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低電圧化と水冷化で装置サイズを小型化 JR西日本の豪華寝台列車「瑞風」。東芝のハイブリッドシステムが快適な鉄道の旅を提供

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
鉄道車両制御システム数多く手掛けてきた東芝は、西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本)の豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(トワイライトエクスプレス・みずかぜ)のハイブリッド駆動システムを開発した。瑞風に装備されるさまざまな機器や設備の都合から、床下ではなく屋根上に搭載できるように、主変換装置(整流器、昇圧コンバーター、VVVFインバーターを一体にした装置)の大幅な小型化を実現。併せて、バッテリーとモーターも供給した。

「美しい日本をホテルが走る。 〜上質さの中に懐かしさを〜」をコンセプトとしてJR西日本が2017年6月に運行を開始した「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(トワイライトエクスプレス・みずかぜ、以下「瑞風」)(写真1)。

「瑞風グリーン」と呼ばれる光沢のある濃い緑色にゴールドのストライプをまとった車体は、2015年3月まで定期運行していた豪華寝台特急「トワイライトエクスプレス」を彷彿(ほうふつ)とさせながらも、独特かつ圧倒的な存在感を放っている。

運行プランは5つ[*1]。京都駅または大阪駅[*2]と下関駅との間でルートが設定されており、1泊2日の山陰コース(下りまたは上り)、同じく1泊2日の山陽コース(下りまたは上り)、および2泊3日の山陽・山陰コース(周遊)がある。

写真1 「美しい日本をホテルが走る。」をコンセプトに開発された
            JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(写真提供:JR西日本)
  • [*1] 2018年3月現在
  • [*2] 山陽・山陰コース(周遊)のみ、到着地は京都駅または新大阪駅

シリーズ・ハイブリッド方式で非電化区間にも対応

瑞風の車両(87系)は、非電化区間がおよそ2/3を占める山陰本線などの路線でも運行できるように、ディーゼルエンジンを搭載したいわゆる気動車として開発された。ただしエンジンを直接の動力源とするのではなく、加速性能の向上や減速時の回生ブレーキによる省エネ化(回生電力をバッテリーに充電し、加速時にその電力を再利用すること)を目的に、モーターとバッテリーを使ったシリーズ・ハイブリッド方式(ディーゼル・エレクトリック方式)が採用されることになった。

その心臓部ともなるハイブリッド駆動システムの開発を担当したのが東芝である。

構成は図1のとおりで、エンジン発電機で発電した交流電力を直流に変換する「整流器」、バッテリーの直流電圧をより高い電圧に変換する「昇圧コンバーター」、および整流器と昇圧コンバーターから出力された直流電圧を交流に変換してモーターを駆動する「VVVFインバーター」[*3]から構成される「主変換装置」を新たに開発。また、モーターとバッテリーも供給した。

動作の概要は次のようになる。

今井 桂一郎 氏 東芝インフラシステムズ株式会社 鉄道システム事業部 車両システム技術部 国内ユーザー担当 主務
(1)加速時(力行時):ディーゼルエンジンで発電機を回し、その電力とバッテリーに蓄えておいた電力を使ってモーターを駆動する。

(2)減速時(回生時):モーターを発電機として用い、得られた電力(回生電力)をバッテリーに充電する。

(3)惰行時および停車時:バッテリーの充電状態が低下したときは、エンジン発電機で発電した電力で充電する。

このハイブリッド駆動システムの開発ではさまざまな課題があった中で、最も難しかったのが、搭載スペースに合わせた主変換装置の小型化・薄型化だったと、東芝インフラシステムズの今井桂一郎氏は明かす。「瑞風に搭載される数多くの機器や装備の都合から、主変換装置に割り当てられたスペースには限りがありました。最上級の寝台列車である瑞風にふさわしい広く快適な車内空間を圧迫しないためにも、徹底的な小型化と薄型化を追求しました」。

図1 東芝がJR西日本と共同で開発した瑞風のハイブリッド駆動システムの構成と動作の概略
リンク
  • [*3] VVVF:Variable Voltage, Variable Frequencyの略で、可変電圧可変周波数方式を表す

