明日のビジネスを創る君に

第2回|特別インタビュー|時代が求める経営者を目指す君に

「時代を開くイノベーションは多様性から生まれる。純粋培養の人材は通用しない。経営者候補は社外で育成すべき」モルガン・スタンレーMUFG証券 シニア アドバイザー(平成30年4月 東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻 教授 就任予定)ロバート・アラン・フェルドマン 氏 聞き手:日経BP総合研究所 所長 望月 洋介

1971-1976 Yale University New Haven,CT,USA/1978-1984 Massachusetts Institute of Technology Cambridge,MA,USA /1976-1977 Federal Reserve Bank /1977-1978 Chase Manhattan Bank /1981-1982 Bank of Japan /1983- 1989 International Monetary Fund /1989-1997 Salomon Brothers Asia Securities /1998- Morgan Stanley MUFG Securities。
著書に『フェルドマン博士の日本経済最新講義』(文芸春秋社)、『フェルドマン式知的生産術』(プレジデント社)、『一流アナリストの「7つ道具」』(プレジデント社)。
どのような職業が人工知能(AI)に奪われるのかが話題に上るようになった。また、電動化、自動化、シェアリングの広がりなど、自動車業界で起きている百年に一度の大変革が、社会活動そのものを変えようとしている。こうした技術革新は、マクロ経済にも大きな影響を及ぼすことは確実だ。「技術立国」を自任する日本の企業は、世界で勝負できる新しいビジネスを創出し、経済を成長させ続けることができるのか。モルガン・スタンレーMUFG証券 シニア アドバイザーのロバート・アラン・フェルドマン氏に、技術革新がマクロ経済に及ぼす影響と、時代をリードするビジネスを生み出す経営者に求められる資質について聞いた。なお、同氏は平成30年4月に東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻 教授に就任する予定である。

——テスラ、アマゾン、ウーバーなど、デジタル技術を活用して世界を変えてしまうインパクトを持ったビジネスが次々と登場しています。マクロな視点から、こうした現象をどのように見ていますか。

フェルドマン かなり難しい質問です。ただし、現在生まれている新ビジネスによる、需給曲線の変化について考えると分かり易くなると思います。供給についての影響は、比較的簡単です。例えば、従来のタクシーに代わるウーバーやリフトといった会社は、これまでよりもはるかに安く、高い資本効率のビジネスを展開できます。ITを使って効率よくお客さんを獲得できるため、少ないクルマの数、少ないドライバーの数で同じ仕事ができるからです。供給曲線は、外側にシフトします。

技術革新は需要を増やし、同時に減らす

デジタル技術がマクロ経済に与える影響は、GDPのような統計に表れないことすらあります。

——供給の効率が高まるわけですね。

フェルドマン 一方、需要側への影響の評価は、かなり難しいと考えています。先のタクシーの例では、タクシー会社が購入するクルマの台数は減ります。タクシーサービスの需要に注目すれば、ユーザー数が増え、利用頻度が高まる可能性があります。しかし、みんなが気軽にタクシーを使うようになれば、個人向けのクルマが売れなくなるかもしれません。

 また、これまで安定した給料をもらっていたタクシードライバーは職を失いますから、モノを買う余力が減少します。もちろん、ウーバーなどのドライバーとして新たに収入を得る人もいますが、全体の所得の増減は不明です。

——技術革新による需要曲線の変化は、査定が難しそうですね。

フェルドマン そもそも、デジタル技術がマクロ経済に与える影響は、GDPのような統計に表れないことすらあります。例えば、今では音楽をCDのような目に見える形態ではなく、音楽配信などモノの動きが見えない方法で取引するようになりました。こうした電子商取引を統計で捉えることは、極めて難しいのです。このため、実際にはデジタル技術の活用によって生活水準が高まっているにもかかわらず、GDPは増えないといった現象が生じています。

技術革新で資本を作り直す

——では、デジタル技術の活用によって、需要曲線がどのように変化するのかは現時点では分からないということでしょうか。

フェルドマン はい。このため、マクロ経済の成長に与える影響を判断するには、需要側での不確定要因が多く、まだ時期尚早でしょう。マクロ経済の成長は、デジタル技術によって生産性の向上につながる資本の蓄積に掛かっています。

 経済学者の中村隆英先生は、『戦前期日本経済成長の分析』という著書の中で、面白いデータを紹介しています。東京の人口に占める人力車を引っ張る人の割合が、クルマが普及した後のタクシー運転手の割合とほぼ同じだというのです。人力車からクルマへ、車夫からドライバーへ、それぞれの数を減らすことなく、より高効率で生産できる資本へと変えることに成功したわけです。

 今、日本では働き方改革が話題ですが、こうした資本の変化の質と量は、そこでも大事なポイントになります。加藤勝信 厚生労働大臣は、平均総労働時間と各国の労働生産性の相関を示す資料を見せて、「労働時間が少ない国は生産性が高い。だから、労働時間を減らそう」と言いました。これは、本末転倒です。労働時間が少なくて済むのは、それを可能にする高い生産性を生み出す資本を蓄積することが前提です。技術革新によって、どのように資本を作り直すかが、働き方改革のポイントになると思います。

