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東芝が開く蓄電デバイスの新たな可能性 蓄電で創造する機器の新たな価値。東芝の新材料が蓄電性能を底上げ

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
クルマも、スマートフォンも、搭載する蓄電デバイスの性能が機器の価値に直結する時代になった。蓄電技術での技術革新は、時代の要請である。東芝マテリアルは、電気二重層キャパシタ(EDLC)など性能を大幅に底上げし、機器に新たな価値をもたらす新材料を開発した。

東芝マテリアルは、従来蓄電デバイスの性能を、大幅に底上げできる負極材料を開発した。EDLC比で、蓄電デバイスの持久力を示す指標である「エネルギー密度」を2〜3倍、瞬発力を示す指標であるパワー密度を2〜3倍に向上できる。既に、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成28年度「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」の一環で、新負極材料を活用したラミネート型蓄電デバイスを開発。その効果を実証した(図1)。

この負極材料の応用範囲は広く、そのインパクトは極めて大きい。

図1 東芝マテリアルの新負極材料を活用した蓄電デバイスの特性
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高パワー密度のデバイスを活用し、機器の付加価値を高める

蓄電デバイスの性能を示す指標では、電力の蓄積容量につながるエネルギー密度(単位はWh/kgまたはWh/l)が話題になりやすい。その一方で、蓄電デバイスの応用拡大や使い勝手の向上に直結するパワー密度(単位はW/kgまたはW/l)も、付加価値の高い機器を開発するうえでエネルギー密度と同等以上に重要な指標となっている。

例えば、マツダや本田技研工業は、パワー密度に優れた蓄電デバイスである電気二重層キャパシタ(EDLC)を活用して、減速時に発生するエネルギーを電力として回収し、電装品の利用やエンジンの始動に活用することで燃費削減を実現したクルマを登場させている。こうした電力回生システムは、減速時に発生する大電力を瞬時に充電し、負荷の大きな装置を駆動する大電力を急放出できるEDLCの特性を生かしたものだ。

一方、複数個のEDLCを搭載し、ユーザー体験の向上に活用しているスマートフォンも登場している。近年のスマートフォンでは、瞬間的に大電流が必要になるアプリや機能がある。Liイオン2次電池で急激な負荷変動に対応すると、電池の減りが速く、充放電サイクル特性の劣化も招く。EDLCでアシストすれば、この問題を解決できるのだ。

2次電池とキャパシタ双方の性質を兼ね備えている

佐々木 亮人 氏 東芝マテリアル株式会社 開発・技術部  開発担当 主務

東芝マテリアルの新しい負極材料は、光触媒として知られるWO3(酸化タングステン)をベースにして、酸素欠損を導入することで生まれた。

同社も当初は光触媒での活用を想定して技術開発を進めていたが、「組成がWO2.72になると、抵抗率が減少し(導電率が増大)、なおかつ結晶中に細孔が形成されることが分かりました。WO3には、元々H+やLi+など1価のイオンを結晶中に取り込む特性があります。抵抗率を下げることで2次電池の電極への利用が可能になり、細孔がLiイオンの通り道になると考えました」(図2)と東芝マテリアル開発・技術部 開発担当 主務の佐々木亮人氏。

同社は、Liイオン2次電池の負極をグラファイトからWO2.72に変えて、蓄電デバイスのセルを試作した。一般に、2次電池では電極材料と電解液の酸化還元反応によって蓄電する。ところが、試作した蓄電デバイスでは「EDLCと同様に帯電による蓄電も同時に進んでいます」(佐々木氏)という。重量が88g、サイズが70×110×5.2mm(40ml)の開発したセルでは、エネルギー密度は23.7Wh/kg、パワー密度は16420 W/kgとなる。EDLCのエネルギー密度とパワー密度の両方を引き上げることに成功している。さらに、内部抵抗は0.59mΩと低いため、充放電時の発熱は少なく、レート特性として、100Cレートの放電でも80%以上(1Cでの放電容量を100%)の容量維持率が期待できる。さらに使用温度範囲は−40〜60℃と低温環境下でも使い勝手が良い。

※電池の全容量を1時間で放電させる電流量を1Cと定義し、その電流値の何倍かを表す
図2 WO3への酸素欠損導入による抵抗率低減とLiイオン拡散経路の形成
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新材料の潜在能力を引き出す事業パートナーを求める

平林 英明 氏 東芝マテリアル株式会社 開発・技術部  部長

「開発した負極材料は、『電力回生』『電力需給の平準化』『瞬間的高出力のアシスト』に効果を発揮することでしょう」と同社 開発・技術部 部長の平林英明氏はみて、材料の潜在能力を共に引き出す事業パートナーを探している。応用の一端を紹介しよう。

自動車用電力回生システムに応用すれば、蓄電デバイスの重量を1/3、容積を1/3、エネルギー容量を5倍に改善できる。内部抵抗の改善が進めば、高速走行時からの電力回収も可能になる。同様の用途は、車体旋回時のエネルギーを回収し高出力が必要な作業に活用している建機にも広がる。

海外には、駅での停車時に急速充電して運用する、架線のない電車がある。ここに応用すれば、車両の小型軽量化、走行距離の延長が可能になる。路面からのワイヤレス給電で走行する将来の電気自動車では、充電設備の敷設量の削減に貢献できるだろう。

医療の現場では、X線検査装置やCTスキャンの撮影時に消費する莫大な電力を、高額なピーク電力の契約で結ぶ必要があった。しかし、待機時に蓄電し、撮影時に放電する蓄電システムを使えば、コスト削減が実現する。

IoT用センサーなど、小電力駆動の機器でも、大きな効果が得られる。

例えば、電池交換が不要なIoT用センサーを実現するため、身の回りの振動や光、温度などから電力を得る環境発電に注目が集まっている。環境発電で得られる微小な電力の活用には効果的な蓄電デバイスが欠かせない。東芝マテリアルの新負極材料を用いた蓄電デバイスは、新たな価値を持つ機器を次々と生み出すだろう。

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