“明日”をつむぐテクノロジー special

フォロワーからテクノロジーリーダーへ 業界トップに並ぶ14TB製品を開発。ヘリウム充填技術も確立し、ニアラインHDDで存在感を示す

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
「データ爆発」の時代を迎えたいま、ストレージシステムのさらなる大容量化のニーズに応えて、東芝デバイス&ストレージ株式会社(以下、東芝)は業界トップに並ぶ容量を持つ14TBの3.5型HDD(ハードディスクドライブ)を開発した。磁気ディスクやヘッドが受ける気流抵抗を軽減するために、ドライブ内部にヘリウムを充填し密閉する高度な生産技術も新たに確立。市場シェアを着実に拡大しながら、HDDのテクノロジーリーダーとしての座をより確かなものとしていく。
藤森 将文 氏 東芝デバイス&ストレージ株式会社 ストレージプロダクツ事業部 ストレージプロダクツ営業推進統括部 HDD営業推進部 HDD営業推進部第一担当 部長代理

1980年代には50社以上あったHDDメーカーも、価格競争や投資負担を背景に企業や事業の淘汰が相次ぎ、現在(2018年1月時点)はワールドワイドで3社を数えるだけになってしまった。そのうちの1社が東芝であり、いまとなっては国内で唯一のHDDベンダーである。

同社のHDD事業の歴史は古く、1967年に市場に参入して以来、すでに50年を超える。現在も、ノートパソコンを含むモバイル機器用の2.5型HDD、デスクトップPC用や小型ファイルサーバー用の3.5型HDD、パフォーマンスを重視したサーバー用の2.5型HDD、ニアライン用3.5型HDDなど、幅広いストレージ製品を提供している(図1)。

ただし、ストレージ市場は決して順風満帆ではない。特にモバイルやデスクトップPCなどのクライアント向けHDDは、フラッシュメモリを使ったSSD(ソリッドステートドライブ)の台頭によって出荷台数および出荷金額ともに減少が続くなど、逆風が吹いている。

それでも、すべてのセグメントを合計した東芝のHDD製品のワールドワイドの台数シェアは2015年の16%から2016年には23%(いずれも東芝調べ)にまで増え、外国勢2社に迫る勢いを見せている。

「HDDベンダーの中で唯一シェアを伸ばしているのが東芝です。正直なところ、これまでは競合の後じんを拝してきたこともありましたが、これからは『テクノロジーリーダー』として、HDD市場をけん引していきたいと考えています」と、東芝ストレージ製品の営業推進を担当する藤森将文氏は説明する。

図1 さまざまなアプリケーションに対応したHDD製品を展開する東芝
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ニアラインストレージ向けの大容量HDDに注力

東芝が近年特に力を入れているのが、データセンターやクラウドで使われる大容量ストレージシステム用のHDDだ。一般に「ニアライン」と呼ばれているセグメントである。

いわゆる「データ爆発(data explosion)」の時代を迎え、PB(ペタバイト)やEB(エクサバイト)といった桁違いの容量を持つストレージシステムが必要とされはじめている。その結果、より少ない台数で構成できる大容量HDDのニーズが急増しているためだ。事業者にとって、ラックの設置面積やシステムの消費電力が抑えられれば、TCO(総所有コスト)を下げられる。IoTの実用化に伴うセンシングデータ(ビッグデータ)や、サーベイランス映像や4K動画などの蓄積もそうしたニーズを後押ししている。

東芝はニアライン用としてこれまで1TBモデルから最大10TBモデルまでを展開してきたが、2017年12月に、業界最大容量(2017年12月時点、東芝調べ)に並ぶ記憶容量14TBを実現したHDD「MG07ACAシリーズ」(図2)を発表し、併せてサンプル出荷を開始した。

「著名なクラウドサービスや検索サービスなどはその時点で市場に出ている最大容量のHDDを採用しています。限られたデータセンタースペースを有効に使いながら大容量ストレージシステムを構成したいというニーズはITサービス業界を通じて根強く、そうした声に応えて開発しました」と、藤森氏は14TB製品の狙いを説明する。

主な仕様は次の通りである。容量は前述の14TBのほか12TBモデルも用意される。回転数は7,200rpm、インタフェースはSATA 6.0 Gbit/s(SATA III)、MTTFは250万時間[*1]、年間ワークロードは550TB[*2]、4Kn(4kBネイティブ)または512e(512Bエミュレーション)に対応したアドバンストフォーマット[*3]のサポートなど、ニアラインにふさわしいスペックを備えている。

記録方式としては従来と同じCMR(Conventional Magnetic Recording)を採用した。CMRは最近提唱されているSMR(Shingled Magnetic Recording)に比べてランダムライト性能に優れるという特徴がある。

