです。あらゆる分野の工場でニーズがあるのではないでしょうか。実は、Beckhoff Automationも、予知保全に向けた新しいソリューションの開発を進めているところです。ほかにも、多くのベンダーが、マシンヘルスモニタリング・システムあるいは予知保全に向けたソリューションを市場で展開しています。
長畑氏
 そうですね。予知保全を例に自社のIoTソリューションをアピールする企業は数多くあります。当然、それぞれの企業は、独自の付加価値を市場に提供するために様々な独自技術を用意しているのではないでしょうか。

 もちろんIoTに関連するロームならではの技術も用意しています。その一つが、無線通信技術「EnOcean」とセンサデバイスを組み合わせたセンシング・モジュールです。EnOceanは、極めて小さな電力で稼働させることができるので、身の回りの環境に存在する光や運動などを電力に変換するエナジー・ハーベスティング技術と組み合わせることで、電源や電池がなくても無線通信ができる画期的なソリューションが実現できます。配線による制限から解放され、既存の設備に無理せずアドオンできるので、センサを設置する際の自由度が格段に向上するでしょう。こうした利点は、これから様々な社会課題にIoTを活用するうえで役立つはずです。
Goldstein氏
 IoTの応用システムを実現するうえでセンシングは重要なポイントの一つです。さらに、IoTの仕組み全体を構築するとなると、サービス、機器、通信、デバイスなど様々なレベルの相互連携が必要になります。ただし、全てのレベルを1社で網羅できる企業は、それほど多くはありません。IoTの普及に向けて、これから業界や分野を超えた連携が加速するのではないでしょうか。

 そこで重要な役割を担うのが、分野間あるいは業界間の「共通言語」となる標準規格です。すでに産業用ネットワークの分野では、情報系など制御系以外のシステムとの連携を実現するための標準化が進んでいます。例えば、「EtherCAT」は、情報系システムとの親和性を高めるためにデータ交換標準「OPC UA(OPC Unified Architecture)」に対応しています。この規格は、Industry 4.0の実践戦略に盛り込まれているリファレンス・アーキテクチャ・モデル「RAMI4.0(Reference Architecture Model Industrie 4.0)」にも組み込まれています。こうした標準規格やシステム全体の標準的な枠組みを用意することで、分野や業界が異なる企業の連携が加速し、多様なIoTのソリューションが生まれると思います。
長畑氏
 IoT関連のソリューションを強化するために、ロームは社外との連携にも前向きに取り組んでいます。カスタムLSIのビジネスを通じて、これまでに様々な企業や組織とコラボレーションを繰り返してきました。ここで培ったノウハウを生かして、効果的なコラボレーションを次々と実現しながら、革新的なIoTソリューションを開発するつもりです。

 本日はありがとうございました。
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