“明日”をつむぐテクノロジー special

ディープニューラルネットワークの見える化など独自技術も提供。現場のデータから知見を獲得しビジネス革新の気付きを与える東芝のアナリティクスAI

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
認識や推定を得意とするAI(人工知能)を産業分野に応用して、ものづくりの効率化や企業活動の革新につなげていこうという動きが活発化してきた。「人を想うIoT」をコンセプトに包括的なIoTアーキテクチャー「SPINEX」(スパインエックス)を提供する東芝は、識別、予測、要因推定、異常検知などに適した「アナリティクスAI」を提案する。
古藤 晋一郎 氏 東芝デジタルソリューションズ株式会社 ソフトウェア&AIテクノロジーセンター ディープラーニング技術開発部部長

技術開発のスピードは衰えることを知らず、さまざまな新しいテクノロジーが登場・普及する中で、特にここ数年の進化が著しいのがAI(人工知能)の領域だろう。

コンピュータが人間を上回るには何年もの歳月が必要と予想されていた囲碁や将棋の世界で、AIの一種であるディープラーニング(深層学習)を用いたプログラムが世界トップレベルの棋士を打ち負かしたことはまだ記憶に新しく、一般のニュースでも大きく取り上げられた。

ほかにも、ショッピングサイトで「あなたへのおすすめ」を提示してくるレコメンドエンジンやスマートフォンの音声エージェントなど、いつの間にか生活の中にもAIが入り込み、意識せずに利用していることも多い。

話題という面ではこうしたコンシューマ系が先行しているが、AIの適用によって多くのメリットが得られると見込まれるのが産業分野である。「AIが得意とする『認識』や『推定』といった機能を活用することで、ものづくりの効率化や企業活動の革新が図れるとして、大きな期待が寄せられています」と、東芝デジタルソリューションズの古藤晋一郎氏は説明する。

生産性向上やビジネス革新を生むアナリティクスAI

こうした背景を踏まえ、東芝は「人を想うIoT」をコンセプトに提供する包括的なIoTアーキテクチャー「SPINEX(スパインエックス)」の一環として産業向けAIに取り組んでおり、将来を見据えた要素技術の研究開発を進めるとともに、応用技術の実用化を進めている(図1)。

同社ではAI技術を大きく2つに分けている。1つが、音声認識や顔認識などのメディア関連技術を体系化した「コミュニケーションAI」(ブランド名「RECAIUS(リカイアス)」)である。

そしてもう1つが本稿で取り上げる「アナリティクスAI」だ。識別、予測、要因推定、異常検知、故障予知、最適化、自動制御などを目的とした東芝のAI技術および関連ソリューションの総称である。話題となっているディープラーニング(ディープニューラルネットワーク)技術ももちろん含まれる。

これまで、企業活動の見える化や分析にはデータマインニングやビジネスインテリジェンス(BI)などの手法が用いられてきたが、アナリティクスAIはそれらのさらに高位の概念とみなせる。データから特徴量を抽出するというAIの優れた性質により、従来の手法に比べてより精度の高い結果や、これまでのツールでは見つけられなかった傾向を把握することができる。

「例えば生産ラインに適用した場合に、経験や勘などベテランスタッフが持つ『暗黙知』を、データから得られる定量的な『形式知』へと変換するのが、アナリティクスAIの役割の1つになると考えられます」と古藤氏は説明する。いわばAIによる「匠(たくみ)の技の伝承」である。さらに、アナリティクスAIから得られた知見が新たな気付きとなれば、生産プロセスの革新へとつなげられるだろう。匠の技から一歩踏み出して、「匠の超越」ともいえる。

図1 東芝の包括的なIoTアーキテクチャー「SPINEX」と、2つのAI体系の位置づけ
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東芝メモリの四日市工場ほかに導入

