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二次電池SCiB™の利用で電力需給を調整「再生可能エネルギーの電力供給に役立てるSCiB™」

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
モバイル機器から自動車、産業用途まで幅広く使われているリチウムイオン二次電池。一般のリチウムイオン二次電池は負極にカーボン系材料が使われているが、チタン酸リチウムを使い、安全性、急速充電、長寿命、低温性能など優れた性能を実現したのが東芝の二次電池「SCiB™」である。SCiB™は様々な分野で使われているが、注目を集めているのが世界最大級の出力を持つ東北電力株式会社向け系統用蓄電池システムである。太陽光発電などの再生可能エネルギーが普及する中、電力の安定供給を図るためには電力の需給調整が必要になる。東北電力(株)西仙台変電所の蓄電池システムは短周期の周波数調整、南相馬変電所のシステムは少し長い周期の調整を行う。東芝ではさらに、性能の向上とコストダウンを図っていく考えだ。

優れた性能を実現した東芝二次電池SCiB™

草野 日出男 氏 株式会社 東芝 社会インフラシステム社 電力流通システム事業部  系統ソリューション技術部 蓄電システム技術担当 グループ長

1990年代初め、携帯電話やノートPC用の小型軽量で充電可能な電池需要の高まりを受け、登場したのがリチウムイオン二次電池である。しかし、当時のリチウムイオン二次電池は寿命が1年ほどしかなく、消耗品扱いだった。その後、用途が広がり、最近ではHV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)、定置用蓄電池システムなどでも使われるようになったことから、電池メーカーは長寿命で高い安全性とエネルギー密度を持つリチウムイオン二次電池の開発に取り組んでいる。

そうした中で、東芝は2000年ごろからSCiB™の開発に着手、佐久工場にて2008年3月から量産開始、2010年には柏崎工場が竣工し、さらなる量産体制を確立した(写真1)。「リチウムイオン二次電池はリチウムイオンがセパレータを介して、正極と負極の間を行き来して、充電と放電を行います。SCiB™の大きな特長は、他社が負極にカーボン系材料を利用しているのに対して、チタン酸リチウム(LTO)を使っていることです。これによって、安全性、急速充電、長寿命、低温性能など優れた性能を発揮することができます」と東芝 社会インフラシステム社の草野日出男氏は語る。

写真1 東芝リチウムイオン二次電池SCiB™(写真はカットモデル)

リチウムイオン二次電池の充放電電流値はCレート[=電流値(A)/容量(Ah)]で表現される。一般的なリチウムイオン二次電池は2C程度での充放電は可能であるが、発熱による劣化が進んでしまう。それに対して、SCiB™は、その5倍(10C)程度の電流で充放電が可能なため、大電流による急速充電ができる。また、20Ahの電池を例にすると60A(3C)を12,000回以上繰り返しても劣化は少なく、長寿命で、充放電回数が多い用途でも長期間交換する必要がない。さらに、他のリチウムイオン二次電池も-10℃以下で放電は可能だが、充電するとリチウム金属が負極表面に析出する可能性がある。析出したリチウム金属はセパレータを突き破り内部短絡の要因となる危険性がある。加えて、利用できる電極表面積が少なくなることから、電池容量が減ってしまう。ところがSCiB™は-30℃でも急速充電が可能で、劣化も少なく、寿命は維持される。

電力供給を安定化させるスマートバッテリ ソリューション

こうした特性が評価され、SCiB™は乗り物やバッテリ組み込み機器、非常用バックアップ電源、産業機械など様々な分野で導入されている。「中でも特に注目されているのが、工場からビル、店舗、家庭まで、電力系統でつながっている施設を広くカバーするスマートバッテリ ソリューション(定置型蓄電池システム)で、その用途は7つに分けることができます(図1)」(草野氏)。

図1  定置型蓄電システムの7つの用途
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1つ目は需給調整用だ。電力会社は電力の需要と供給のバランスを取るために、火力発電と水力発電で調整するが、そこに蓄電池を使い、需給や周波数を調整する。2つ目は再生エネルギー連系用だ。メガソーラーや風力発電は、気象条件によって出力が変動するので、電力会社は需給バランスの調整に苦労する。そこで、メガソーラーや風力発電に蓄電池を併設することで電力系統へ送る電力の変動を緩やかにする。

3つ目は系統負荷平準化である。昼と夜で電気料金が異なる場合、夜間に電力をためて昼間使う(ピークシフト)。電気料金は最大使用電力で契約するので、ピークシフトして電気料金を引き下げることができる。4つ目は配電系統安定化だ。送電線に太陽光発電が接続されると、逆潮流が発生し電圧が高くなる。そこで電池を置き、電力を吸収することで適正電圧に保つ。

