三井物産 環境コミュニケーションリポート 三井物産環境基金の10年 ~未来につながる社会をつくる~ 福島の真の復興への道を拓く 高校生たちの地熱を使った養殖事業

未来につながる社会をつくるため――。地球環境の諸問題に立ち向かう活動・研究を支援すべく、2005年に設立された三井物産環境基金。2015年までにNPO・NGOや大学研究室が517件の支援を受け、活動を発展させてきた。東日本大震災後は、復興への取り組みも支援している。その一つが「高校生による福島の温泉地の地熱を使った養殖実証事業」だ。福島の未来を担う高校生たちの活動と福島の現状を、4人の学生リポーターと共に取材した。

土湯温泉の地熱でウナギを養殖

 福島県福島市の西、吾妻連峰の東南麓に位置する土湯温泉は、豊富な湯量と山の味覚が自慢の温泉地だ。その源泉のほど近くに不思議な光景が広がっている。山間のビニールハウス内に設置された6トン水槽の中で、海水魚であるフグと淡水にいるべきウナギが一緒に泳いでいるのだ。

 これは、福島県立福島高等高校スーパーサイエンス(SS)部生物班の生徒らが実施している養殖の実証実験だ。土湯温泉の地熱と、好適環境水という、海水魚も淡水魚も生息できる特殊な水を利用してウナギやフグを育て、「いずれは産業化し、原発事故後、厳しい状況にある土湯に新しい価値を創出したい」と、目標に向かい取り組んでいる。

 始まりは東日本大震災の翌年に、同校の遠藤直哉教諭が立ち上げた「福島復興プロジェクト」だ。

 「復興には何が必要か、現地に足を運び自分で課題を見つけ解決を図る。そんな経験を通し、行動できる人材を育てたいと考え、希望者を募ったのです」と遠藤教諭が話す。そのとき参加した生徒からこの事業案が出され、13年度からSS部が実施に移した。

捨てられていた温泉水の熱を利用してビニールハウスを暖めるという、エコな養殖事業を考えた福島高校SS部の生徒たち。月1〜2回ほどの頻度で世話と調査のために訪れる

 「福島についての風評被害に対抗するには、インパクトがほしい。そこで生徒たちが考えついたのが、山中での海水魚の養殖でした。好適環境水を用いて、収益性が高く産業化しやすいウナギも一緒に飼育しようというのも、生徒たち自身のアイデアです」

 好適環境水は、岡山理科大学の山本俊政准教授が開発し特許を取得しているものだ。生徒たちの、「福島を助けてほしい」という熱意を受けとめ、さらにこの研究に取り組むだけの高い能力が生徒たちにあると判断した山本准教授が、共同研究という形で好適環境水を提供し、研究テーマを与えてくれた。

 14年度に、まずは福島高校内の水槽で、ニホンウナギとトラフグ、マダイを飼い始め、土湯での実証実験を開始すべく、三井物産に助成を申請。15年末に生徒らの手で養殖装置が設置された。

コラム

魔法の水?!
淡水魚も海水魚も生息可能な「好適環境水」

好適環境水のメリット ●魚の発育が早くなる ●魚の皮が薄くなり、味も向上(ウナギの養殖実験の場合)

 好適環境水は、魚の体液と同等の、海水の4分の1の塩類濃度の、ナトリウム・カリウム・カルシウム溶液だ。海水魚は、口から入ってくる塩分を体外に排出するために、多くのエネルギーを費やすが、好適環境水の中ではその必要がないので、ストレスが低下し、酸素消費量も大幅に減少。魚が早く育つ。

 これは、理論上は分かっていたことだが、マダイを使って日本で初めて実証したのは福島高校SS部生物班だ。この研究は平成26年度日本魚類学会高校生ポスター発表部門最優秀研究賞ほか、数々の研究賞に輝いた。

 一方、ウナギの養殖実験では、薄い塩分の水中では好塩性の微生物も嫌塩性の微生物も死滅するため病気の発生がない。また皮が薄くなり臭みも薄れることも分かってきており、食味の向上が期待される。

福島県立福島高等学校
教諭

遠藤 直哉

好適環境水が入った水槽で一緒に泳ぐフグとウナギが土湯温泉街で展示されている

復興の担い手を育てる

 高校の水槽では、好適環境水での飼育が魚に及ぼす生理学的な影響について、引き続き観察が進められていた。結果、いくつもの学術的に貴重な発見が得られた。またこの養殖なら、皮が薄く臭みのないウナギが、安価で早く育てられると分かり、「土湯の魅力になる」という手応えも得られたという。

 もう一つ大きな成果として、高校生という若い復興の担い手の登場と、その高いポテンシャルを、世間に示した点が挙げられる。活動において、生徒は自ら実験の着眼点を見つけ情報収集し、面識のない大学教授にも教えを請う…。主体的に学ぶ経験からさらに探究心が刺激され、遠藤教諭らが期待した「行動し解決する力」を身に付けていった。

 復興のために何をすべきか―。座したまま論ずる人は多いが、高校生らは自らすべきことを定め、達成に向けて、着々と進み続けているのだ。

 「彼らのような人材が社会に出て後進を育てる側になったとき、より未来へつながる復興がなされるのではないか」

 そう話すのは、SS部への助成の窓口になっている、Bridge for Fukushima(BFF)代表理事の伴場賢一氏だ。BFFは高校生や大学生の社会問題に対する取り組みの支援を得意とする団体で、SS部の活動において、三井物産に助成を仰ぐと決めたのも、伴場氏だ。「環境問題の解決に向けた活動を支援し、“未来につながる社会をつくる”」という理念が、「高校生らの取り組みに合致していると考えた」という。

Bridge for Fukushima
(BFF )代表理事

伴場 賢一

 助成申請を受けた三井物産環境基金は、被災地の高校生の人材育成と地域の資源を生かした産業の創設というこの取り組みが、まさに“本質的な復興”であるとして、その社会的意義を高く評価。すぐに助成が決まった。

 「環境基金の、3年という長い助成期間と使途の自由度の高さも事業に合っています。産業を興すには時間がかかり、“これもやってみたい”という予定外の取り組みも生まれる。その意欲を後押しできる」と話す伴場氏は、「福島の復興には、まったく新しいアイデアが必要。それを考える人材の育成が不可欠」とも強調する。SS部の生徒たちは、まさにその先駆者といえる。

SS部の部員は100人を超える。各研究テーマに分かれ、放課後活発に活動している

未来を拓く次世代のアクション

 取材では、伴場氏の案内で、異なる課題を抱えた福島内の被災地を廻り、復興のために活躍する人々の話を伺った。各地が失ったものの大きさや直面する課題の複雑さに、学生リポーターの受けた衝撃は大きかった。

 しかし、それ以上に胸を打たれたのは、新たな価値創出により、各地域の自立存続を目指す、地域内外から集まった同世代の若者の建設的な行動力であった。

 「自分の研究内容が復興のための産業創出に生かせるのではないか」。「大学に戻ったら、直接経験したからこそ生まれたこの思いを周囲へ伝えるアクションを起こしたい」。地域や専門分野を越え、“今、自分たちに何ができるのか”という思いを共有し合った彼らは、それぞれの未来に向けて歩み出していった。

 三井物産環境基金が創設されて10年。本誌では3回にわたってその助成先の取り組みを学生リポーターの目を通して垣間見てきた。「未来につながる社会をつくる」取り組みは、未来を担う若者たちと共に、三井物産の想いを乗せ、新たなステージを拓いていく。

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