イノベーター達の挑戦 Vol.3「イノベーションとは?」

イノベーションによるパラダイムシフト

全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」で話題のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ代表取締役社長の阪根信一氏が、各界のイノベーターと対談する連続企画の第3弾。
今回はイノベーションを核とした経営戦略と発展プロセスの研究を専門とする経営学者の米倉誠一郎氏を迎え、アカデミックな視点から、日本発のイノベーションの歴史や、あるべき未来像などについてうかがった。

イノベーション=「技術革新」ではない

阪根 本日は日本のイノベーション研究の第一人者でいらっしゃる米倉誠一郎先生に、アカデミックな観点から日ごろ研究、発信されているお話をうかがえればと思います。まずは先生の自己紹介からお願いします。

米倉 一橋大学に学生時代から数えて44年間いまして、昨年3月、馬齢を重ねて63歳で定年になりました。現在は法政大学のイノベーション・マネジメント研究科で、主に外国人学生向けにMBAの授業を行っています。

阪根信一氏

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ
代表取締役社長

阪根信一

University of Delaware(米国)にて化学・生物化学科専攻 博士課程修了。Glenn Skinner 賞(博士課程最優秀賞)受賞。2008年7月FRP専業メーカーのスーパーレジン工業株式会社 代表取締役社長に就任。2014年セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社設立。カーボン事業、ヘルスケア事業の他、全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」を開発するロボティクス事業を推進している。

僕たちが一橋大学イノベーション研究センターを開設したのは、今から21年前の1997年4月のことです。同センターの前身は一橋大学産業経営研究所という名称だったのですが、どうも名前が堅苦しいということで、先輩の野中郁次郎先生(現・一橋大学名誉教授)と一緒に文部省(現・文部科学省)に行き、現在の名称への変更を申し入れたんです。

ところが文部省の担当者から開口一番、「カタカナはまずい。技術革新センターでいきましょう」と言われてしまって(笑)。「イノベーションは技術革新だけじゃない」ということを理解してもらうのに3時間ぐらいかかりました。

阪根 イノベーション=「技術革新」ではないのですね。

米倉 イノベーションという概念は、今から106年前に経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが提唱したものですが、これは5つの要素で構成されています。

技術革新による「新しい製品の生産」だけではなく、「新しい生産プロセスの創出」「新しい市場の開拓」「新しい原料の獲得」「新しい組織の実現」という5つの要素の組み合わせが、イノベーションをもたらすというのが本来の考え方なのです。

阪根 なるほど。マーケットをつくりだすこともイノベーションに含まれるのですね。

米倉 そうです。日本人はイノベーション=「技術革新」と思いがちですが、決してそれだけではないことを理解していただきたいですね。

戦後のイノベーション

阪根 私たちセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは、完全オーダーメードのカーボンゴルフシャフト、快眠をサポートする鼻腔挿入デバイス「ナステント」、全自動衣類折りたたみロボット「ランドロイド」とばらばらな製品を開発していますが、共通しているのは“ものづくりのイノベーション”にフォーカスしている点です。

例えば「ランドロイド」は衣類を折りたたむ全自動ロボットですが、その動作を実現するためにロボティクス、人工知能、画像解析という3つの最新技術を高度に融合させています。ジャパンデザインのシンプルなボディを採用したのは、製品のカタチのあり方についても革新性を徹底追求したからです。

米倉 僕は「ランドロイド」が2016年の「日本イノベーター大賞」(日経BP社主催)優秀賞を差し上げたときに初めて見たのですが、とにかくすごいと思いました。

何がすごいって、「何の役にも立たない道具」だと思ったからです(笑)。しかし、「世の中にないものをつくる」という社是のもとで、それを本当に作り上げてしまったことが素晴らしい。

阪根 当社が「世の中にないものをつくる」という社是を掲げたのは、日本発のイノベーションを世界に送り出したいという強い思いがあるからです。

私が子どものころは、島国の日本からすごいブランドがどんどん世界に飛び出していました。特にソニーのウォークマンが世界的に大ヒットしたのはとても印象的で、日本人として誇らしく思ったものです。

ところが今では、海外の人々だけでなく、われわれ日本人も「日本からはイノベーションが起こらない」と思っています。なぜそうなってしまったのでしょう?

米倉 ウォークマンが素晴らしかったのは、新しい市場を創造したことです。技術面だけを見れば、小型のカセットプレーヤーとヘッドホンを組み合わせただけですから、特に目新しいものはありません。しかし、既存の技術を組み合わせて、「歩きながら音楽を楽しむ」という誰もが思いつかなかったマーケットを創り上げたのです。

ホンダのスーパーカブも同じです。既存のオートバイを誰にでも運転しやすいシンプルな乗り物に変えたことで、いまだにアジアの輸送手段のベースとして利用されています。

米倉誠一郎氏

法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授
一橋大学イノベーション研究センター特任教授

米倉誠一郎

一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(PhD.)。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、1997年より同大学イノベーション研究センター教授。2012~2014年はプレトリア大学GIBS日本研究センター所長を兼務。現在、法政大学、一橋大学の他に、Japan-Somaliland Open University 学長も務める。著書に『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』など多数。

