明日のビジネスを創る君に

第4回|特別インタビュー|理科大はいかなる時代の旗手を育てるのか

「世界基準のビジネスを創る力強い経営者を養成する、多様な人材の他流試合道場。これが理科大の新MOT」学校法人東京理科大学 理事長 本山 和夫 氏 聞き手:日経BP総合研究所 所長 望月 洋介

東京理科大学理工学部を卒業後、アサヒビールに入社。国内部門において労務管理や資材管理、物流、人事等を担当。アサヒビール 代表取締副社長、アサヒグループホールディングス 代表取締役副社長、アサヒ飲料 代表取締役社長を歴任。企業経営者として豊富な実績を持つ。2012年12月に学校法人東京理科大学理事就任、2015年9月から現職。
学校法人東京理科大学は、2004年に創設した専門職大学院イノベーション研究科 技術経営専攻(MOT)を大胆に刷新。2018年4月にグローバル基準のビジネススクールとして経営学研究科技術経営専攻(MOT)を新たに設置する。世界中で、最新のITなど科学技術を駆使し、既存ビジネスのあり方を根底から覆す新ビジネスで成功する企業が次々と出てきている。もはや、守旧は滅びを招くとさえ言える状況だ。新しいMOTが目指すのは、こうした激変の世界を相手にできる力強いビジネスを創出する、時代が求める経営者を育てること。そして、新しい時代を開く経営者を育てることである。MOT刷新の狙いと新MOTが果たす社会的役割を、今回の刷新をリードした学校法人東京理科大学 理事長の本山和夫氏に聞いた。

——技術経営専攻(MOT)を刷新し、新たに経営学研究科技術経営専攻(MOT)を新設する狙いをお聞かせください。

本山 従来のMOTは、開発した科学技術を効果的に活用し、いかに企業の成長や社会の発展に役立てていくのか、その方法を考える、どちらかと言えばプロダクト側の視点で技術経営を考える場でした。もちろん、今でも、こうした場が必要なことに変わりがありません。

 しかし、今の日本の産業界を取り巻く環境や、そこで求められる人材像は大きく変化しています。それらを鑑みたとき、理工系の大学である理科大には、人材育成の場として、もっと大切な役割を果たせるのではという思いがありました。企業の経営や社会の発展をまず目的の中心とし、そこに貢献する科学技術の役割について考えるマーケットイン的な発想からの技術経営です。

 いずれの視点に立つとしても技術と経営を扱うことに変わりがありませんが、中心に置くべき目的が真逆になります。こうした発想から技術経営を考える人材を育成するためには、あらたな教育体制が必要になってきます。これが、MOTを刷新しようと考えたきっかけです。

技術を操る経営者を育成

——今、理工系の大学である理科大には何が求められているのでしょうか。

本山 技術の潜在能力を引き出して新しいビジネスを創出し、厳しいビジネス環境の中を勝ち抜いていく。こうした企業経営が、今やグローバル基準となりました。米国をはじめとして、欧州や中国などでも、技術を効果的に活用した新ビジネスで大きなインパクトを世界に与える企業が続々と出てきています。そんな時代に飲み込まれることなく、むしろ技術を道具として操りながら力強く新しい時代を開いていく経営者を、世界と戦える人材を育成する責任が、理科大にはあると思っています。

——これまでの人材育成法では、今求められている経営ができる人材を育てることができないのでしょうか。

本山 日本には、理工系と文科系という、学生や企業の人材をざっくりと二分化して育成・活用を進める文化が定着しています。これが、今、時代が求める人材の育成と活用を阻んでいます。

 理工系の人材は科学技術の研究開発を究めることが当たり前。人材を教育する側も、活用する側も、科学者やエンジニアとして仕事を全うすることを前提にして教育法や活用法を考えてきました。これは、理工系だけではなく、文科系の大学やそこで育成した人材を活用する企業についても同じだと思います。例え、仕事の中で技術に関わるケースがあっても、そこは理工系の人材に任せて、経営や営業、財務、法的な手続きなど文科系の専門性が発揮できる仕事に徹する人が多いように思えます。

 ところが、今の時代、理工系と文科系という区分で業務内容を分別していては、グローバルレベルでのビジネス環境の変化に適応できなくなりました。

 技術畑の人材が経営に加わり、技術開発のトレンドを把握し、そこに潜む本質を見抜いて経営判断を下す必要があるケースが増えています。また、営業畑の経営者も、先端技術の効能を生かしたビジネスモデルの創出が企業の浮沈を決めるようになり、技術に疎いからといって触れずに放置してはいられなくなってきました。実際、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用して、ハイテクとは無縁だった業種のビジネスモデルが一変してしまう可能性が出てきています。

