明日のビジネスを創る君に

第1回対談「日本企業が今、渇望する人材とは」

技術を生かし世界で戦うビジネスを創る。日本のエンジニアとリーダーを、そんな経営者へと育てたい 学校法人東京理科大学 理事長 本山 和夫 氏×セブン銀行 常務執行役員 松橋 正明 氏 モデレーター:日経BP総合研究所 所長 望月 洋介

東京理科大学理工学部を卒業後、アサヒビールに入社。国内部門において労務管理や資材管理、物流、人事等を担当。アサヒビール 代表取締副社長、アサヒグループホールディングス 代表取締役副社長、アサヒ飲料 代表取締役社長を歴任。企業経営者として豊富な実績を持つ。2012年12月に学校法人東京理科大学理事就任、2015年 9月から現職。
2001年、銀行業免許を取得したセブン銀行で、サービス/システム企画・開発・運営のデザインを担当。ITを駆使してATMをデジタル化し、数々の画期的サービスを提供する窓口に変えた。また、新規事業探索のセブン・ラボを率い、スタートアップ企業とのオープンイノベーションや産学連携による新事業創出を担っている。
ビッグデータ解析や人工知能など最先端の技術を活用して、従来産業の在り方を一変させるイノベーションが、海外で続々と登場している。日本では、国内初のコンビニ銀行として誕生したセブン銀行が、時代が求める斬新なサービスを次々と実現し、金融業に新風を吹かせ続けている。こうしたイノベーションは、どのような人材によって生み出されているのか。ビジネス創出を指揮するセブン銀行 常務執行役員 松橋正明氏と、世界で活躍できる経営者の育成を目指す学校法人東京理科大学 理事長の本山和夫氏が、今、日本の産業界が求めるビジネスを創出できる人材像とその育成について語り合った。

——セブン銀行は、これまでにも数々の画期的サービスを生み出してきました。これから、どのような新ビジネスを創出していくのでしょうか。

松橋 セブン銀行は、2001年に銀行業免許を取得した新しい銀行です。現在までに、提携金融機関を600社に増やしながら、2万3600台のATMを全国に展開してきました。

 私たちは、生活や社会の中の変化に合わせて、時代が求めるサービスを常に投入し続けることこそが大切だと考えています。これまでにも、ATMを24時間利用可能にしたり、ATMからの海外送金を可能にしたりと、業界初のサービスを率先して始めてきました。直近では、2017年3月には、スマートフォンだけでお金を引き出せる「スマホATM」を開始しました。間もなく、申し込んだ振り込みを即時実行する「リアルタイム振込機能」、お金をレジで受け取れる「現金受取サービス」といったサービスも矢継ぎ早に投入する予定です。

 セブン&アイ・ホールディングス グループには、他社が手を付けないビジネスに、逆張りの発想で取り組む社風があります。セブン銀行は、お客様の困り事を見つけて、他の金融機関がやらない方法で解決していきます。

本山 日本初のコンビニ銀行として開業した2001年当時、ATMから24時間現金を引き出せるサービスは驚きでした。こうしたサービスは、昼夜を問わずお客様が集まるセブン-イレブンだからこそのサービスであり、お金を下ろしたい人を店舗に呼び込むという方法にも感心していました。現在も引き続きサービスが進化し続け、金融業に新風を吹かせていることを知ってますます驚きました。

日常に潜む課題を新サービス創出の起点に

——金融業界ではFintech、医療業界ではMedtech、農業でもAgritechと、最新技術を駆使した新しいビジネスモデル「X(クロス)-tech」が、従来産業の在り方を一変させています。この動きをどう見ていますか。

解決すべき課題を見つけ出す力が必要です。 セブン銀行 常務執行役員 松橋 正明 氏

松橋 これまで業界を隔てていた境界線が、確実に取り払われてきています。特に、新ビジネスを創出する際には、IT業界の最新技術の活用が欠かせない要素になりました。こうした動きは、これからも加速し、より広範なビジネス領域へと広がっていくと考えています。

 ただし、X-techにおいても、ビジネス創出の原則は変わりません。事業者側の視点から商機や技術の活用法を考えるのではなく、お客様側の視点から生活や社会の中に潜む課題を探し、解決策を探ることが重要であり続けるでしょう。今風の言葉で言い換えれば、「デザインシンキング」で考えるということです。