 ただし、1点注意すべきことがあります。馬車からクルマへの移行には、30〜40年の猶予がありました。御者がクルマの運転を覚える時間が十分あったのです。ところが、デジタル技術による資本の変化は、はるかに急速に進んでいます。うまくやらないと、職の転換が追いつかず、失職する人が数多く出てくる可能性があります。

——人的資本の転換には留意する必要がありそうですね。物的資本はどのように変わるのでしょうか。

フェルドマン 技術革新による物的資本の作り直しを考える上で、面白い題材が電気自動車です。電気自動車は、エンジン車に比べて、電池を搭載している分、重くなります。また、電池容量も徐々に増えていますが、効率よく充電する技術に課題を抱えています。これを解決する技術に、ワイヤレス給電があります。実用化できれば、電池のいらないクルマを作れる可能性があります。車両重量を一気に軽くできますから、極めて効率のよい移動手段になります。ただし、その活用には、大規模なインフラの整備が不可欠です。1台1台のクルマに電池を載せた方がよいのか、公的インフラを整備した方がよいのか。資本コストとランニングコストを合わせたトータルコストを精査する難しい判断になります。

社会的課題はイノベーション創出の土壌である

——日本企業は、AIやIoTといったデジタル技術を生かして、マクロ経済の成長につながるような新ビジネスを創出できるのでしょうか。

フェルドマン 私は大いに期待しています。高齢化が顕著な日本では、残り少ない労働者の1人当たりの生産性を上げないと、医療制度、年金制度を維持できません。高齢化社会は深刻な課題ではありますが、日本企業がビジネスを生み出す上で欠かせない題材になると思います。

 これは日本だけではなく米国も同じですが、医療制度は「ヘルスケア」ではなく、「シックケア」を前提に作られています。しかし、高齢化社会では、長く元気に働ける環境を作りたいわけですから、ヘルスケアこそが重要になります。そして、ヘルスケアでは、国の制度ではなく、個人の責任で健康を守る仕組みが必要になるでしょう。生活習慣の改善や日々の運動、食事の見直しなど、ヘルスケアに関連した取り組みは、個人に帰着することばかりだからです。その一つひとつが、イノベーションを生み育む土壌になると思います。

 生産年齢人口は、15歳以上65歳未満の人口と定義されていますが、本当に65歳で終わることを前提に考えるべきか、再考する必要もあるでしょう。65歳を超えても、長く活躍できるようにするには何を支援する必要があるのか。この点は新しいビジネスの起点になるかもしれません。

イノベーション創出には、人材の多様性が必須

——世界で勝負できるビジネスを創出する際、日本企業はどのような強みを生かせばよいのでしょうか。

フェルドマン まず、日本企業の人材面での強みと弱みをきっちりと把握して、強い部分は生かし、弱い部分は補うことが重要です。

 日本企業は、チームワークが得意です。米国や中国の企業と比較して、チームのためにメンバーが動くことに慣れています。また、勤勉であり、平均的な人材の教育水準は高い点も強みです。日本で30年間働いていますが、アシスタントたちのレベルは、香港、ニューヨーク、ロンドンと比べても、断然に高いです。

 その一方で、産業界全体での適材適所の労働力配置がうまくできていない弱点を抱えています。企業間での人材の流動性が低いため、人余りと人不足を同時に抱えている企業が多いように思えます。こうした状態では、新ビジネスが創出できませんし、生産性も上がりません。

——イノベーションの創出には、人材の流動性を高める必要があるのですね。

フェルドマン イノベーションにつながるアイデアは、さまざまな価値観や能力を持った人たちがぶつかり合って生まれます。日本企業は、社内人材を動かして、ある程度の多様性を演出できます。しかし、それだけでは、発想の広がりに限界があります。世界で勝負するビジネスを創るためには、業種間や企業間で人材が活発に出入りする状態を生み出す必要があるでしょう。

 私は、現状を打破する策として「40歳定年制」を提案しています。40歳で一度定年を迎えることが分かっていれば、若い人たちは身を守るために積極的にスキルを身に付けることでしょう。そして、企業間での人材の流動性も高まり、適材適所の配置も容易になります。

経営者候補には旅をさせろ

——日本企業の中で、経営に携わる人材はどう育てたらよいのでしょうか。

フェルドマン 先ほど、日本の平均的な人材は勤勉で教育水準が高いと言いましたが、企業内の役職が上がるに従って教育水準が海外に比べて見劣りしてきます。企業経営を担う人材に、どのように高水準の教育を施すかが日本企業の大きな課題であると考えています。