日本の経営者は、確信なく手探りで経営している

——確かに、日本では理工系の人材と文科系の人材が、企業の中でうまくかみ合っていないように見えます。製造業を中心に、経営に参加する最高技術責任者(CTO)を置く企業が増えてきました。これは、お話しされたようなビジネス環境の変化への対応を想定した動きです。

 しかし、CTOの方々と話をすると、「経営会議に参加しても、何を話しているのか分からなくて、ほとんど発言できない」という声を多く聞きます。技術開発一筋で功績を上げて経営にタッチする立場にまで出世した方々ですが、ビジネスの現場で経験を積んだことも知識を蓄えたこともないため、経営者としての視点や価値観、手法が定まらないようなのです。

 逆に、営業畑から経営に入った方は、ビジネス上の課題設定や財務上の問題にはすんなり当たることができます。しかし、お話しにあったように、最新技術が関わるような経営判断を突然迫られても、確信を持った裁定が下せなくて思考停止に陥るのではないかと思います。

論文という目に見える形での成果をやり切った課題解決能力は、企業を経営していくうえで大きな力になるはずです。

本山 理工系の出身者が経営に向いていないわけではないのです。実際、理工系大学を卒業して経営者として大成した事例は日本にもたくさんありますし、世界にはさらに多くいます。そもそも理工系の人材は、学生時代に答えのない研究テーマに取り組み、論文という目に見える形での成果を出すところまでやり切った経験を積んでいるわけです。こうした経験の中で培った課題解決能力は、企業を経営していくうえで大きな力になるはずです。

 また、文科系の素地を持った人が強力なリーダーシップを発揮して世界をリードしているハイテク企業もたくさんあります。製造業の企業も、単に優れた製品を作るだけではなく、作った製品を起点として消費者が求める価値あるサービスを提供していくことが重要になってきています。こうしたビジネスでは、経営トップが技術の活用について理解があるのと同時に、役員クラスが技術と経営について、よどみなく意思疎通できる状態になっている必要があると思います。

座学の知識だけではなく、実践的な知恵を養う

——理工系の素地を持った経営者、技術が分かる文科系の素地を持った経営者を育てるためには、何が必要なのでしょうか。

本山 企業を経営していく上で、ファイナンスやデジタル技術に関する知識、起業家のマインドやグローバル戦略に関する知見などを座学で学ぶことも重要だと思います。こうした知識を得る機会がないまま経営にタッチし、期待される成果も、培ってきた専門性を生かすこともできないまま悶々とする役員は意外に多いと思います。ただし、方法論を身に付けるにしても、ただ本を読んだり、講義を聴くだけでは、それがいかに効果的で素晴らしい方法なのか実感できません。座学だけで勉強した知識では、ビジネスの現場で駆使できる道具にはならないのです。取得した知識を実践的な知恵として身に付けるための経験を、繰り返し積むことができる場が必要になるのではないでしょうか。

 例えば、ビジネスを拡大するための有効な手法の1つであるM&Aを例に挙げましょう。M&Aによって経営課題を解決する際、M&A向けのファイナンス理論などをどんなに勉強しても、それだけでは効果を上げることはできません。企業価値やリスクを論理的かつ定量的に捉える目利きの力を、具体的な経営課題に取り組んでいく中で養っていく必要があるのだと思います。しかし、実際のビジネスの中でM&Aに取り組む経験ができる人はそれほど多くありません。座学だけではなく、ビジネスの現場で直面するような経営課題を題材に、実践的な経験を事前に積んでおくことができる場を提供することが、ビジネススクールが果たすべき役割だと思います。

——世界の中には、M&Aを活用しながら、従来の業種の枠組みを超えてビジネスを拡大し、すごいスピードで進化していく企業が出てきています。日本企業は、じっくりと時間を掛けて企業提携などを考えるのですが、最終的には小さくまとまってしまう傾向があるようです。欧米や中国の企業に比べて、スピード感と大胆さに欠けている印象があります。確かに、こうした現状は、日本企業の経営者の経験不足に原因があるのかもしれません。経営課題に関わる経験を積む場は、M&Aに限らず必要だと思います。

