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築25年の研究棟をZEB化リニューアル 東急建設が東芝の「H2One™」を導入。水素エネルギーの活用でネット・ゼロ・エネルギー化を探る

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
東急建設はネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)技術の実証研究を目的に、東芝の自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」を導入した。太陽光発電システム、太陽集熱システム、地中熱利用システムなどと組み合わせて、エネルギーマネジメントの最適化やベストミックスの研究を進め、今後見込まれるビルや施設のZEB化やゼロカーボン化のニーズに応えていく考えだ。
沼上 清 氏 東急建設株式会社 執行役員 技術研究所長

2017年12月、神奈川県相模原市にある東急建設技術研究所の敷地に、大型クレーンなどを使いながら、自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」(エッチツー・ワン)が据えつけられた(写真1)。建設業界として先駆けの導入だ。

東急建設が狙うのは、同研究所内にある管理研究棟の「ZEB」化の実証研究である。

ZEBとはゼロ・エネルギー・ビルの略で、建築や設備の大幅な省エネ化を図った上で、再生可能エネルギーを活用することによって、年間のエネルギー収支をゼロ、またはゼロに近づけようという考え方に基づいた建築物である。

世界各国でZEB化への取り組みが進められているが、日本では、2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」において、2020年までに新築公共建築物などでZEBを実現し、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現する、という目標が設定されており、建設業界としてZEBに関する技術開発が急がれている状況だ。

写真1 東急建設技術研究所に据えつけられた
           東芝の自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」
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管理研究棟を題材にZEB関連技術の実証研究を推進

東急建設の施工技術や設計技術の研究開発を担う技術研究所の管理研究棟は、地上5階、地下1階建て、延床面積約3,000㎡の事務所用ビルである。竣工は1992年だ。

「今後の需要が見込まれるビルや施設のZEB化に関しては、新築案件だけではなく既存建物の改修案件も当社にとっては極めて重要になると考えています。そこで築25年以上になる管理研究棟を題材にZEB化リニューアル(写真2、図1)にチャレンジして、ZEBの実現に必要なさまざまな要素技術を積み上げることにしました。『H2One™』は、今後の水素社会に向けた取り組みとして水素エネルギーの効率的な運用技術の蓄積を意図して導入しました」と、同研究所長を務める沼上 清氏は経緯を説明する。

ZEB化に向けたリニューアルは2年計画で進められた。1年目となる2016年度には、建物外壁の外断熱化や窓ガラスの複層化などによる省エネ性能の向上と、照明のLED化や照明と空調の制御システムの導入(タスク&アンビエントシステム)、外壁への太陽電池(29kW)の設置を実施。

そして2年目となる2017年度に、「自然エネルギー利用による多様な空調熱源の高効率運転とベストミックスの研究」をテーマに、地中熱や太陽熱を利用する空調設備の導入や高効率空調機器への更新、そして自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」の導入を行った。

2018年2月からエネルギー需給などの運用データを順次蓄積し、今後のZEB案件の施工や設計に反映していく計画だ。ちなみに、ZEB化リニューアルによって、一次消費エネルギーは基準オフィスビルに比べて40%程度になり、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)において「ZEB Ready」の認証を受けている。今後のシステム運用で、更なるエネルギー削減が可能になる見通しである。

写真2 東急建設技術研究所内の管理研究棟
図1 東急建設がZEB化を目的に技術研究所に導入したシステムの概要
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「つくる」「ためる」「つかう」をパッケージした「H2One™」

ここで、東急建設が導入した東芝の自立型水素エネルギー供給システム「H2One™」を説明しておこう。

H2One™」は、水を電気分解して水素を「つくる」、その生成した水素を「ためる」、ためた水素を燃料電池で発電して電力や温水を供給する「つかう」をワンストップで、コンテナサイズにパッケージした自立型水素エネルギー供給システムだ(図2)。

すでに、川崎市のコミュニティ施設「川崎マリエン」(川崎市川崎区)、横浜市港湾局・港流通センター(横浜市鶴見区)、JR東日本南武線武蔵溝ノ口駅(川崎市高津区)などに定置されており、2018年3月には、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地「楽天生命パーク宮城」(仙台市宮城野区)にも定置される予定である。また、イベントなど移動先で容易に電力を供給できる移動型の車載モデルH2One™も運用されている。

