ソーシャル・デバイスSpecial対談 電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード

Vol.1 ローム×Beckhoff Automation 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速 Vol.2 ローム×Festo「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に Vol.3 ローム×東京大学 電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード

電気自動車(EV)は、社会を支えるモビリティに大きな変化をもたらす可能性を秘める。そこでEVを巡る技術動向やモビリティの将来像などについて、車載用半導体を展開するロームの代表取締役社長 澤村諭氏と、ワイヤレス給電などEVの本質的な進化を見据えた技術の研究に取り組む東京大学大学院 教授の堀洋一氏が議論した。

澤村氏
 車載用半導体デバイスの新しい需要を生み出す自動車の電動化は、ロームにとって重要なトレンドです。1954 年に抵抗器メーカーとして創業したロームは、1960年代から事業の軸を半導体ビジネスにシフトさせました。以前は民生機器向けを中心に半導体デバイスを展開していましたが、10年前から自動車や産業機器向けの事業を強化しています。いまでは、これら2 つの分野の売り上げが43% を占めるようになりました。自動車の市場においてEVが占める割合は、まだ小さいですが、大きな成長が期待できます。
堀氏
 EVならではの本質的かつ革新的な進化が実現できれば、EVは急速に普及するのではないでしょうか。

 現状のEVは、まだ従来の自動車の概念の範疇にあると思っています。つまり、従来の自動車の動力源をエンジンからモータに置き換えただけの段階です。EVには従来の自動車にはない新しい特性があると考えています。そのベースになるのは、モータがもたらす新たな機能や特長です。つまり、①トルク応答がエンジンよりも早い、②パワートレーンを分散配置できる、③発生トルクが正確に把握できる。この3つです。これらを生かせばEVならではのユニークな付加価値を実現できるでしょう。例えば、モータ駆動だからこそできる微妙な運動制御によって、タイヤのスリップを抑えられます。この機能を利用すれば同じ運動性能を維持しつつタイヤの幅を小さくし、燃費を改善できます。

 このような市場で受け入れられやすい本質的な進化が生まれるたびに、EV市場が飛躍的に拡大するとみています。

次世代技術が現行車の進化をけん引

澤村氏
 現状でも電動化の動きは、業界の当初の見込みを上回る速さで進んでいます。だからといって、市場にある自動車が短期間で一気にEVに置き換わるとは思っていません。従来からある自動車の市場も当面は残るでしょう。それを前提に、現行車両からEV、さらに自動運転車まで視野に入れて車載半導体事業を展開しています(図1)

図1 ロームの電動化車両向けソリューション 図1ロームの電動化車両向けソリューション
堀氏
 自動車に関する新しい技術を巡る動きが加速しており、メディアで取り上げられる機会も増えました。これとともに、あと何年でエンジン車がEVに置き換わるのか、あと何年で自動運転の時代になるのかといった質問を受けることが増えたように思います。ただし、いずれについても急に変わるものではありません。実際には、両方が存在する期間が結構長くあるはずです。自動車のトレンドに合わせて事業を展開するときは、現実的に物事を考えるべきでしょう。
澤村氏
 その通りですね。私たちの車載半導体事業の軸となるテーマは大きく3つあります。「安全」「自動化・ADAS(先進運転支援システム)」「電動化・省エネ」です。「安全」については、市場で高いシェアを誇るディスクリート製品や抵抗器などの汎用部品から、高機能のLSI まですべての車載用製品で高品質を徹底的に追求し、「ゼロディフェクト(不良ゼロ)」を目指しています。

 また、「機能安全」に関する製品開発にも力を入れています。クラスタパネルのLCDディスプレイ化やサイドミラーの電子化が始まっていますが、これら電子システムの故障は重大な事故につながります。ロームでは、構成するIC間で相互に不具合・故障を検出し、事故が発生するのを未然に防ぐ機能を実装したクラスタパネル向け液晶ディスプレイ用チップセットを業界に先駆けて製品化しました。車載機器で求められる機能安全の考え方を、いち早く取り入れた製品です。
堀氏
 自動車の電子化が進むとともに、安全にかかわるエレクトロニクスの用途が、ますます広がるはずです。半導体メーカーの皆さんの役割は、ますます重要になりますね。「安全」以外のテーマについてはいかがですか。
澤村氏
 「自動化・ADAS」については、激増するセンシングデバイスを支える通信IC や安全な電源供給を中心にサポートしています。