 当社は、「セブン-イレブンにATMがあったら便利なのに」というお客様の声を踏まえて誕生しました。そういった背景もあり、当初は必ずしも銀行業免許を取得する前提ではありませんでした。しかし、ATMには必ず管理銀行が必要であるとか、銀行であれば新しいサービスを提供しやすい点など、スピーディかつ全国一律サービスを展開するために銀行として営業することを決めました。お客様の課題が先にあったため、銀行業の慣習や既成概念にとらわれないサービスを生み出すことができました。

——お客様視点で、かつ最新技術を生かしながら新ビジネスを創出し続けることは簡単ではないと思います。ビジネス創出に携わる人材には、どのようなスキルや知識が必要になるのでしょうか。

松橋 まず、ビジネス創出の起点となる、解決すべき課題を見つけ出す力が必要です。日々、あらゆることに興味を持つ好奇心と、本質的な課題を探り出す発見力が大切になります。ビジネス創出では、お金の勘定をまず考えがちですが、社会課題を起点にして発想することの方がよほど重要です。また、課題解決に向けた画期的アイデアが浮かんでも、実際にビジネスにできなくては意味がありません。実現手段となる技術をよりすぐり、具体的なビジネスやシステムに落とし込む実現力も必要になります。

課題は、意識して発見しないと見えてこないのです。 学校法人東京理科大学 理事長 本山 和夫 氏

本山 時代の変化に対応し、お客様の課題を起点にして新ビジネスを考える社風が、セブン&アイには染みついているように感じます。そして、数々の課題を解決していく中で、経験を積みながら本当に求められるビジネスを創出できる人材が数多く育っているのでしょう。これまでセブン銀行が画期的な新ビジネスを次々と生み出してきた背景を垣間見た思いであり、合点がいきました。

 こうした発想で考えられる人材を育成することは、並の企業では難しいことなのです。私の企業経営者としての経験を顧みても、課題を自ら見つけて、解決できる人材は得難い存在でした。ビジネスの現場で普通に働いていると、毎日のように降りかかってくる問題の解消に追いまくられて、生活や社会の中に内在する本質的な課題にまで思いが及ばないものです。課題は、意識して発見しないと見えてこないのです。

松橋 そうですね。課題の発見と解決に取り組むことの重要性は、社内で徹底しています。

知識の足し合わせでは新ビジネスは生まれない

——セブン銀行のビジネスを因数分解すると、「お客様に寄り添う力」に「金融の技術」と「情報処理技術」を掛け合わせたものと表現できるのではないでしょうか。ビジネス創出を担う人材には、これらの因数に相当する分野の専門的な知識が必要になるのでしょうか。

松橋 もちろん知識はあるに越したことがありません。しかし、知識があるだけでは、技術を有効活用することができません。課題とするテーマに共感し、使う技術を探し課題解決のツールとして使いこなせるまで有効な使いどころや特徴、リスクなどを理解し尽くす必要があります。ここがきっちりとできるか否かが、X-techビジネスを生み出す企業の競争力の源になると考えています。

 ただし、1人のエンジニアが、あらゆる技術に目配りすることは不可能です。必要なときに、迅速に知恵を借りることができる専門知識を持つ仲間たち、社内外の「知のネットワーク」を作っておくことが大切です。当然、自らが特定分野の深い知識を持っていることが前提です。知のネットワークは、ギブ・アンド・テイクで成り立つからです。

 セブン銀行では、新しいビジネスを創出できるエンジニアを2つの軸で育成しています。1つは、ネットワークやクラウドなど1分野での専門性を深めていく軸での育成です。ただし、十分なレベルまで深め切った時点で別の分野に移ってもらい、マルチな専門性を得るよう促しています。もう1つは、さまざまな要因を複合的に扱うことができる総合力を養う軸での育成です。専門性を横断するプロジェクトのオーナーになってもらい、ビジネスの総合的な設計能力を高めます。

1つのテーマをやり切った経験が創造の素地に

——社内で、きっちりとした人材育成指針を持っているのですね。人材育成において、社内ではできない、大学やビジネススクールなど社外の教育機関に期待したい点はどのようなことでしょうか。

松橋 自分で興味を持った1つのテーマについて探究し、やり切った経験を積んだ人材の輩出に期待します。大学やビジネススクールには、卒業研究やゼミなどを通じて、そうしたやり抜く機会と場が数多くあると思っています。