「つくる」、「ためる」、「つかう」を個別に扱うシステムは多いが、3つをトータルにパッケージし、水素エネルギーで「地産池消」を実現する他に類を見ないシステムで、水素エネルギーの可能性に以前から注目し研究を進めていた東芝が、水素社会の到来を見据えて、出力変動の大きい再生可能エネルギーを、水素を媒介として安定的にエネルギー供給できるシステムを提供したいという考えのもと開発した。

水素をエネルギー源として見るとさまざまな特徴がある。まず、資源がほぼ無尽蔵なことで、地球上に豊富にある水を電気分解すれば水素が得られる(天然ガスなどを改質する方法もある)。太陽電池や風力などで発電した再生可能エネルギーを使えば、CO2フリーのエネルギーとなる。

また、水素は高圧タンクや水素吸蔵合金タンクに長期間安定的に貯蔵できるため、必要な時に電力供給が可能であり、二次電池のような自然放電もないので不安定な再生可能エネルギーの平準化にも役立つ。

水素をエネルギーとして利用する際には純水素燃料電池を使う。燃料という名前が付いているが水素を燃焼させるわけではなく、水素と酸素との化学反応によって電力や熱を取り出す仕組みで、その際に発生するのは水だけである。

そのため、CO2の排出をゼロに抑えた「カーボンフリー」あるいは「カーボンニュートラル」な社会を実現する手段の1つとして有望視されている。

図2 東芝が提供する「H2One™」システムの概要
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電力と熱をカーボンフリーで供給できる点が決め手に

水素を利用したエネルギー供給システムは、海外も含めさまざまなベンダーから提供されているが、東急建設は次のような理由で東芝の「H2One™」を選定した。

「都市ガスなどから水素を得るシステムも検討しましたが、改質の過程でCO2が排出されるためカーボンフリーが実現できません。コンテナサイズで「つくる・ためる・つかう」をワンストップで行うシステムは国内では『H2One™』しかみあたりませんでした。また、『H2One™』は電力だけではなく反応熱を利用した温水を供給してくれる点も評価しました」と沼上氏は説明する。

温水は、給湯や暖房のほか、夏はデシカント空調(除湿)にも使えるため、「H2One™」はビルのエネルギー源として極めて効率的といえる。

国内ベンダーであることも決め手の1つになった。「導入後のサポートやメンテナンスを考えると、代理店が介在する海外ベンダーよりも安心と考えました」(沼上氏)。

なお、選定に際して、東急建設は川崎マリエンなど既存の「H2One™」設備を見学。また、リニューアル後の管理研究棟で必要となるであろう電力や熱量を概算し、その値を基に東芝側で水素の製造量や貯蔵量の見積もりを行って、最適な構成を提案した。

10年単位の長期的な視野で水素エネルギーに期待

東急建設は、四季が一巡する一年間にわたってエネルギー収支などのデータを集め、さらにその結果を翌2019年のオペレーションに生かしながら、効率的な運用方法やエネルギーのベストミックスを探っていく考えだ。また、単に運用データだけではなく、2017年12月の実際の設置工事で培った基礎設計や仮設計画などのノウハウも施工者として将来の提案に生かしていくという。

「ZEB関連技術の研究成果は長期的な視野で価値を持ってくると考えています。当初はとても高価だった太陽電池が今では個人宅にも普及し始めているように、『H2One™』をはじめとする水素エネルギーシステムもいずれは普及していくと見込まれ、当社としても将来のZEBあるいはカーボンフリーという大きなマーケットの切り札の1つとして期待しています」と沼上氏は今後の展望を述べる。「また東芝には、建設業界のそのときどきのニーズに合わせた提案やソリューション提供をこれからもお願いしたいと考えます」(沼上氏)。

エネルギー問題は社会全体で取り組むべき課題だが、東芝は水素社会を未来の1つの姿と捉え、これからも「H2One™」をはじめとするさまざまな水素技術の取り組みを進め、水素ソリューションを提案していく。

企業情報

東急建設株式会社 技術研究所
●設立:1971年7月に前身の技術開発室を技術研究所に改組。
            1992年に現在の場所に新研究所を建設し移転。
●所在地:〒252-0244 神奈川県相模原市中央区田名3062-1
●事業内容:災害への対策強化や環境対策など、山積する様々な課題に対応するため、新たな技術開発や実験施設の整備等を
                  推進。三次元6自由度振動台、大型インテリジェント風洞、人工気象室、複合音響実験施設、大型構造物加力施設、
                  電磁環境EMC試験室など、圧倒的な実験施設を備え(一部受託実験も実施)、日々、技術開発に邁進している。
●URL:http://www.tokyu-cnst.co.jp/technology/lab/
東急建設株式会社
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