空気予報 空気の未来を考えよう
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空気を見える化したオブジェのはなし
モビール編

2016.01.06

(文/佐藤俊郎)

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有名デザイナーが手がけたtempoブランドのモビール。左からドリルデザインのconstellation / コンステレーション(7344円)、mother toolデザインのperspective / パースペクティブ(1万260円)、村澤一晃のsatellite / サテリテ(9180円)

見えない空気の動きをデザインするオブジェたち

エアコンの送風やストーブの気流、窓から吹き込む風。それこそ誰かがトビラを開けたり、イスから立ち上がって歩き始めたり。その度に、目には見えないけど実は室内の空気は動いている。そんな肌で感じる空気の動きをまるでデザインしているかのように、見える形で表現してくれるのが天井などからぶら下げて鑑賞する「モビール」だ。電力など一切必要なく、無音で静かにふわふわと回る。空気の動きに呼応して、ある意味、意図せず突然動く。でも、その勝手さについつい見入ってしまったりする。しばし、ぼーっとした時間が流れるが、せかせかした毎日に、何ともゆったりとした豊かな時間をもたらせてくれる。

モビールは「動く彫刻」と言われ、室内で過ごすことが多い北欧などで愛好者が多い。どちらかというと伝統工芸的なものや彫刻家が作るアートに近いもの、その逆に動物などをかたどった子ども向けのタイプなどをよく見かける。そうした中で、栃木県足利市でインテリア雑貨などを製造販売するmother tool(マザーツール)が手掛ける「tempo(テンポ)」は一風変わったモビールブランドだ。

mother toolの工房の天井に吊るされたtempoのモビール。

例えば、Vの形状をした3つのステンレスのパーツが天井から1本の糸でつり下がったモビール。パーツの重みで糸がかくかくと折れ曲がり、わずかな空気の動きを受けて自由に回り出す。7本のアクリル棒が微妙なバランスを保ちながら造形を変えていくタイプは、アクリルの上の面だけ青や赤に塗装しているので、横から見ると2層に見え、角度によって表情も変わる。薄い金属の輪っかがつり下がったモビールは各々の金属が磁石でつながり、接合位置を変えると輪っかが縦長や横長に変化する。まるで重力がないかのような浮遊感を漂わす。

その他、木の輪で小宇宙を表現したり、4つの窓が知恵の輪のように交差したりとどれも具体的に何かを表すわけではない。抽象的で、動きもクール。デザインのモダンさも合わさって「大人のモビール」を感じさせる。それもそのはず、デザインしているのはデザインスタジオのDRILL DESIGN(ドリルデザイン)や建築家の寺田尚樹氏、デザインユニットのMUTE(ミュート)といった面々。デザイン界の最前線で活躍する旬の作り手が金属や木など、これまでモビールにはあまり使われなかった素材を用いて、革新的なモビールを考案した。

予期せぬ動きをするモビールについ目が奪われる

実は、モビールはバランスを保つために精度の高い組み立て技術が必要になる。mother tool社長の中村実穂さんの実家は地元で自動車などの部品の組み立て工場を営んでいた。父親から工場を引き継いだときに、精密な工業製品を手作業で組み立ててきた技術を活かせるものとしてモビールに目をつけたのだ。「実際にデザイナーたちに合うと、みなさんモビールに興味があって、作りたいとかねてから思っていたようです。でも、作ってくれるところがなかった。だったら、私たちが作りますと手を挙げたんです」。そして「モビールを作るならいろいろなバリエーションのあるブランドにした方がいいのでは」というDRILL DESIGNのアドバイスもあり、2013年に、空間にリズムを与える意味の名前をつけたtempoを始めた。

モビールのブランド「tempo」を立ち上げたmother tool社長の中村実穂さんとご主人の室橋俊也さん。栃木県足利市にある工房には、自社のモビールが天井に吊るされていた。

各地の合同展などに出展し、モビールを展示していると、モビールブランド自体が珍しいのか来場者の人だかりができるという。「でも、多分モビール自体に目が惹きつけられるのだと思います。モビールは見る側がコントールできない予測しない動きをする。それだからこそ、思わずじっと見てしまうんです」。現在7組のデザイナーと11種類の商品を発売し、天井から吊り下げる式が多いが、2年前からは卓上に置くタイプも発表。また、壁面に取り付け、磁石の力で宙に浮いているように見えるものなども加わり、モビールの概念がどんどん広がっているようだ。