本山 理科大のMOTでは、経営課題を解決するための知恵を養って欲しいと考えています。強調したい点は、企業経営をしていく中で直面するさまざまな問題を解決する知恵だけではなく、企業が掲げるビジョンや目標を達成する上でクリアしなければならない課題を解決する知恵も養っていくということです。

 企業の経営者には、日々困難な課題が次々と出てくるため、その解決に忙殺されてしまいがちです。経営課題を明確にして、それを解決するところまで行き着かない状況に置かれている経営者が多いと思います。ところが、企業を成長させるため、社会に貢献していくため、従業員や株主が幸せになるためには、的確な課題設定とその解決こそが重要になってきます。MOTのような場で、経営課題を明確に定義し、その解決法を考える訓練をじっくりと繰り返しておけば、確信を持って企業競争力を高める取り組みを進めることができることでしょう。

MITスローンスクールを範として内容を一新

新しいMOTは、明日のビジネスを創る経営者を養成する、他流試合の道場のような場になります。

——目指すべき人材育成に向けてMOTを刷新する際、どのような点に留意したのでしょうか。

本山 私たちは、科学技術と経営の実践的な融合に向けた、米国のビジネススクールのようなグローバル水準のマネージメントを学べる場にしたいと考えました。そして、ビジネススクールとして輝かしい実績を持ち、洗練された人材育成を実践するマサチューセッツ工科大学のスローンスクールを範とすべく、同校のマイケル・A・クスマノ教授を理科大の特任副学長として招聘しました。同教授の長年にわたる経験と手腕を借りながら議論を重ね、理科大のMOTのコンセプトを刷新し、教育プログラムも徹底的に作り込みました。

 これまでのMOTは、科学技術の開発や活用に力点を置いていたのですが、新しいMOTでは経営に軸足を移して、起業やイノベーション創出を後押しする創造的なMOTへと変えました。単に既存ビジネスの生産性向上を目指すのではなく、新しいビジネスを創造できる志の高い人材を育成できる体制に変えたのです。

——刷新したMOTは、どのような人材育成の場になるのでしょうか。

本山 新しいMOTは、明日のビジネスを創る経営者を養成する、他流試合の道場のような場になります。講義は、担当教員が作成した講義資料と、各学生が自らの仕事の中で培ってきた実践知を交えながら、具体的な経営課題を題材にした討論、演習、グループワーク、ケーススタディーなどを進めていきます。さらに授業内容に厚みを持たせるために、企業などで実際に経営に関わっている経営者や製品開発に携わっている技術責任者などを特別講師として招き、共に議論していきます。

——どのような学生が集まることを想定しているのでしょうか。

本山 MOTに入学する学生は、刷新前もそうだったのですが、企業の中で技術開発やビジネスの現場で経験と訓練を積んで、ある程度の地位に達した人が多いように思います。ただし、これはあえて傾向を言えばという話で、所属する企業の業種も、年齢も、地位も、性別も極めて多様です。この多様性こそが、他流試合の道場の素地となります。学生同士が刺激し合い、未知の視点や価値観の存在に気付きながらイノベーションを生み出していくため、多様な学生が集まっていることが何より大切なのです。

 また、卒業後にも活用できる「知のネットワーク」を作る上でも、MOTの学生の多様性は重要です。ビジネスにイノベーションを起こす際に、どのような視点や技術の活用が鍵になるのか、全く予測不能です。どんなに優秀な人でも、1人だけの見識では、斬新な発想に至ることは困難でしょう。自分とは違う知識や価値観を持つ知人の発言は、イノベーションの創出を誘発するトリガーになると思います。また、自分が持っていない知識や価値観が求められる時に、すぐに見解を聞ける知人がいることは、大きな力になります。理科大のMOTは、こうした知のネットワークを築く上での中核になることができればと考えています。在学中はもとより、卒業後も同窓会や指導教員との関係性などを通じて学びもフォローしていきます。

多様な背景を持つ教員陣が立体的に生きた知恵を育む

——理科大のMOTでは、どのような内容の教育をするのでしょうか。

本山 新しいMOTでは、6つの教育研究領域を設けました。「イノベーション・起業領域」「戦略と組織領域」「運営とシステム領域」「経済学と財務会計領域」「マーケティングと販売領域」「知財領域」です。

