IoTやウェアラブル機器が抱える電源の問題を解決 コイン電池1個で10年動く超低電力DC/DCコンバータIC

IoT(Internet of Things)デバイスやウェアラブル機器のニーズに本格的に応える降圧DC/DCコンバータICをロームが製品化した。無負荷時の消費電流が180nAと極めて小さく、ボタン電池1個で10年間駆動させることが可能だ。このデバイスの登場によって、電源ケーブルなしで長期稼働するIoTデバイスやウェアラブル機器を開発するうえでネックとなる電源の問題が大きく進展する。実現のカギは「Nano Energy®」と呼ばれる同社独自の超低電力化技術だ。

 ケーブルを介して電力を供給することができないIoTデバイスやウェアラブル機器を開発するうえで電源の低電力化は最も重要な課題の一つだ。これらの機器は、電池交換などのメンテナンスなしで数年間は稼働させることができるのが理想である。しかも、できるだけ電池は小型にしたい。こうした要求に応えるには機器の消費電力を徹底的に抑えなければならない。

 電池で長期稼働を前提にした機器では、システム全体の消費電力を抑えるために、間欠動作をさせることが多い。つまり、センサー、通信回路、オーディオ回路、CPUなど電源以外の回路は、通常は停止またはスリープモードにしておき、一定のタイミングあるいは必要なタイミングで通常動作状態に切り替える。この仕組みにおいて、システムのほとんどが停止している状態で最後まで動作しているのが電源ICである。つまり、電源ICの低電力化によって、機器の稼働時間をぐっと延せる。こうした要求に業界でいち早く応えた製品が、低負荷時の消費電流が180nAと小さいロームのシングルチャネル降圧型DC/DCコンバータIC「BD70522GUL」である(図1)。
図1 無負荷時の消費電流が180nAと小さい同期整流降圧DC/DC コンバータIC「BD70522GUL」 図1無負荷時の消費電流が180nAと小さい同期整流降圧DC/DC コンバータIC「BD70522GUL」

100mAhの電池で10年間連続動作

 BD70522GULは、IoTデバイスやウェアラブル機器の理想を現実にするために低電力化に関する高い目標を設定したうえで開発した製品だ。具体的には、放電容量100mAhのコイン型バッテリ1個で、10年間(8万7600時間)連続稼働させることを目標にした。この条件を満たすには、電源ICだけでなくセンサーや通信ICなどを含むシステム全体の消費電流を1.142μA以下に抑える必要がある(図2)。この目標を目指して開発した結果が、180nAと従来製品に比べて格段に小さい消費電流である。無負荷時(機器がスタンバイ状態)の電池駆動時間が、2017年10月時点で市場に出ている他社製品に比べて1.4倍程度。同社従来品と比較すると10倍以上も延びると言う。1セルの太陽電池で動作させることも可能だ。実際に同社は、1セルで動作するBD70522GULのデモンストレーションを、国内外の展示会等で披露している。
図2 コイン電池1個で10年稼働 図2コイン電池1個で10年稼働
 BD70522GULの特長でもう一つ見逃せないのは、低負荷時の効率が高いことだ。負荷電流10μAのとき最大効率90%と、既存の他社製品に比べて格段に効率が改善されている(図3)。これは、データシートに記載されている効率特性を見るとはっきりと分かる。低負荷時の効率改善によって、待機状態の損失を大幅に削減できる。ロームは、こうした優れた特性を発揮するBD70522GULを、IoTデバイスやウェアラブル機器のほか、自然界に存在しながら利用されていない光や振動などを電気に変換するエナジーハーベスティング(環境発電)システムなどにも展開する考えだ。
図3 低負荷時でも高効率 図3低負荷時でも高効率

全工程のノウハウを結集

 消費電力の削減は、エレクトロニクスの分野では普遍的な課題だ。多くの半導体メーカーが、ICの低電力化に関するノウハウを蓄積している。だが、DC/DCコンバータICにおいて無負荷時の消費電流を180nAまで抑えると同時に低負荷時の効率を改善することは、従来の一般的な低電力化の技術やノウハウの延長で実現するのは難しい。今回、これを可能にしたのがロームの低電力化技術「Nano Energy®」である。

 実はNano Energy®は、特定の技術を指す言葉ではない。従来以上に踏み込んだ低電力化を実現するためにロームが開発した様々な新技術の総称である。それらの技術は、回路設計、ICのレイアウト、素材、プロセスなどICの製造工程全般に及ぶ。その中から開発対象に合わせて最適な技術を選択して適用する。素材から製造まで一貫して社内で手掛け、各工程に豊富なノウハウを蓄積している世界でも珍しい半導体メーカーであるロームだからこそできるアプローチだと言えよう。

Nano Energy®適用製品が続々

 BD70522GULについては、従来の正攻法を発展させたアプローチで消費電力を抑制。同時に基準電圧回路や低電力モードからフル稼働状態に切り替える制御監視回路といった、低電力化にともなって特性が落ちる可能性のある回路に新たな工夫を盛り込むことで、パフォーマンスを維持しつつ、かなりの低電力化を進めた。

 つまり、消費電力を抑えるためにインピーダンスを大きくするのが一般的な低消費電流化のアプローチだ。ただし、この手法の場合、ノイズに対する感度が高まり回路全体がノイズの影響を受けやすくなると同時に、低電力化にともなって回路の応答速度が遅くなるという問題も生じる。そこで、BD70522GULでは、ただインピーダンスを調整するのではなく、それにともなう「副作用」を最小限に抑え込めるように、設計初期から回路、レイアウト、製造プロセスなど広範囲に及ぶ最適化を図った。

 言うまでもなく、BD70522GULに適用した技術を含むNano Energy®は、あらゆる電源ICに展開可能だ。シングルチャネルのDC/DCコンバータであるBD70522GULに続いて、多チャネル品などNano Energy®を適用した派生品種を続々と市場に投入する予定だ。パワーマネージメントIC(PMIC)への展開も計画している。IoTデバイスやウェアラブル機器の普及とともに、低電力化に対する要求は一段と厳しくなる。こうした動きを先取りしたBD70522GULをはじめとするNano Energy®適用製品は市場で多くの注目を集めるに違いない。
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