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最新のハイブリッドシステムにも採用、新型リチウムイオン電池 SCiB™に10Ahの高入出力タイプが登場 最大1000A対応で回生システムに最適

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
安全性の高さで知られる東芝の二次電池「SCiB™」のラインアップに、容量10Ahの高入出力タイプが追加された。使用材料と製造プロセスの徹底的な見直しにより内部抵抗を抑え、瞬間的に大きな電流の出し入れを必要とするシステムなどに適した性能を実現した。すでにスズキ株式会社の新型ワゴンRに搭載され、33.4km/ℓという業界トップクラスの低燃費の実現に貢献している。
瀧澤 由美子 氏株式会社 東芝 インフラシステムソリューション社 産業・自動車システム事業部 電池システム統括部 電池技術部 技術第2担当
村司 泰章 氏 株式会社 東芝 インフラシステムソリューション社 産業・自動車システム事業部 電池システム統括部 電池開発部 セル開発第一担当

軽ワゴンとして業界トップクラス[*1]となる33.4km/ℓの燃費を達成したスズキ株式会社の「新型ワゴンR」(図1)[*2]。この低燃費に大きく貢献しているのが回生ブレーキとモーターアシストを組み合わせた「マイルドハイブリッド」と呼ばれるテクノロジーで、2012年に登場した「eNe- CHARGE(エネチャージ)」および2014年に登場した「S-eNe CHARGE(エス・エネチャージ)」の進化形にあたる。

通常のガソリン車は減速エネルギーを有効活用できていないが、マイルドハイブリッドは減速エネルギーをバッテリーに充電し、発進や加速時にモーターへ電力を供給することにより燃費向上に効果があるシステムである。

ここで、減速時に発生する大電流(減速エネルギー)を瞬時に蓄えつつ、加速時のアシストやアイドリングストップからのクリープ走行のときにモーターに大電流を供給する二次電池としてスズキ株式会社が搭載したのが、東芝が新たに開発した容量10Ahの二次電池SCiB™(エス・シー・アイ・ビー)である(図2)。

従来の「eNe-CHARGE」と「S-eNe CHARGE」に搭載されていた2.9AhのSCiB™に比べて容量が増えたことおよび入出力性能の向上により、モーターによるクリープ走行[*3]が可能となったほか、アシスト頻度向上に貢献した。

[*1] 全高1,550mm以上の軽自動車におけるJC08モード走行燃費として、2017年2月現在。スズキ調べ。
[*2] 2017年2月にフルモデルチェンジした、ワゴンR HYBRID FZ、ワゴンR HYBRID FX、ワゴンRスティングレー HYBRID T、ワゴンRスティングレー HYBRID Xの4モデル。
[*3] オートマチック車においてアクセルペダルを踏まなくてもクルマが低速で進む現象。アイドリングストップ車や電気自動車などでは原理的にクリープ動作がないため、運転感覚の違和感として指摘されることがある。
図1 東芝が新たに開発した10Ahの二次電池SCiB™を搭載したスズキの新型ワゴンR
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図2 回生ブレーキやアイドリングストップ機能の実現に適した、
        高入出力タイプで容量10AhのSCiB™セル(製品のパッケージデザインは実物と異なります)
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チタン酸リチウムの採用などで安全性を高めたSCiB™

SCiB™はリチウムイオン電池の一種に分類されるが、負極に炭素系材料を使った一般的なリチウムイオン電池とは異なり、負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用した点が違いの1つで、図3に示すように大きく6項目の特長を備える。

(1) 安全性:低温環境や長期サイクルの使用でもLi金属が析出しないため、短絡する心配がないなど、発煙・発火の可能性がきわめて低い。

(2) 長寿命:充放電を繰り返しても劣化が少なく、長期間にわたって性能を維持することができる。

(3) 低温性能:-30℃の環境下でも充放電でき、寒冷地での繰り返し使用にも強い。

(4) 急速充電:急速充電が可能なほか、回生ブレーキ等で発生する大電流にも対応できる。

(5) 高入出力:アイドリングストップからのエンジンの再始動などに必要な大電流も供給できる。

(6) 広い実効SOC[*4]範囲:ほぼ0%から100%までを使いきれる。

リチウムイオン電池は発熱・発煙や発火の怖れが指摘されるが、SCiB™は内部で短絡が発生した場合でも原理的に発煙や発火の可能性が低く、実際に内部短絡を模擬した釘刺し試験でも発熱のみで発煙・発火することなく、極めて安全性の高い二次電池といえる。

