“明日”をつむぐテクノロジー

電力新時代に向けた新たな取り組み 「仮想発電所」を横浜市に構築エネルギーIoTで電力の新時代に臨む

小規模な太陽光発電や蓄電池を束ねて1つの仮想的な発電所として機能させる「バーチャルパワープラント(仮想発電所)」の実証実験が横浜市でスタートした。IoT技術を活用した分散型蓄電池の群制御、電力の抑制を需要家に要請するデマンドレスポンス(DR)、節電分を経済的インセンティブに換えるネガワット取引など、電力の新時代に向けたさまざまな取り組みが進められている。
勝部 安彦 氏 東京電力エナジーパートナー株式会社 E&G事業本部 ソリューション技術企画グループ マネージャー 里中 健司 氏 東京電力エナジーパートナー株式会社 E&G事業本部 ソリューション技術企画グループ

およそ370万人の人口を抱える横浜市には地域防災拠点に指定された458の小中学校がある(いずれも2016年4月1日現在)。そのうちの各区1校18校の敷地に、2016年10月から12月にかけて、10kWhの定置型蓄電池が搬入・設置された。

地域に分散する小規模な太陽光発電や蓄電池を束ね、全体を1つの仮想的な発電所として機能させる、いわゆる「バーチャルパワープラント(仮想発電所)」(図1)の実証実験を行うためだ。

18台の蓄電池を活用した今回のプロジェクトは正式名称を「スマートレジリエンス[*1]・バーチャルパワープラント構築事業」といい、横浜市、東京電力エナジーパートナー、および東芝の三者によって、2016年7月から2018年3月にわたって進められている。

東京電力エナジーパートナーで本プロジェクトを担当する勝部安彦氏は、「地域レベルの効率的なエネルギーマネージメントや、効果的なデマンドレスポンス手法の確立などを狙った、全国的に見てもあまり例のない実証実験として推進しています」と説明する。

*1 スマートレジリエンス:低コストで環境性が高く、災害に強い設備・街づくりを構築する取り組み。
【図1】バーチャルパワープラントのコンセプト
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横浜市・東京電力エナジーパートナー・東芝の三者で
プロジェクトを推進

プロジェクトにおける三者の役割は次の通りだ(図2)。横浜市は、公共施設の防災性向上、再生可能エネルギー普及を想定した電力の安定化、小中学校における環境教育の推進などを目的としており、併せて、市内18カ所の小中学校に蓄電池を設置するスペースを提供する。

東京電力エナジーパートナーは、地域コミュニティへの安全・安心の提供、蓄電池による効果的なデマンドレスポンス(DR)手法の確立、および電気と蓄電池のセットによる新たな料金プランやサービスプランの創出などを進める。なお、同社は東京電力グループの電力小売業者であり、電力小売りの自由化を背景に2016年4月に発足した。

東芝は、バーチャルパワープラントのシステム開発を担い、分散型蓄電池として、安全性に優れた二次電池「SCiB」を提供する。

【図2】スマートレジリエンス・バーチャルパワープラント構築事業の事業者と役割
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デマンドレスポンスや
ネガワット取引をサービス化

現代社会にとって不可欠ともいえる電力の安定的な供給と、需給のバランス維持の観点で、蓄電池には次のようなメリットがある。

まず、ピーク需要に対して瞬発的な電力充放電が可能であり、充電した電力を供給することで見かけ上の発電量を増やすことができる。また、太陽光発電や風力発電と併用すれば、自然条件に左右される発電量の平準化や系統への逆潮流の安定化が図れる。さらに災害時においては非常用電源としても活用できる。

実際に今回の実証実験では、蓄電池容量の約7割の範囲でデマンドレスポンスに使用する一方で、約3割は非常用として常に確保しておき、非常時は地域防災拠点である小中学校で非常用電源として使用される。

