日経マネーDIGITAL

金融小説「ザ・投資銀行」

「第1章 邂逅 その1」

2008年11月20日(木)

<主な登場人物>

西川晃一:投資銀行ローダー・ジャパンの在日代表兼CEO。55歳。野心家でローダーの本社役員を狙う。 幼少のころ両親が事業で失敗。苦学の上、慶応大学を卒業。その後、ローダー・バンクに就職する。

小田壮:ローダー・ジャパン資産運用企画本部長。45歳。金融マンとしての理想と現実との間  苦悩する。西川への恩義は大切にするが、金や出世が全てではないと瞭察している。 妻・薫は三友銀行の広報部に勤務しているがすれ違いが多く、二人の生活に疑問を持っている。

藤山紀子:ローダー・ジャパン資産運用企画部マネージャー。元AJA航空のフライト・アテンダント。英語がネイティブの才媛。ただし、男性運には恵まれず、30歳ながら×1(バツイチ)。小田に好意を寄せる。

小田薫:小田壮の妻。三友銀行の広報部に勤務。夫とのすれ違い生活に疑問を感じ、離婚を視野に入れている。同行の企業情報本部長・斎藤雄介を利用し、更なるキャリアアップを図ろうとする。

澤田 誠:ローダー・ジャパンのインベストメント・バンカー。東京大学出身。まじめで素質はあるが、融通が利かない。東神信販社長・井岳明雄の担当者であるが、バンカーとして目立った数字を上げるには至っていない。

井岳明雄:東神信販社長。東神信販設立の経緯については定かではないものの、同社を日本最大の消費者金融業者に育てた辣腕経営者。現実主義者である。消費者金融の将来性に疑問を持ち、資産売却と一族への贈与を考えている。

井岳長一郎:東神信販・井岳明雄の長男。ケイマン島の投資法人の社長となり、井岳や東神信販の 資産の合法的な譲渡を受ける立場となる。ビジネス感覚がない典型的な二代目で、事情が分からないままに税務当局に追及される。

井岳ゆりか:井岳明雄・東神信販の長女。兄とは異なり、才女であり同社の経営企画室に勤務。小田 に思いを寄せる。

井岳由美子:井岳明雄の妻。

斎藤雄介:三友銀行企業情報本部長。野心家でビッグ・ディールを手土産に投資銀行への転職を狙っている。同行広報部勤務の小田の妻・薫と深い仲になっていく。

冬木春夫:健康食品製造販売会社を経営するローダーの富裕層顧客。ローダーが組成したCDOで損失が発生しれ、金融庁への告発と集団訴訟を計画する。

ジョージ・モンゴメリー:ローダー・ニューヨーク本社のプロダクト・マネージャー。

サイモン・ヤング:ローダー本社から送り込まれた西川の後任。バランス感覚あるマネージャーだがビジネスはドライ。

この小説はフィクションです。現実の事件や状況とは関係ありません。

プロローグ

 北アフリカからのシロッコは、6月のコートダジュールに真夏を予感させる熱気を与える。小田壮は、常宿のグラン・オテル・デュ・キャップ・フェレがあるニース近郊のサン・ジャン・キャップ・フェレに藤山紀子を迎えるため、メルセデスE550アバンギャルドの重厚なステアリングを楽しみながら空港へと向かっていた。

 6月の南仏はまだ真夏というわけではない。ただ、サングラスを通して容赦なく注いでくる地中海特有の刺すような日差しは、いつもと変わらない。バカンス前のナポレオン3世通りは、すれ違う車も地元のフランス車がほとんどだ。本格的な夏になればドイツ人が南下してくるため、毎年この町の雰囲気は一変してしまう。本当にコートダジュールを楽しみたければ、名の知れたニースやカンヌのような街ではなく、キャップ・フェレやヴィッレ・フランシュのようなこじんまりしたところで落ち着いた雰囲気を楽しんだ方がいい。そんなことをぼんやり考えながら、小田は紀子が搭乗しているパリ発ニース着のエール・フランス432便の到着時間に合わせ、ゆっくりと車を西へと走らせている。

 紀子からはパリに着いたことを知らせるメールを受け取っていた。日本からパリまでは12時間くらいのフライトだが、ニースへの直行便はなくパリでトランジットすることになる。紀子がパリ市内を見られないのは残念だが、それよりも早く彼女を地中海特有の晴朗な空気に包ませてやりたい気持ちのほうが強かった。

 車はニースの海岸沿いのプロムナード・デ・アングレを抜け、空港に入るロータリーに入っていく。ニース国際空港に着いた小田は、到着出口近くの駐車場にメルセデスを駐めた。432便の到着までまだ30分くらいある。紀子が着くまでの短い時間、小田は空港内のカフェで少しだけ思いに耽ることにした。小田にとって、紀子との旅はこれが初めてではない。しかし、恋人同士としての旅はそろそろ終わりにする時期だというのを小田も紀子も感じ始めていた。

 小田が紀子を意識し始めたのは、あのディールを手がけ始めたころだ。彼女にディールの概要を伝え、ローダーのアメリカ本社のカウンターパートに電話(テレ)会議(コン)をセットしてもらったのだが、紀子のそのあまりの手際よさと、彼女が話すネイティブ・イングリッシュに小田は驚きを隠せなかった。

 あれからもう2年が経とうとしていた...。

* * * * *

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このコラムについて

巨大投資銀行。華やかな外見とは裏腹に、一攫千金を狙う海千山千の金融マンが終結する“戦場”である。最新の金融工学を駆使した商品を売りさばくだけでなく、会社そのものも手数料稼ぎの獲物に化してしまう。投資銀行を舞台にした大型小説、物語は如何に展開するか!?

南山 宏治(みなみやま・こうじ)

'85年に関西学院大学を卒業後、三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。ロンド ン、 サンパウロ等に約10年駐在するなど海外経験が豊富。'00年にシティグループに移 籍。 '05年1月から、ホームページやブログを通じて金融・経済に関する啓蒙活動にも力を 入れている。『ETF投資入門』(日経BP社)をはじめ著書多数。


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