アナリティクスAIが活用されている事例をいくつか紹介しよう。

代表的な導入先が半導体製品のフラッシュメモリを生産する東芝メモリ株式会社の四日市工場である(図2)。フラッシュメモリの品質および生産性向上を図るために、30万枚/日のSEM(走査型電子顕微鏡)画像と20万枚/日のウェハーマップ画像の識別にAIを適用し、不良品の自動分類や不良原因の自動推定を行っている。製造装置などから収集されるすべてのデータを合わせると20億レコード/日という世界トップクラスのデータ量を扱っているのが特徴である。一般社団法人 人工知能学会から2016年度の「現場イノベーション賞」金賞を受賞している。

JR川崎駅近くの東芝未来科学館も入っているラゾーナ川崎東芝ビル(スマートコミュニティセンター)でもアナリティクスAIを検証中だ。ビル内の35,000ものセンサーが出力するデータをディープラーニングによって分析し、ビルの非定常状態の検知や食堂の需要予測などを行うシステムを試作した。

社外との共創事例も増えつつある。アルパイン株式会社(本社:東京都品川区)とドローンを使用した電力インフラ向け巡視・点検システムの共同開発を進めている。空撮した送電線の画像から異常箇所を東芝のアナリティクスAIで自動検知することで、高効率な点検作業を実現していく。

図2 東芝メモリの四日市工場におけるアナリティクスAIを用いた品質・生産性向上への
        取り組み
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ディープニューラルネットワークの見える化など独自技術を盛り込む

アナリティクスAIにはいくつかの東芝独自の技術が盛り込まれている(図3)。特徴的な4点を紹介しよう。

(1) ディープニューラルネットワークの自動最適化
ニューラルネットワークで設定しなければならない数多くのハイパーパラメータを自動的に最適化する技術を確立した。

(2) モデル更新による自律的進化
ニューラルネットワークにおいては、外部環境の変化により学習済みモデルの精度低下が発生することがある。そこで、推論精度を監視しモデルを自動更新する自律学習フレームワークを研究中である。

(3) AIの見える化
AIの判断がブラックボックス化して捉えられないために、ディープニューラルネットワークが入力のどこに注目して推論結果を導いたのかを可視化する機能を開発した。ディープニューラルネットワークの判断根拠を可視化することで、人に新たな気付きを与えることも可能となる。

(4) 学習データの自動生成
「敵対的生成ネットワーク」(Generative Adversarial Networks)技術を用いて、本物と遜色ない学習用画像を自動的に大量生成し、学習用画像が少ない場合でもより高精度な推論を実現した(本技術はアルパイン共創事例における送電線の画像点検の学習に用いられている)。
図3 匠を超える新たな知見の獲得へ
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現場の人に価値を提供するAI

AIはブラックボックス的な側面が強いために、漠然とした不安や恐れを抱く人も多いとされる。また、AIの導入によって自分たちの仕事が奪われるのではないか、といった拒否反応が出ることもある。

古藤氏はこうした捉え方は十分に理解できるとしながら次のように述べる。「AIはあくまでも人をサポートする技術の1つであると東芝は考えます。AIが出力した認識結果や推定結果を気付きとして、生産ラインの改善や生産プロセスの見直しを最終的に判断するのは人であるべきです。いずれAIが工場全体のオペレーションを担うような未来もやって来るかもしれませんが、現時点では有効なツールの1つとして活用が広がってほしいと願っています」。

なお、東芝は、AIの応用拡大を見据えて、株式会社東芝 インダストリアルICTソリューション社と東芝ソリューション株式会社を一体化して2017年7月に設立した東芝デジタルソリューションズ株式会社の中に、専任部署として「ソフトウェア&AIテクノロジーセンター」を置き、IoTやAIなどの先進技術の開発体制の強化を進めている。

東芝はこうした取り組みを通じて、「人を想うIoT」というコンセプトのもと、アナリティクスAIのさらなる進化と価値向上に努めていきたい考えだ。

【参考資料】
「デジタル化時代のビジネスに "いのちを吹き込むIoT"/東芝の〈SPINEX〉」
「さまざまな産業で動き始めた「東芝のAI」最前線!/〜IoT×ディープラーニング〜」
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