低電圧化と水冷化で主変換装置の体積を半減

瑞風は動力車(M車)4両と付随車(T車)6両の計10両で編成される。このうち動力車の床下には、ディーゼルエンジン2基、主発電機2基、冷却ファン4基、燃料タンクのほか、ブレーキ制御装置、ATS車上子、空気圧縮機などを配置する必要があり、主変換装置は動力車の屋根上に割り当てられた。

主変換装置を屋根上に搭載するには、従来の設計に比べて、冷却機構も含めて体積をおよそ半分に削減する必要があり、しかも走行安定性を維持するために重量の軽減も求められた。

高木 隆志 氏 東芝インフラシステムズ株式会社 府中事業所 鉄道システム部 鉄道システム設計担当 主務

この課題に対して東芝がJR西日本に提案したのが「低電圧化」と「水冷化」である。

「一般の電車では架線から集電した直流1500V[*4]を用いてモーターの駆動を制御しますが、瑞風は架線電圧を用いるわけではないので制御電圧を自由に決めることができます。そこでシステムが必要とする電力や性能要件をもとに検討した結果、サイズおよびコストの観点から、インバーター電圧を直流600Vに設定するのが最適との判断に至りました」と東芝の高木隆志氏は説明する。

一般に低耐圧部品のほうが小型であり、絶縁のために確保すべき距離も短くて済むため、低電圧化は回路の小型化に直結する。しかも低耐圧の汎用IGBT(パワー半導体)が使えるため低コスト化にもつながる。

もう一つのポイントは「水冷化」である。「主変換装置では素子の損失などによって熱が発生します。スペースに余裕があればファンを使った空冷が可能ですが、瑞風では小型化と薄型化が必要でしたので、新たに循環式の水冷システムを開発しました」(高木氏)。

熱を発するパワー半導体などを水冷プレートに密着させて実装。また、同じく発熱部品であるリアクトル(大型のコイル)も水冷化した。温度上昇が抑えられ、特性の安定化とリアクトルの小型化につながった。

そのほか、モーター電磁騒音の抑制や、メンテナンス性の向上など、さまざまな工夫を盛り込んでいる。

「瑞風のハイブリッド駆動システムの開発は2013年にスタートしましたが、鉄道車両としての高い信頼性を維持しながら小型化と水冷化を実現しなければならず、開発には多くの苦労がありました。それでもJR西日本を交えた方式検証や信頼性評価などを経て、予定通り2016年に納入することができました」と高木氏は開発の成果を振り返る。

最終的に従来の直流電車の同等の装置と比較して、体積でおよそ40%の小型化と重量でおよそ50%の軽量化をそれぞれ実現した。

図2 開発した主変換装置と瑞風の動力車への搭載イメージ (車両の図提供:JR西日本)
リンク
  • [*4] 一般的な直流電化区間の場合
  • [*5]パワーユニット:水冷プレートにパワー半導体を高密度に実装し、制御回路と一体型にして着脱可能にしたユニット

SCiB™バッテリーとモーターも供給

ハイブリッド駆動システムのバッテリーとモーターも東芝が供給している。バッテリーは安全性、長寿命、高入出力などに優れた東芝独自のリチウムイオン二次電池「SCiB™」で構成され、付随車3両[*6]の床下に容量約20kWh×2群のユニットがそれぞれ搭載されている。モーターは新たに開発した定格130kWの全閉式で、動力車の各台車に2台ずつが組み込まれ、最高運転速度は110km/hである。

「主変換装置だけではなくバッテリーやモーターも含めた開発と納入を通じて、鉄道システム以外にもさまざまなソリューションを揃えている東芝ならではの価値を提供できたと考えています」と今井氏は述べる。

主変換装置を含む東芝のハイブリッド駆動システムが搭載された瑞風は、JR西日本での試験運転を経て、冒頭で述べたように2017年6月から運行を開始したが、今井氏によるとこれまでこのシステムに起因するトラブルは発生していないという。瑞風は、ツアーの人気も依然として高く、沿線にとっても重要な観光資源の一つとして定着している。

東芝では今後、ハイブリッド駆動システムのノウハウを、老朽化が進む旧型気動車からの置き換えが検討されている電気式気動車(ディーゼル・エレクトリック方式)のほか、地方都市に適した次世代路面電車(LRT)への応用を提案していきたい考えだ。

  • [*6] 2号車、4号車、9号車
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