5つ目はEV充電ステーション安定化だ。充電ステーションでは急速充電のための電力負担が大きくなる。そこで、急速充電を行っていないときに電力系統から緩やかに蓄電池へ充電しておき、急速充電を行うときは蓄電池から放電することで、電力系統への負荷を軽減することができる。6つ目は大口需要家向けで、ビルや工場などで、災害時の緊急電源やピークシフトによる節電に使う。7つ目が住宅向けで、大口需要家向けと同様の使い方をする。「特に需給調整では短時間で出力が変化するので、たくさんのエネルギー(kwh)をためる容量の大きさよりも、瞬時に大きな電力(kw)が出し入れできる出力の高さが重要です。瞬時に高い出力が出せるSCiB™はそうした用途に最適です」(草野氏)。

短周期の周波数調整のために、東北電力(株) 西仙台変電所で運用開始

2013年11月、東芝は東北電力(株)の「西仙台変電所周波数変動対策蓄電池システム実証事業」で、基幹系統の変電所に設置する出力40MW、容量20MWhの蓄電池システムを受注した。2015年2月に営業運用を開始したこの蓄電池システムは、SCiB™や高効率パワーコンディショナー(PCS)などから構成され、東北電力(株)西仙台変電所の6,000m2の敷地に設置されて、気象条件で出力が変わる太陽光発電や風力発電の接続に伴う周波数変動対策のために利用されている(写真2)。

写真2 東北電力(株)西仙台変電所 大型蓄電池システム

「太陽光発電は天候次第で発電量が大きく変化します。特に曇りの日は、晴れ間が出ると発電量が瞬間的に大きく増え、曇ると減ります。また風力発電はその時の風の強さで発電量が変わります。そのため、その日その日の瞬間的な変動に合わせてリアルタイムで短い周期で需給調整をしなければならず、それを蓄電池システムで行います」(草野氏)

図2  再生可能エネルギーの天候による発電量変化
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太陽光発電の発電量が、減少した場合には大電力を瞬間的に放電しなければならず、また逆に増加した場合には瞬間的に入ってくる大電力を吸収しなければならない。しかし、一般的なリチウムイオン二次電池では吸収しきれず、電池の容量を増やすしかない。そのためには、敷地を広げるか建屋を高くして、大きな蓄電池システムを作らなければならず、コストがかかってしまう。それに対して、SCiB™は高入出力ができるため、大電力でも受け入れることが可能だ。加えて、寿命が長く、劣化が遅いので、10年、20年と長期にわたって利用する変電所設備でも、問題なく対応することができる。

「一般的なリチウムイオン二次電池は劣化が進むので、10年ほどで設備を交換しなければならなくなります。そのため、最初に電池を余分に設置して、劣化しても使えるようにして性能をキープします。そして、年限が来ると電池を交換します。交換作業では蓄電池システムを止める必要が出てきますが、電力設備なので止めるわけにはいきません。SCiB™は長期にわたって交換の必要がなく、劣化の進行も遅いので、そのまま使い続けることができます」(草野氏)。また、SCiB™は電気抵抗が小さく、充放電時のロスが少ないため、電力を効率よく利用できる点もメリットだ。

南相馬変電所にも設置。米国では電力需給調整事業向けに提供

さらに、2015年5月、東芝は東北電力(株)の「南相馬変電所需給バランス改善蓄電池システム実証事業」で、リチウムイオン二次電池では国内最大級の出力40MW、容量40MWhの蓄電池システムを受注、2016年2月に運用を開始する予定だ。この蓄電池システムは西仙台変電所と比べると、より長い周期の変動に対応し、太陽光発電が大量導入され、昼間に発電による電力供給が需要を上回る場合には、蓄電池に余剰電力をため、電力需要が高まる時間帯に蓄電池から放電、需要に対応する。

また、米国では、電力系統の不安定さを防ぐため、発電所の運転契約や需要予想のズレ、再生可能エネルギーの出力変動に対応するために、短時間の需給調整力を確保する周波数調整電力市場を通じての電力調達が始まっている。それに向けて、東芝は住友商事株式会社と再生可能エネルギーデベロッパーRenewable Energy Systems Americas社が行う電力需給調整事業向けに、最大出力6MW、容量2MWhの大型蓄電池システムを受注、2015年12月から運用が開始される。

一方、中規模スマートバッテリ ソリューションは東日本大震災の復興対策として、被災地で太陽光発電と組み合わせる形で、学校など避難所になる施設での導入が進んでいる。また家庭向けの蓄電池システムは東北や北海道などの寒冷地でも屋外に設置可能で、普段はピークカットやピークシフトに、災害などによる電力供給途絶時には緊急電源用として、普及が始まっている。

「現在、SCiB™は高容量化を目指して開発を進めています。高容量化が進み、電池の数が少なくなれば、電池モジュールや蓄電池盤も減らすことができ、コストダウンが可能になります」(草野氏)。東芝は今後、SCiB™をさらに進化させ、高性能のリチウムイオン二次電池として様々な分野で役立てていく考えだ。

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