 大学でPhDを取得した人材を採用しても、ビジネスへの理解が足りず、成果を上げられないことが多いように思えます。むしろ、ビジネスをある程度理解した人材に、PhDやMBAを取るために大学へと送り出した方が、学習意欲も高いですし、成果につながる知見とスキルを養いやすいと思います。自分が何のために勉強しているのか、明確に分かっているからです。有望な人材は旅に出して経営者を育てる。そんな人材育成システムが必要だと思います。

——その点では、東京理科大学大学院の経営学研究科技術経営専攻に期待されることが多いのではないでしょうか。

フェルドマン 技術経営専攻の社会人教育は、日本企業の弱点を補う効果があると確信しています。

 世界をリードする大企業の人材を育てることの重要性はもちろんですが、従業員数が数百人から1000人の中堅企業の経営者にPhDやMBAの取得者が増えると、日本の産業界の力を大いに底上げできるのではと考えています。日本には、世界に通用する技術やサービスを持った中堅企業が数多くあります。そうした企業の経営者が、明確な知見と体系化したスキルを持って経営すれば、その影響力は企業の隅々まで行き渡り、大きな力となることでしょう。

経営者を目指す人材が備えるべき知見とスキル

——経営者を目指す人材は、どのような知見とスキルを備える必要があるのでしょうか。

フェルドマン 私は、2008年に『一流アナリストの「7つ道具」』、2012年のその第2版の『フェルドマン式知的生産術』という本を書きました。そこで挙げた一流アナリストに求められる7つのスキルが、そのまま経営者にも当てはまると思います。

 1番目は「分析力」。バランスシートを読み下す力や統計値からそこに潜む意味をあぶり出す力です。2番目は「プレゼン力」。伝えたいことを確実かつ効果的に伝える力です。3番目は「人間力」。社内外のプロジェクトメンバーや協力者などと、チームワークを生かして働ける力です。4番目は「数字力」。これは数学ができるということではなく、数字をうまく使いこなして仕事を進める力です。5番目は「エネルギー力」。これは、健康管理も含めた、活力を維持する力です。どんなに仕事ができても体を壊してしまっては元も子もありません。6番目は「言語力」。外国語を話せることも大事ですが、さまざまな人の文化や価値観の違いを理解できるようになることが重要です。7番目は「商売力」。常に商売を念頭に置いて、物事を観察し理解することです。

 人材の能力はこれら7つの力の掛け算で決まります。1つがゼロなら全体の能力もゼロです。このため、自分の弱い部分をきっちりと補わないと、せっかくの得意な力も無価値になってしまいます。

専門外のスキルを身に付けると、自分の中に多様性を受け入れる素地ができるようになると思います。

 第2版では、7つの力に「結合力」を加えました。まったく関係ないように思える物事を結びつけて、新しいアイデアを生み出す力です。現在ならばテスラのイーロン・マスク氏、昔ならばアップルのスティーブ・ジョブズ氏がこの力に秀でている代表的な経営者です。

——異分野の知見の結合が、今重要になっているのですね。

フェルドマン 話していて感じたのですが、自分の「多様性を増やす力」も重要な時代になっているのかもしれません。1つの専門分野に詳しいだけではなく、MBAを取得したり、三味線を覚えたりといった専門外のスキルを身に付けると、自分の中に多様性を受け入れる素地ができるようになると思います。イノベーションは多様性から生まれるのですから、これも経営者に求められるスキルではないでしょうか。

秩序を引き出す力、異質な世界を橋渡しする力

——東京理科大学大学院の技術経営専攻では、経営者を目指す人材に、何を提供するのでしょうか。

フェルドマン 大きく2つのことを伝え、育んでいきたいと考えています。

 1つは、「混沌から秩序を引き出す力」です。現代社会は、情報があふれかえり、何が起きているのか分からず、混沌としています。混沌の中から、情報を選び出し、情報同士の関係を洞察して秩序を見つけることがとても重要です。私の授業では、経済学と法律を物差しにして、混沌の中から秩序を見つける力を伝えていきます。

 もう1つは、「橋渡し役の靴屋さんになる力」です。現在のビジネスでは、全然違う世界で生きている人と接して、仕事するケースが増えてきました。例えば、電気自動車の開発では、自動車メーカーと電機メーカーが一緒に仕事する場面があると思います。しかし、それぞれの業界の言葉は違うし、信頼性に対する考え方、製品寿命に対する価値観もまったく異なります。ある業界の常識は、別の業界では非常識であったり、想定外であったりするのです。そうした違いを理解しながら知識やスキルの橋渡ししていくための知恵、つまり靴が必要になります。業界ごとの組み合わせに応じた靴を選ぶための考え方を伝えていきます。

——今、必要な力ですね。私も通いたくなりました。

フェルドマン ぜひ。私のクラスに参加してくださった方には、40代後半、50代の人もいます。この人たちが、私の授業を聞いて、「ああ20年前にこういうことを知っていれば」と言っています。私も耳が痛いのです。50代になって勉強し直そうと考えるのは、日本人の素晴らしいところです。

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