自動車への搭載もそうした安全性が理由のひとつとして、2.9Ahセルはスズキ株式会社の従来モデルであるeNe-CHARGE、S-eNe CHARGEに搭載され、大容量タイプの20Ahセルは、三菱自動車工業株式会社の電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)グレード「M」」やバス、LRTなどに搭載されている。

なお、SCiB™の平均作動電圧は2.3〜2.4Vであり、一般的なリチウムイオン電池の平均作動電圧の3.6〜3.7Vと比較して低いが、基本的な扱いは一般的なリチウムイオン電池と変わらない。

[*4] State of Chargeの略で「充電状態」を意味する。
図3 発煙・発火の可能性が極めて低いなどの特長を備えたSCiB™
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正極材料の見直しなどで出力抵抗や劣化を抑制

SCiB™のラインアップは、大電流での充放電に対応した高入出力タイプの2.9Ahセルと10Ahセルと、大容量タイプの20Ahセルと23Ahセルとで構成されている(2017年3月現在)。

このうち、スズキ株式会社の2017年2月発売の新型ワゴンRにも搭載されたのが、高入出力タイプの10Ahセルだ。「2012年に2.9Ahセルが自動車に搭載された直後から、より大電流を充放電できるSCiB™セルの構想に着手し、3年以上の時間をかけて製品化を行いました」と、東芝の産業・自動車システム事業部でSCiB™製品を担当する瀧澤由美子氏は説明する。

2.9Ahから10Ahへと3倍以上の容量アップの実現は目先の改良だけでは難しく、抜本的な見直しを必要とした。実際の開発を担当した同事業部の村司泰章氏がまず着目したのがセルの入出力抵抗だった。エンジンルームのような高温環境下で、大型のオルタネータから供給されるエネルギーを蓄えたり、エンジンの再始動やアシストのために瞬間的に大電流を取り出すには、入出力抵抗を徹底的に抑え、かつ高温環境下での抵抗劣化を抑制する必要があるからだ。

「一般的にリチウムイオン電池は、使用、貯蔵において性能劣化(内部抵抗が上昇)するものであり、この性能劣化をいかに抑制するかがポイントのひとつになると考えました。そこで現象を把握するためにセル内部を電子顕微鏡で観測するところから始め、抵抗の増大を招く経時劣化は主に正極側で発生していることを解明し、正極材料の見直しを行いました。合わせて高入出力を実現できるように、セパレータ、電解液などについても改良を行いました」(村司氏)。

また、一般的なリチウムイオン電池では使用が制限される寒冷地など氷点下環境での充放電を可能とし、35℃環境で50Aの充放電を20,000回繰り返しても90%以上の容量を維持し、200Aでの急速充電も可能であるなど、優れた特性を備えている(図4)。

「車載用途にも耐え得るよう厳しいテストを行うとともに、SCiB™の製造を担う柏崎工場(新潟県)とも連携しながら製造プロセスの検討を行い量産に結びつけました」と村司氏は説明する。

図4 高入出力が可能な10Ahセルの主な特性
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適用車種の拡大によって環境負荷低減に貢献したい

10Ahセルは116mm(幅)×22mm(厚)×106mm(高)サイズのセル単体で提供されるが(図2)、複数セルで構成したモジュール製品なども順次展開していく予定だという。

瀧澤氏は、「10Ahセルが提供できるようになったことで、2.9Ahセルでは容量不足からニーズにお応えできなかった3ナンバーの普通乗用車の回生ブレーキやモーターアシストにもお応えできるようになりました」と述べ、自動車メーカーやサプライヤへの提案を広めていく考えを示した。

ちなみにマイルドハイブリッドのような仕組みはガソリン車やディーゼル車の燃費を向上させる切り札のひとつとして捉えられており、安全性の高い SCiB™の容量が大きくなったことで適用が広がれば、最終的には石油資源の節減やCO2の排出削減につながることが期待される。

東芝は、新製品の10Ahセルだけではなく大容量タイプとなる20Ah/23Ahセルも含めて、自動車のほか、EVバス、鉄道、産業機器、再生可能エネルギーを平準化する定置型蓄電池、さまざまな機器や設備の非常用電源など、幅広い分野や用途にSCiB™のメリットを訴求していく考えだ。

* 10Ah / 23Ahセルは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の成果を(一部)活用しています。

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