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CO2回収技術で炭素循環型社会を目指す CO2で産業振興を図る佐賀市。東芝のCO2分離回収技術が家庭ごみを資源に換える

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
バイオマス資源を活用した産業振興に取り組む佐賀県佐賀市は、構想の一環として、清掃工場での家庭ごみの焼却から発生したCO2を回収し、藻類等の培養に生かす取り組みを進めている。地域に貢献する炭素循環型社会の実現に向けて、同市が選定したのが、東芝のCO2分離回収技術だ。既に10t/日の処理量を持つ商用施設が完成し、民間の藻類事業者への供給(販売)が始まっている。
前田 修二 氏 佐賀市環境部 バイオマス産業都市推進課藻類産業推進室 工学博士・環境計量士(濃度)

人口およそ23.6万人を擁する佐賀県佐賀市。南北に長く、北は福岡県に、南は有明海に接し、海(有明海)、平野(筑紫平野)、山間部(脊振山系)と、多様な自然の表情を見せる穏やかな土地柄である。

その佐賀市内に、隠れた"観光名所"として、年間1,000人を超える見学者(視察者)が訪れる施設がある。JR佐賀駅から北に5kmほどのところにある「佐賀市清掃工場」だ(図1、図2)。

見学者のお目当ては、家庭ごみの焼却で発生したCO2の回収設備と、そこで得たCO2を活用した藻類培養施設(民間事業者)である。

地球温暖化ガスの一種とされるCO2の分離回収は、天然ガス精製プラントや一部の火力発電所などで既に行われているが、清掃工場におけるCO2回収と商用利用は世界先駆けである※1。そのため、全国の自治体のほか、藻類培養や野菜栽培などCO2を利用する事業者の見学が後を絶たないのだという。

図1 佐賀市清掃工場全景(提供:佐賀市) 図2 佐賀市清掃工場の制御室(手前側イス席がCO2分離回収の監視コンソール)

三川発電所パイロットプラントの実績から実証実験パートナーを選定

佐賀市清掃工場におけるCO2の分離回収は、佐賀市が進めるバイオマス産業都市構想※2の一環として進められている事業の1つで、きっかけは2011年にさかのぼる(図3)。

「身近にあるバイオマスエネルギーを有効活用して地域に還元していこうという考えから佐賀市のバイオマス産業都市構想は始まっています。その中で、ハウス栽培にCO2を活用して収穫量の向上を実現している地域農家の存在、また、炭素循環型社会の構築を目指したいとする市長の意向もあり、清掃工場の排ガスに含まれるCO2を資源化しようというプロジェクトがスタートしました」と、佐賀市環境部の前田修二氏は経緯を説明する。

日本で初の試みということもあってお手本がない中、実証実験のパートナーに選定したのが東芝だった。

「クルマで1時間ほどの福岡県大牟田市にある三川発電所(株式会社シグマパワー有明)内のパイロットプラントで東芝がCO2の分離回収の実証試験を進めていることを知り、早速施設を見学させてもらったところ、常圧の排ガスからも回収が可能ということが分かり、東芝の担当者とも打ち合わせを重ねながら、ぜひ一緒にやりましょう、と協力をお願いしました」(前田氏)

※1:2016年8月10日時点。東芝調べ。
※2:2014年11月10日、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)が共同で推進している「バイオマス産業都市」に選定。
図3 佐賀市バイオマス産業都市構想の概要(提供:佐賀市)
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清掃工場特有の焼却排ガス成分やCO2濃度変動が課題に

図4 佐賀市清掃工場で2014年度まで実証実験を行った、
        CO2分離回収の実験プラント

実証実験を行うためのCO2 分離回収の実験プラントを佐賀市清掃工場内に設置し、この稼動を2013年10月に開始した。CO2の回収量は10〜20kg/日であった(図4)。

CO2の分離回収にはいくつかの方式があるが、三川発電所のパイロットプラント と同じく、常圧での処理に適した「アミン吸収法」(化学吸収法)を採用した。低温でCO2を吸収し、高温でCO2を吐き出すという、アルカリ性水溶液のアミンの性質を利用した方式だ。分離回収に要するエネルギーも少なくて済む。東芝はこの方式を中心にCO2回収技術のノウハウの蓄積を進めている。