かつての日本のイノベーションは、かゆいところに手が届くモノを創り上げることで成功を収めたのだと思います。

しかし、インターネットが普及し始めたことで、そうした日本の成功パターンが通用しなくなってしまった。「つながる時代」への変化に対応し切れず、モノを単体で売ることにこだわりすぎたのです。

2000年代の初めにソニーの戦略室長を務めていたことがあるのですが、すでに当時のソニーはCDプレーヤーやDVDプレーヤーだけでなく、携帯電話、音楽事業も、映画事業もすべて持っていました。しかし、それらをすべてつないでプラットフォーム化するという発想と決断がなかった。そうこうしているうちに、かつてはソニーに憧れていたスティーブ・ジョブズにiTunesという仕組みを作られ、音楽ダウンロードを入り口に、あらゆるコンテンツがダウンロードできるプラットフォームを握られてしまいました。しかも、インターフェースはコンピューターではなく電話でした。

阪根 なるほど。それぞれの技術や製品は素晴らしくとも、プラットフォームという発想が生まれなかったわけですね。

米倉 それと日本がイノベーションから取り残されたもう一つの大きな理由は、チームの大切さを見失ったからではないでしょうか。

イノベーションを起こすには、経営者が一人ですべてをやろうとするのではなく、ものすごく優秀なエンジニアたちとチームを組んで一緒に新しいものを創り上げていこうとする仕組みが必要です。創業時のソニーには、社長である井深大の隣に盛田昭夫がいましたし、本田宗一郎のそばには藤沢武夫がいた。

チームでやろうという発想がないと、オープンイノベーションも進みません。また、外と積極的につながろうという意識が希薄になるので、プラットフォームも取りに行けなくなるのです。

わからないものが持つ破壊力

阪根 チームということで言えば、当社もライゾマティクスさんに企業ブランディングのサポートを依頼することで、ものづくりにおける表現の重要性を学ぶことができました。米倉先生はこれまで、どのようなモノやサービスにイノベーションを感じてこられたのでしょうか?

米倉 自分にとって「わけのわからないもの」ですね。十数年ほど前に初めてYouTubeに出会ったときの衝撃は、今でも忘れられません。

中国の2人の大学生が学生寮の中で歌うだけの動画を見たのですが、そんな他愛もない動画が600万回も再生されたという事実を知って驚きました。「こんな動画を載せることにいったい何の意味があるのか? サーバーの無駄じゃないか」と(笑)。

しかしさらに驚いたのは、そんな会社をグーグルが2000億円で買収したことです。

自分にとってYouTubeはまったく「わけのわからないもの」だったのですが、そんなものに巨額投資をされる余裕があると、もうかなわないですよね。そういう熱さが、本当の意味でのイノベーションを巻き起こしていくのだと思います。

「ランドロイド」も、ここまで約40億円もの資金を投入して開発してきたそうですが、「わけのわからないもの」にそれほど情熱を注げるというのは、本当にすごいことですね。

阪根 私にとっては「わけのわからないもの」ではなく、意味があるものだと思って作っているんですけどね(笑)。世界中の人々がランドリー行為に費やしている時間をなくしたいという思いで開発に取り組んでいます。

4人家族の場合、母親が衣類を洗う・乾かす・折りたたむというランドリー行為に費やす時間は一生のうち1万8000時間にも及びます。そのうち折りたたみと衣類の仕分けに費やすのは、半分の9000時間(375日)です。これを全自動化すると、一生のうち1年分以上もの時間が解放されるわけです。

米倉 僕なら、こんな機械を使わなくても、子どもに手伝わせれば済む話じゃないかと思うのですが(笑)。

でも、面白いですよね。こういう「わけのわからないもの」が持っている爆発力は、なかなか読めない。初めてiPhoneが登場したとき、今までの携帯電話と完全に取って代わるようになるとは、どれだけの人が想像したでしょうか。重いし、ガラスで覆われているので壊れやすそうだし、ボタンも付いていない。でも、それが今では当たり前になってしまった。

日本にも「わけのわからないもの」に投資できるエコシステムが出来上がらないと、将来はかなり厳しいものになるのではないかと思います。

『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』表紙

米倉誠一郎
『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)

高島秋帆、大隈重信、笠井順八、三野村利左衛門、益田孝、岩崎弥太郎、高峰譲吉、大河内正敏──。明治から昭和初期にかけての日本のイノベーターたちは、どのように現状を打破し、未来を創り出していったのか。彼らが突破した難題、独創的な歩み、挑戦の歴史を辿る。

イノベーターたちの挑戦  supported by Nikkei BP Vol.4
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 阪根信一氏 × 日本交通株式会社 代表取締役会長 川鍋一朗氏
イノベーター達の挑戦 Vol.4

対談イベント開催決定

阪根信一氏(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長)
×
川鍋一朗氏(日本交通株式会社 代表取締役会長)
日時:3月1日(木)16:40~17:30(16:25受付開始)
場所:表参道ランドロイド・ギャラリー
参加無料

受付終了

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