  • [*1] MTTF(平均故障時間)は製品寿命の保証や目安ではなく、製品の平均故障率から統計的に算出した値です。
  • [*2] ワークロードは、年間のデータ処理量の目安であり、ホストシステムからのコマンドで実行される読み書きやベリファイによるデータ量として定義されます。
  • [*3] 東芝をはじめとする各HDDメーカーが参画している国際ディスクドライブ協会(IDEMA)が策定した規格。
図2 14TBもの大容量を実現した東芝のニアライン用HDD「MG07ACAシリーズ」
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ヘリウム充填モデルを東芝として初めて製品化

佐藤 巧 氏 東芝デバイス&ストレージ株式会社 ストレージプロダクツ設計生産統括部 HDD製品技術第一部 HDD製品技術第二担当 参事

従来モデルに対して1.4倍もの大幅な容量増を実現したMG07ACAシリーズ。その切り札になったのがヘリウム充填(図3右下)だったと、HDDの設計生産技術を担当する佐藤巧氏は説明する。

「大容量化が進むHDDでは、高速に回転する磁気ディスク(プラッター)や高速に動作する磁気ヘッドにとって、空気抵抗が無視できない大きさになっています。そこで、空気を構成する酸素分子(O2)や窒素分子(N2)に比べて、原子[*4]サイズがはるかに小さいヘリウム(4He)をドライブ内に充填・密閉する技術を新たに開発しました」(佐藤氏)

ヘリウムは空気に比べて分子密度がおよそ1/7と小さいため、気流抵抗(空気抵抗)は数分の1に小さくなり、HDDにさまざまなメリットをもたらす。1つが磁気ディスク枚数の増加で、14TBモデルでは業界に先駆けて9枚を実現した(12TBモデルは8枚)(図3右上)。「高さ26.1mmの中に9枚ものディスクとヘッドを収めるのは技術的に極めて難しいテーマでしたが、他社に先駆けて実現することができました」と佐藤氏は説明する。

また、ヘッド浮上やディスク回転がより安定し、ヘッドの位置決め精度が改善したことは、ディスク上の記録密度を従来モデルに対しておよそ9%高めることに大きく寄与したという。さらに、スピンドルモーターやヘッドアクチュエータの負荷が減ったことで、電力消費効率(W/GB)[*5]は1.5倍以上にアップした。ストレージシステムを収容するデータセンターの消費電力の実質的な削減に寄与するだろう。

ただし、ヘリウムガスは原子サイズが極めて小さいため密閉が難しい。このような課題に対して東芝は、同じように密閉を必要とするリチウム電池の製造で培った溶接技術をMG07ACAシリーズに適用した(図3左下)。「リチウム電池からHDDへ、製品をまたがるテクノロジーおよびナレッジのトランスファーが実現できたのも、社内およびグループ内に幅広い技術を有する東芝ならではの強みと考えています」(藤森氏)

  • [*4] ヘリウムは気体の状態では分子を構成せずに単原子として存在します。
  • [*5] 電力消費効率は、アクティブアイドル時の消費電力を記憶容量で除した値です。
図3 MG07ACAシリーズで採用した数々の技術的ポイント
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テクノロジーリーダーとしてさらなる大容量化を目指す

HDD市場を取り巻く厳しい状況の中、競争力の強化を図るために、東芝はさまざまな取り組みを進めている。1つが横浜事業所(横浜市磯子区)への集約である。競合が拠点を分散させている中、東芝は商品企画、開発・設計、生産製造技術、調達、生産管理、品質管理などの部門を集約し、情報共有や意思決定の迅速化および効率化を図った。生産拠点のフィリピンとの時差も1時間と短いため、生産指示や品質問題などに関してもスムーズなやりとりができているという。

もう1つの取り組みが、磁気ヘッドを提供するTDK株式会社および磁気ディスクを提供する昭和電工株式会社との連携だ。3社の関係は2011年から続いており、現在はHDDの生産拠点である東芝のフィリピン工場を中心にそれぞれの技術者が集結し、次世代HDDの実現に向けた技術開発を進めている。実際にニアライン製品に関しては、今回発表した14TBにとどまらず、20TBクラスの実現も視野にあり、今後のさらなる大容量化ニーズに応えていく考えだ(図4)。

データ爆発の時代を迎えたいま、ビハインドからテクノロジーリーダーとなった東芝のHDD製品は、世界のデータセンターにとって欠かせない存在となっている。

図4 東芝・TDK株式会社・昭和電工株式会社の3社で取り組む
        記録密度向上への限りない挑戦
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