北村 英夫 氏 株式会社 東芝 エネルギーシステムソリューション社 火力・水力事業部火力サービス技術部CCS事業化・技術開発担当グループ長

佐賀市清掃工場からの焼却排ガス処理においては次のような課題があったと、東芝側でプロジェクトを担当した北村英夫氏は説明する。「清掃工場排ガスについては、これまで当社が取り扱ってきた火力発電所排ガスとは異なる成分を含有しているため、CO2の吸収に使うアミン液の変質・劣化が懸念されました。特に、ごみ中の塩化物から発生する塩化水素(HCl)が、数十ppmの濃度(※排出基準値内)で排ガス中に含まれるため、アミン液劣化のみならずプラント部材の腐食対策が課題でした。また、火力発電所とは異なりCO2濃度の変動が非常に大きい排ガスを処理するという難しさもありました」。

塩化水素ガスの問題に対しては脱塩装置を前段に設けることで解決することにした。また、アミン液の劣化については、実証実験における延べ8000時間近くの稼動を通じて問題ないことを確認した。排ガス中CO2濃度の変動については、種々の濃度のCO2含有排ガスをテスト可能な三川発電所パイロットプラントでの知見を通じて、これに対処可能であり、安定して一定量のCO2を分離回収できる見通しが得られた。

一方、佐賀市側では回収したCO2の安全性評価を進めた。「清掃工場から回収したCO2を藻類の培養や植物の栽培に利用しようという試み自体が初めてということもあり、CO2の純度や安全性に関して法律やガイドラインが存在しない状況でした。食品衛生法など関連しそうな法律や規格を参照する一方で、外部の有識者の意見も伺いながら、事業者に安心して購入してもらえるような評価手法を確立していきました」(前田氏)。

こうした取り組みや努力が実を結び、2013年度から2014年度にわたる2年間の実証実験にて、植物の栽培にも安心して使えるCO2を回収できることを確認。併せて、ここで得た知見を社会に広く還元できるようにと、評価手順などの標準化も行った。

CO2の回収・利用で炭素循環型社会を目指す

佐賀市は、実験プラントでの実証実験で清掃工場の排ガスからCO2を回収できることが確認できたとして、10t/日の回収能力を有する商用施設の建設を決定。「かなり厳しい入札要件に対して、的確で満足のゆく提案をしてもらえました」(前田氏)として、実証実験から継続する形で東芝を選定。実験プラントで得た知見やノウハウを反映した施設は、2016年8月に竣工した(図5、図6)。

回収したCO2の利用も始まっている。藻類培養事業を行う民間事業者(株式会社アルビータ)が、抗酸化作用が強く健康食品などへの活用が見込まれるアスタキサンチンを多く含むヘマトコッカスという藻類の培養施設を清掃工場のすぐ近くに建設。CO2を気体のままパイプラインを通じて購入し、培養に利用しているという。

図5 佐賀市清掃工場の敷地内に設けられた
        商用CO2分離回収設備の外観

今後、佐賀市は清掃工場の周辺に更なるCO2活用事業者の誘致を行い、雇用の創出と、環境保全と両立できる持続可能な産業の振興を図っていく計画だ。2017年7月には「さが藻類バイオマス協議会」を設立するなど、二酸化炭素を利用する藻類産業の集積を目標の中心とした支援体制の強化も進めている。

「佐賀市のバイオマス産業都市構想はまだまだ道半ばですが、CO2回収を中心の1つに据えながら、地域に資源を還元するとともに、低炭素の産業構造を日本のみならず世界に発信し広めていきたいと考えています」と前田氏は将来の展望を述べる。

また、実験プラントおよび商用の回収設備を担当した東芝に対しては、「佐賀市のチャレンジに対して、全精力を傾けて真剣にお付き合いしていただいたことに感謝しています。さまざまな問題に対して、当事者として解決や合意形成に尽力してくれました」と、対応を評価する。

バイオマスを地域の資源とし、炭素循環型社会を目指す佐賀市の取り組みに、東芝はCO2の分離回収技術で応えていく。

図6 佐賀市清掃工場におけるCO2分離回収設備の概要
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