本山 東京理科大学では、理学・工学・経営学を究める人材を教育しています。まさに、1つのテーマをやり通す場を作り、学生に寄り添って研究を支援しています。理科系の大学だから、エンジニアのような専門職の育成だけに注力していると思われがちです。しかし、在校中に携わった研究テーマに関連した研究職や技術職を育成することだけが、私たちの社会的役割だとは考えていません。

 卒業生は、研究を通じて、産業界が求める実践的な課題解決能力を自然と身に付けていきます。専門的な知識やスキルだけではなく、ビジネス創出に欠かせない力の素地が養われているのです。もちろん、学生時代の研究テーマに関係が深い分野で活躍してくれることは無常の喜びです。しかしその一方で、研究テーマにとらわれず、さまざまなビジネスにイノベーションを生み出すために、大学や大学院で培った力を生かすことも大切だと考えています。

多様な人材のぶつかり合いが革新を生む

松橋 外部の教育機関に期待したい点として、もう1つ、さまざまな領域の人が集まるチームを取りまとめ、成果を出す力の育成も期待したいところです。

 ITシステムの構築はチームスポーツであると言われています。多様な専門性、立場の人たちが、お互いにモチベーションを上げ合いながら、プロジェクトを進めていく必要があります。このとき、個々のメンバーの能力はもとより、リーダーの人間力が、プロジェクトの成否を決めます。ゼミやフリーの講座、サークルなど、大学内には、さまざまなコミュニティーがあると思います。こうした場に参加して、多様な人に触れながら経験を積んでもらえたらと思います。

 新しい価値を持つビジネスを生むうえで、組織としての多様性はとても重要です。これはITに限ったことではありません。セブン銀行では、コンビニ、銀行、メーカーといった多様な業種から人材が集まり、違った価値観、異なるスキルを融合させて、異質なサービスを作ることができているのです。多様な人材が1つの仕事に取り組むと、最初は意見が全く合わず苦労が絶えません。しかし、世の中にないサービスを生み出すうえで、この多様性こそが必要なのです。私たちは、こうした組織の中の人材多様性を、意識的に作っています。

本山 東京理科大学、特にビジネススクールであるイノベーション研究科には、講師陣も学生も、卒業生だけにとどまらない多様な経歴の人たちが数多く集まっています。多様な価値観と視点に触れ、その中で研さんしたことは、貴重な経験となることでしょう。こうした多様性を、どんどん学校法人の中に盛り込んでいきたいと考えています。

経営者を目指すエンジニアとリーダーを育てたい

——東京理科大学のイノベーション研究科では、どのような人材の育成を目指しているのでしょうか。

本山 イノベーション研究科の学生は、ビジネスの現場で課題解決のトレーニングを積んで、ある程度の地位に達した人が中心です。そうした人が、次のステップを見据えて、経営者目線から課題解決を考えるための視点と方法を培う場にしたいと考えています。

 東京理科大学では、世界で活躍できる人材の育成を目指して、大学院の再編に取り組んでいます。その一環として、2018年4月にイノベーション研究科を経営学研究科に組み入れ、新たに「経営学研究科技術経営専攻」を設置します。これによって、イノベーション研究科と経営学研究科のリソースを最大限に活用した、時代の要請に応える社会人教育の場が生まれます。

 これまでのイノベーション研究科は、企業の中における技術やビジネスのリーダーに、体系化された技術経営(MOT)の手法を学ぶことを想定した場でした。新たに生まれる技術経営専攻は、起業・イノベーション実現といった経済や経営に力点を置き、ビジネス創出に直結する経験を積める場になります。ここで私たちは、優秀なエンジニアやリーダーが、技術をテコに新しい時代のビジネスを切り開く経営者へと育っていくための手助けをしたいと考えています。

松橋 特に日本では、解決すべき社会課題が数多くあります。難しい課題に果敢に挑戦する人材を、たくさん輩出してほしいですね。

本山 挑戦し続ける人材を育てる管理職も作りたいと考えています。技術経営専攻で得る経験の中で、挑戦することの大切さを知り、それを若い人たちに身をもって伝えられる人材を育てていきます。

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東京理科大学大学院
経営学研究科技術経営専攻(MOT)
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