 自動車の「電動化・省エネ」はEVだけでなくさまざまな方式の車両に広がっています。欧州を中心に広がりを見せる48Vマイルドハイブリッド車向けにはローム独自の高効率電源技術「ナノパルスコントロール」を搭載した最先端の電源IC、プラグインハイブリッド車やEV のインバータに向けては、ゲートドライバ、SiC(シリコン・カーバイド) パワーデバイスなどを提供しています。
堀氏
 私は大学の研究者なので長いスパンで自動車の進化を捉えて研究に取り組んでいます。具体的にはEVの制御、ワイヤレス電力伝送システム、急速充放電が可能なスーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)の応用などの研究に携わっていますが、これらの研究の前提になっているのは、「100年後のクルマは『モータ』『キャパシタ』『ワイヤレス』で走る」という考えです。

 自動車の動力源が、エンジンからモータへと置き換わるのが大きな流れになるのは間違いないでしょう。ただし、現行のEVがそのまま普及するわけではないと思っています。その理由の一つは、いずれエネルギーの供給方法が問題になることです。現状のEVは、車体に搭載したLiイオン2次電池にエネルギーを蓄えているわけですが、充電のたびに長時間止まっていなければなりません。しかも、電池に蓄えることができるエネルギーは限られています。実はガソリン車が1台に蓄えられるエネルギー量に比べると、EVに搭載したLiイオン2次電池に蓄えられるエネルギー量は桁違いに小さいのです。このためドライバーは、どうしても航続可能な距離を意識しながら運転しなければなりません。

 私は、EVも電車のようにインフラから直接エネルギー供給を受けるのがよいと思っています。信号待ちや料金ゲートなどで停車したときに充電する「ちょこちょこ充電」、道路に設けた充電設備から走行中に少しずつエネルギー供給を受ける「だらだら給電」などが可能になれば、ドライバーは航続距離を考えずに済みます。しかも、1台ごとに大きなエネルギーを持ち運ばないで済むわけです。これらが実現すると、モビリティや社会の新しい将来像が見えてくるでしょう。インフラからエネルギーを供給する仕組みを実現するうえで欠かせないのが、短時間で充放電ができる「キャパシタ」の技術、および電力系統と自動車を無線で接続する「ワイヤレス(給電)」の技術です。
澤村氏
 そのような近未来のシステムを構想するうえで、シーズといわれる先進技術の存在は重要ではないでしょうか。シーズが登場したことをキッカケに生まれるアイデアや、新しい技術によって初めて実現できることがあるからです。私たちは、優れた特性や機能を備えた半導体デバイスを、いち早く提供することで、自動車の進化に貢献できればと思っています。
堀氏
 確かに半導体デバイスは重要なシーズになり得ます。実際、非接触で電力を伝送するワイヤレス給電システムの実用化は、高効率のSiC パワーデバイスが登場して初めて現実的になったと思っています。

 例えば、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らは、2015年5月に東洋電機製造や日本精工と共同で、ワイヤレス給電を利用したインホイールモータで走行するEVを試作しました。インホイールモータは、動力源となるモータを4つの車輪の中に実装する技術です。従来は、ケーブルを使ってモータに電力を供給していましたが、車輪が上下に動く際にどうしてもケーブルに負荷がかかります。試作車では、電磁石の原理を利用した磁界共振結合方式のワイヤレス給電技術を使って、このケーブルを取りました。

 このワイヤレス給電システムでは、94.3%と高い電力伝送効率(ワイヤレスで送信した電力と受信した電力の割合)を実現できましたが、これを可能にしたのがSiCパワーデバイスでした。ワイヤレス給電システムでは、モータを駆動するために必要な直流電圧を、電力変換回路で高周波の交流電圧に変換してワイヤレス伝送できるようにします。この電力変換回路で発生する損失を抑えることが電力伝送効率を高めるための大きなポイントの一つです。藤本准教授らの試作車に搭載したインホイールモータでは、高効率のSiCパワーデバイスを適用することで、この電力変換回路で発生する損失を大幅に抑えることができました。これによって、電力伝送効率を実用レベルまで高めることができたのです。

