“明日”をつむぐテクノロジー

インダストリアル領域に、AIの力と可能性をさまざまな産業で動き始めた「東芝のAI」最前線!~IoT×ディープラーニング~

人工知能(AI)の1つであるディープラーニング。熱い視線が注がれる中、長年にわたって機械学習や人工知能の研究開発を進めてきた東芝は、大量のセンサーから収集される多種多様なIoTデータの分析に着目。「IoT×ディープラーニングがインダストリアル領域の未来を切り開く」との考えのもと、ディープラーニングに関連するさまざまな基盤技術を提供し、顧客の課題解決を支援する。
天野 隆 氏 株式会社 東芝 インダストリアルICTソリューション社 ソフトウェア技師長

「ディープラーニング(深層学習)」という言葉が世間の耳目を集めたのは2016年3月のことだ。ディープラーニング技術を用いて開発された囲碁プログラムがプロ棋士に圧勝したことで、一躍、時代のキーワードとして取り上げられるようになった。

ディープラーニングは脳の神経回路の仕組みを模した数理モデルであるニューラルネットワークが進化した形態であり、主に認識や分類を得意とする(囲碁も大まかには盤面の画像認識と捉えることができる)。考え方は以前から提唱されていたが、コンピュータの演算性能の向上などを背景に2012年ごろを境に技術開発のスピードが一気に加速した。

従来の機械学習とディープラーニングの大きな違いは、認識に必要な形や色などの特徴量を人間が作成してプログラムに与えるか、プログラム自らが学習するか、という点だ。機械学習では人間が作成したモデルの精度に認識性能が制約を受けるが、ディープラーニングは自らが学習することで人間が気付かない特徴までも抽出するため、はるかに高い認識精度を得ることができる。

画像認識の高精度化を目的に
AI技術の活用が始まる

「進化が著しいディープラーニングを産業やビジネスの現場に生かそうという動きが始まっています」と述べるのは、東芝のソフトウェア技師長 天野隆氏である。IoT/IoE向けソフトウェア技術開発を推進する同氏は「特徴量の学習、抽出、分類、推論までを自動的に処理できるディープラーニング基盤を開発し活用することで、高速且つ高精度な認識処理や新たな発見が期待できるからです」とその重要性を語る。

以前からディープラーニングを活用しているのがNAND型フラッシュメモリを生産する東芝の四日市工場である。1日30万枚のSEM(走査型電子顕微鏡)画像による欠陥検査と膨大に生産されるシリコンウェーハの不良マップのパターン分類にそれぞれディープラーニングを適用。欠陥検査の画像データの自動分類率は、ディープラーニングの導入により49%から83%にまで向上。併せて、不良原因の推定時間を6時間から2時間に短縮するなどの効果を上げている。

東芝とアルパインが共同で進めている産業用ドローンを使った送電線の巡視・点検サービスにもディープラーニングが使われている。保全作業員の立ち入りが難しい山間部などでドローンを飛ばして送電線を撮影し、落雷で生じたアーク痕などを、ディープラーニングを活用した画像認識によって発見しようという取り組みだ。

こうした事例を踏まえて、天野氏は、「現時点では画像認識用途が中心ですが、産業分野においてディープラーニングに期待される価値は、『識別』のほか、『予測/推定』、および『制御』の3点に集約されるでしょう。こうした価値をビジネスに生かすには、ディープラーニングの『精度』(ロバスト性)と『スピード』(リアルタイム性)を高めることが重要であり、東芝はこれらを解決する基盤技術の開発に努めています」と説明する(図1)。

【図1】産業用途におけるディープラーニングの技術マップ
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ディープラーニングは一般に話題性のあるトピックやアルゴリズムそのものに注目が集まりがちだが、周辺を取り巻く基盤技術や活用技術も重要である。ここで東芝の取り組みから3点を紹介しよう。