東京電力エナジーパートナーはこうした蓄電池のメリットを活用したサービスモデルや料金モデルの開発を進めていく考えだ。

さらに同社の里中健司氏は次のように述べる。「電力の需給が逼迫しそうなときに、供給側から需要家に『デマンドレスポンス(DR)』を発動し、蓄電池の電力を利用してもらうことで生み出される節電分をネガワット取引[*2]を通じて経済的なメリットとして交換するという考え方が新たに提唱されています。分散型蓄電池を活用し、さまざまなシナリオを想定しながら、より効率的なDR制御の実現を東芝と進めるとともに、DRやネガワット取引に対応したサービスモデルの確立を目指していきます」。

また、電力小売りサービスの付加価値向上にもつなげていく。「単に電力を提供するのではなく、ピークカットや非常用電源の確保など、蓄電池の特性を生かしたサービスをお客様のニーズに応じて提供できるように検討を進めています」(前出の勝部氏)。

*2 ネガワット取引:需要家の節電分を取引市場で販売し経済的なインセンティブに換える仕組みで、日本では2017年4月1日から、運用が開始される。このとき、需要家と電力会社の間に立って需要の節電などを取りまとめる事業者を「アグリゲータ」と呼ぶ。節電した電力は負の消費電力という意味で「ネガワット」と呼ばれる。

エネルギーIoTで
バーチャルパワープラントを見える化

システム開発を担当するのが東芝だ。

東芝は、一足早く2010年に始まった横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)における大規模蓄電池を使った蓄電池SCADA(Supervisory Control and Data Aquisition)の実証実験や、中規模蓄電池を使ったスマートBEMS(Building Energy Management System)の実証実験などを担当しており、小規模蓄電池を分散配置した今回のバーチャルパワープラントにも、ネガワットのアグリゲーション管理、需要予測の高精度化、蓄電池の監視制御や充放電制御などのノウハウを反映していく計画だ。

その1つが18カ所に設置された蓄電池の監視と見える化である(図3)。東芝のIoT基盤である「東芝IoTスタンダードパック」を通じて充電の状態などをセキュアなクラウド上に収集し、ダッシュボード画面に分かりやすく表示するとともに障害の発生を監視する、いわば「エネルギーIoT」とも呼べる応用だ。

「YSCPの各実証実験で中核的な役割を担ってきた東芝は、電力を含む社会インフラシステムの実績も豊富で、技術力も高く、安心して組めるパートナーと認識しています」と勝部氏は東芝の取り組みを評価する。

なお、小中学校に設置されている東芝の「SCiB」は、負極にチタン酸リチウムを採用するなどの工夫で安全性や繰り返し充電性能を高めたリチウムイオン二次電池である。

里中氏は、「容量、充放電効率、容量劣化など、いくつかの要件を提示した中で、性能面で最も優れていたのがSCiBでした」と説明する。また、他のリチウムイオン電池に比べて、SCiBは化学的な安定性が高いという結果が同社内の評価で得られているという。

【図3】IoTスタンダードパックを活用したバーチャルパワープラントのアプリケーションサービス
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電力の安定供給と
サービスの深化に応える

横浜市、東京電力エナジーパートナー、および東芝の三者は、プロジェクトが終わる2018年3月までの間に、分散型蓄電池の充放電制御を含むバーチャルパワープラントの実用性、デマンドレスポンスモデルの確立、充放電マネージメントなどのデータを収集し、今後の省エネ推進、再生可能エネルギーの利用拡大、防災性の向上、新たな小売りサービスの創出などにつなげていく計画である。

「安定した電力と優れたサービスを地域に提供するのが私たちの務めです。さまざまな実証実験で得た知見を生かしながら、電力小売りの新しい時代に向けて、お客様のニーズや市場の変化に応える付加価値の高いサービスを目指していきます」と勝部氏は今後の展望を述べる。

併せて、電力を含む社会インフラを数多く手掛ける東芝は、自治体や電力会社とも協力しながら、電力小売りの新時代に向けたソリューションの提供に努めていく。

お問い合わせ

  • 株式会社 東芝 エネルギーシステムソリューション社

    〒212-8585 神奈川県川崎市幸区堀川町72-34(ラゾーナ川崎東芝ビル)
    https://www3.toshiba.co.jp/power/

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