 科学技術と経営を融合させた実践教育を実現するため、教員陣にも多様性のある専門家を新たに数多く招聘しました。それぞれの教育研究領域には、深い学識を持つ「アカデミック(研究)系」、ビジネスの現場を知り専門領域で豊富な実務経験を持つ「ビジネス(実務)系」、汎用性の高い方法論とその活用法を知る「コンサルティング系」という、ABCの視点から専任教員を配し、立体的な教育ができるように工夫しました。

——それぞれの教育研究領域を、簡単にご紹介ください。

本山 イノベーション・起業領域では、新しいビジネスを生み出す上での中核となるイノベーション創出と、それをビジネスに仕上げ、起業していく方法を扱います。イノベーション創出や起業に携わった経験を持つ実務系教員が、方法論と実践を橋渡しする教育を行います。

 戦略と組織領域では、イノベーションを効果的に生かしてビジネス価値を高めるための戦略と、それを企画し実行していく際の組織作りを扱います。ここでは、経験豊富な実務系教員と、戦略論や組織論を専門とする研究系教員が、実務と理論の両面から教育します。

 運営とシステム教育では、企業運営のシステム化に欠かせない道具となった情報通信技術(ICT)を効果的に活用するための方法とその実践を扱います。先進的なICTシステムをリードする企業において経験豊富な実務系教員が、最先端の活用法を伝授します。

 経済学と財務会計領域では、グローバルな経済情勢の理解力と将来を見通す洞察力を養い、さらに企業経営の基本となる財務・会計の知識と経済学を扱います。ここには、経済学の専門知識を持ち、世界を相手に活躍した経験を持つアナリストやファンドマネージャーとして経験豊富な実務系教員が、実践的な知恵を教えます。

 マーケティングと販売領域では、イノベーションのインパクトを広く強く伝えるために欠かせない活動であるマーケティングの最新手法を扱います。特に、現代ビジネスの中で重要性を増しているICTを活用したマーケティングと営業の手法に注力し、そこで用いる最新技術も研究対象とします。ここには、マーケティングのコンサルタントの経験を持つ実務系教員と理論から理解的な学識を持つ研究系教員を配しました。

 知財領域では、技術開発の成果から正当な経済的利益を確保し、保護するための知的財産の戦略的運用を扱います。さまざまな分野の知的財産戦略を先導した経験を持つ実務系教員を配し、理論と実践を結びつけながら研究を進めます。

——どのようなカリキュラムを用意しているのでしょうか。

本山 授業科目は、必修である「コア科目」、履修目的に応じて選択する「MBA(Corporate Entrepreneurship & Strategy)トラック」と「MTI(Management of Technology & Innovation)トラック」、さらに「演習科目」で構成しています。各科目中のそれぞれの講義は、約10年の社会経験を持つマネージャー層が学ぶことを想定した内容になっています。そして、2年間で40単位を修得してもらうことになります。経営実践力の強化につながる課題を与えて、留年させることをいとわず、びしびしと鍛えていきます。

 コア科目では、ファイナンス力や戦略マネージメント力、構想力、リーダーシップ、グローバル戦略力、戦略立案力など、経営に携わる者が必ず身に付けるべき知恵を修得します。MBAトラックでは、経営者教育に力点を置き、経営戦略を策定・実行し、新規事業の開発やベンチャー企業におけるイノベーション創出を担っていく人材を養成するカリキュラムを用意しています。MTIトラックでは、主に理工系出身の方を対象として、新技術の開発から製品化に至るステップの中でイノベーション創出を担うことができる人材を養成します。

——私も通いたくなってきました。

本山 ぜひお越しください。授業を行う神楽坂キャンパスの最寄り駅は、東京の中心に位置し鉄道5路線が交差する飯田橋駅です。駅から徒歩5分以内の場所に教室があります。授業は平日夜間と土曜日に行い、必修科目はすべて土曜日に行うなど、社会人が学びやすい条件がそろっています。

 現在、ビジネススクールとしてのシンボルマークを作っており、理科大のMOTが変化したことと、人材育成機関としての価値を端的に示していきたいと考えています。内容の充実と共に、学生と卒業生が誇れるビジネススクールへと育てていきます。

ページのトップへ
東京理科大学ビジネススクール(社会人向け大学院)
経営学研究科 技術経営専攻(MOT)
「社会人の他流試合の場“東京理科大ビジネススクール”」(H30.4開設)
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-6 PORTA神楽坂
http://most.tus.ac.jp/newmot/