使いこなしに必要な基盤技術を通じて
ディープラーニングの普及を支援

1. 学習データの不足を補う異常画像の自動生成技術

ディープラーニングの課題の1つが学習データの用意だ。正常状態と異常状態のそれぞれについて十分な数を学習データとして与える必要があるが、異常がまれにしか発生しない状況下で収集したデータだけでは学習が不足してしまい、認識精度を高めることができない。

東芝は、異常画像と正常画像とをディープラーニングで解析し、異常画像と正常画像に類似した画像をそれぞれ大量に生成することに成功。生成した画像データを学習することでオリジナルの学習データの不足を補う手法を開発した。

前述の送電線の巡視・点検サービスでは落雷によるアーク痕の画像が不足していたものの、本技術を適用して異常画像を生成して追加学習を行った結果、十分な認識精度を達成、短時間で点検が必要な箇所を高精度で検出することができた(図2)。

【図2】異常画像と正常画像から、追加学習に用いるための異常画像を自動で生成
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2. 並列分散学習における高速化技術

ディープラーニング処理のうち、主に学習を高速化する手段の1つとしてニューラルネットワークを複数のコンピュータに分散して構成する方法が考案されているが、ノード間のインターコネクト性能が低いと並列度を高めても期待通りの高速化が得られないという課題があった。

東芝は並列分散環境で協調して学習を効率よく行う学習モデルの開発に加えてフラッシュメモリで構成された高性能オールフラッシュストレージに着目。最大100GB/sのインターコネクトと毎秒1000万I/Oという高い性能を生かして、ニューラルネットワークの並列分散学習において、シミュレーションにより、ほぼリニアな性能スケーラビリティが得られることを実証した(図3)。

なお、この取り組みは、インダストリアルIoTの業界団体である「Industrial Internet Consortium」によって、ディープラーニングを推進するIoTテストベッド「Deep Learning Facility」として初めて承認された。

【図3】ディープラーニングの高速化を実現する並列分散構成と高性能ストレージ
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3. ニューラルネットワークの最適化技術

ディープラーニングに用いられるニューラルネットワークにはよく知られているだけでもCNN(畳み込み型ニューラルネットワーク)やRNN(再帰型ニューラルネットワーク)がある。さらに層数などもチューニングが必要で、学習モデルの設計や構築を担うデータサイエンティストはこれらを適切に選択しなければならず、彼らの負担となっていた。

東芝は、多層かつ複雑なニューラルネットワークを自動的に最適化する技術を確立。学習と評価を繰り返しながらニューラルネットワークの層数やニューロン数を調整し最適な条件を自動で探索していくことで、学習モデルを自律的に効率よく最適化していく。

このように、東芝ではインダストリアル領域でディープラーニングの活用を広げ、データ分析・活用における「スピード」と「精度」を向上させることを目指している。(図4)

【図4】インダストリアル領域での活用に向けた東芝のディープラーニング技術
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経営課題の解決にも応用できる
ディープラーニング

ディープラーニングは、例えば人手による属人的なノウハウを自動化したり、経験に頼っていた予測の精度を高めたりなど、ビジネスへのさまざまな展開も可能だ。実際に、ものづくり、マシンビジョンやビデオサーベイランス、メディカル、予報や予測、交通管制、自動運転などを対象に幅広い応用が期待されている。

天野氏は「ディープラーニングおよび基盤技術で、お客さまのビジネス成功に貢献したいと考えています」と述べる。東芝はこれからも先進技術で社会を支えていく。

【補足】
本稿のさらなる詳細については、DiGiTAL T-SOUL Vol.20「IoTデータの価値を見いだす人工知能 -アナリティクスからディープラーニングへ-」を参照いただきたい。

お問い合わせ

  • 株式会社 東芝 インダストリアルICTソリューション社

    〒212-8585 神奈川県川崎市幸区堀川町72-34(ラゾーナ川崎東芝ビル)
    http://www.toshiba.co.jp/cl/

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