 さらに同研究グループは、ワイヤレス給電システムを使って、走行中に路面からインホイールモータに電力供給する仕組みを搭載した試作車を2017年3月に発表しています(図2)。この第2世代車ではワイヤレス給電システムだけでなく、昇降圧チョッパ回路やモータ制御インバータにもSiCパワーデバイスを適用し、90%以上の電力伝送効率を実現していました。

図2 東京大学大学院 藤本准教授らが開発した第2世代のインホイールモータ搭載車とその仕組み 図2東京大学大学院 藤本准教授らが開発した第2世代のインホイールモータ搭載車とその仕組み

キーテクノロジーをもっとアピール

澤村氏
 SiC パワーデバイスは、私たちがいま最も注力している製品の一つです。SiCは、これまで半導体材料の主流だったSi(シリコン)よりも、優れた電気的特性を備えた次世代の半導体材料です。比較的大きな電力を扱う回路に実装するパワーデバイスに応用することで、さまざまな機器の省エネや低電力化に貢献します。ただこうしたSiCパワーデバイスの可能性は、必ずしも一般的に認知されているわけではありません。そこで、SiCパワーデバイスの利点を、もっと多くの方々に知っていただくために、ロームはEVのF1 とも呼ばれている電気自動車レースの最高峰「フォーミュラE」で、参戦するVenturiフォーミュラEチームのオフィシャル・テクノロジー・パートナーとして2016年から技術提供をしています。

 フォーミュラEは、EVに関連する最先端技術の、いわば実験場です。2016年/2017年のシーズン3では、駆動システムに実装されているインバータに組み込むSiCショットキーバリアダイオードを提供しました。2017年/2018年のシーズン4および翌年のシーズン5では、さらにSiC MOSFETも提供し、インバータを構成する主なパワーデバイスをすべてSiC化した「フルSiCモジュール」を搭載した車両が参戦します。フルSiC化した最新のインバータでは、2015年/2016年のシーズン2で使用していたSiCパワーデバイス搭載前のインバータと比べて43%も体積を削減。重量では6kgも軽くすることができました(図3)。これによって、車両の走行性能は、さらに向上するでしょう。その成果を楽しみにしています。

図3 VenturiフォーミュラEチームの車両と搭載したインバータの比較(円内はSiCパワーデバイスのウエハ) 図3VenturiフォーミュラEチームの車両と搭載したインバータの比較(円内はSiCパワーデバイスのウエハ)
堀氏
 多くの人が注目する場で優れた技術をアピールすることは重要だと思います。それによって、画期的な応用のアイデアが大学などから生まれるかもしれないからです。インバータやそれに組み込まれる半導体デバイスは、ワイヤレス給電の例にもあるように自動車の電動化において大きな役割を担っています。ところが、システムの進化とともに、存在が見えなくなっています。最近は、モータに周辺の電気回路を実装する「機電一体」が一つのトレンドといわれていますが、そのトレンドが進むと、半導体デバイスの重要さを一般の人々が知る機会がますます減ってしまいます。ぜひ、さまざまな場で新しい半導体デバイスの技術をアピールしていただきたいですね。
澤村氏
 いま社会の変化や技術の進歩を背景にモビリティ全体が大きな変革期を迎えました。その変革の中で私たちの技術や製品が貢献できる機会は数多くあると思っています。自動車の分野に向けた私たちの今後の取り組みにぜひ注目していてください。

Vol.1 ローム×Beckhoff Automation 製造業の新たな時代を拓くIoT 革新技術が自動化とITの融合を加速 Vol.2 ローム×Festo「高効率化」への貢献は企業責任 技術者支援と革新技術が大きな力に Vol.3 ローム×東京大学 電動化の先に見えるクルマの未来 本質的な進化が技術をリード
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