


末吉 これまでも経済危機はあったわけですが、今回の危機は明らかに質が違います。だからこそ、オバマ大統領が掲げる「グリーン・ニューディール」のような長期的な視野に立った対策が求められているのです。危機に直面しているのになぜ大きな目標が必要なのか。それは、過去の実績が通用しない今、地球規模で社会そのものを変えるしかないからです。今まさに20世紀の清算が本格化し、21世紀の新しいモデルの創造が始まっています。そのキーワードが“グリーン”です。
これまでは、お金で時間を買ってきました。例えば企業活動では、求められるスペックのものを納期どおりに仕上げることが優先されてきたわけです。しかし、これからは違います。納期を守るためにCO2を多く排出するのであれば、納期を見直すこともあるでしょう。このように評価基準が見直され、ビジネスのルールが変わっていくのです。
松山 この時期、どの企業も基本的にコスト削減以外の提案には消極的ですが、グリーン対策については手を緩めていません。それだけ真剣にとらえている企業が多いと感じますね。
私たちは、生産性を下げずに消費エネルギーをどう削減するかといったプロジェクトや、Factory Automation(FA)の制御技術を活かした省エネ対策を事業化するといった案件に取り組んでいますが、ここでは経済性の問題だけでなく、地球環境や持続可能性から見て社会全体をどう最適化するかというテーマが前提になっています。
前平 ロジスティクスの世界では、リードタイムの短縮や生産・物流コストを下げるための最適化が求められてきましたが、環境問題と円高のダブルショックで考え方が大きく変わってきています。例えば、これまでは中国で生産したものを長距離輸送して欧米で販売してきましたが、今では環境だけでなく為替の影響も考慮して市場に近い場所での生産を増やすなど、サプライチェーン・モデルを見直す動きが出てきています。こうした変化は経済危機で加速したと言えます。今の危機は企業にとって生まれ変わるチャンスでもあるのです。
前平 ロジスティクスの世界では、リードタイムの短縮や生産・物流コストを下げるための最適化が求められてきましたが、環境問題と円高のダブルショックで考え方が大きく変わってきています。例えば、これまでは中国で生産したものを長距離輸送して欧米で販売してきましたが、今では環境だけでなく為替の影響も考慮して市場に近い場所での生産を増やすなど、サプライチェーン・モデルを見直す動きが出てきています。こうした変化は経済危機で加速したと言えます。今の危機は企業にとって生まれ変わるチャンスでもあるのです。

末吉 まったくそのとおりです。CO2をどう削減するかだけでなく、調達から生産、販売までライフサイクル全体で現在のビジネスモデルを見直す良い機会です。こうした21世紀型のビジネスモデルを探る競争はすでに始まっていて、適合できない国や企業は退場せざるをえない状況になるでしょう。法律により規制が強化されたり消費者の判断基準が変化するなど、ビジネスを取り巻く社会環境は大きく変わっていこうとしているのです。
前平 新しい世代の人たちは環境に強い関心を持っています。そういう人たちがマジョリティーになれば、当然、社会全体の判断基準も変わってきますね。
松山 このような社会変化にいち早く対応できる企業は大きな利益を得ます。現在、グリーンという分野に対する投資家やメーカー、消費者の見る目が変わってきた背景には、グリーン・ニューディール政策が示すように、環境問題への対応を大きなビジネスチャンスとしてとらえていることもあると思います。そして、そこでは国としての対応も非常に重要です。
末吉 昨年暮れから日本政府にもグリーン・ニューディールのような動きが出てきましたが、重要なのは国としての意思を明確に示すことです。EU各国は、2050年に向けた目標をはっきりと打ち出しています。例えばイギリスでは、昨年末に2050年までにCO2の排出量を80%削減するという気候変動法を制定しました。個々の企業が環境問題に取り組むことも重要ですが、日本として長期的にどう対応するのかという政治的なフレームワークが求められているのです。
松山 企業の立場では、政府の政策とその時間軸がはっきりしないと大胆な意思決定がしづらいと思います。日本政府がそれを明確にしていない今、多くの日本の企業は環境に関する戦略を確定できず、結果として投資も限定的になると考えられます。
前平 電気自動車や太陽光発電、送電技術、海水から真水を作る技術など、日本の技術は世界のトップクラスにあるだけに大変残念ですね。どんなに高い技術があっても、個々の企業活動の枠を超えるのは、難しい場合があると思います。
末吉 日本は部分として良いものを持っているだけに、全体として機能させるための国の意思決定が急がれます。CO2の規制などは特定地域で行えば済む問題ではありません。欧米で生まれた規制は、サプライチェーンに乗ってすぐに輸出されていくものなのです。
アメリカの企業などは、早く規制を強化してほしいと政府に訴えています。早いほうが技術革新を加速させることができ、企業としての競争力を高めることができるからです。
松山 規制の導入もドライバーではありますが、それだけを待っているわけにもいきません。例えば、今、イギリスのNPOであるCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)と東京大学と共同で、経済軸に環境の視点を加えた新しい企業の評価基準を作っています。このような評価基準によってお客様自身の企業価値を可視化することで、各企業の変化への対応を加速させると考えています。こうしたことは民間主導でも進められます。
末吉 今後の日本のビジネスを考えるうえでは、世界規模の視点を持つことが重要です。日本ほど世界に依存している国はありませんから、世界が良くならないと日本は良くならないのです。今回の経済危機では、当初、日本企業のダメージは比較的少ないと言われていましたが、あっという間に海外の余波を受け、世界で最も大きなダメージを受けてしまったことからも分かるとおりです。
松山 IBMではSmarter Planetという新ビジョンを提唱しており、ここでは地球規模での視点が重要だと考えています。CO2だけでなく食料にしても医療にしても、今は地球上に価値が偏在しています。それをどう最適化していくのか。そこにIBMができることがあるはずです。
例えば、世界中のカメラ付き携帯電話を利用して、世界各地で起きていることを瞬時に知ったり、RFIDで世の中のモノの動きを把握することでさまざまなサプライチェーンの最適化を図ったりすることができます。ネットワークを利用して世界中のデータを収集し、それを処理して分析することで予測と最適化計算を行い、地球全体としての損失を極小化することも可能になるでしょう。
前平 世界規模の視点が必要ですが、日本の経営者は世界が見えていないことが多いように感じます。そこで、今何が起きているのかが見える仕組みを提供することも私たちの役割です。
末吉 ひとことで言えば、日本の経営者は世界が今、何に困っているのかが分かっていない。自分たちは十分やっているのに海外から評価されないというのは、視点がズレているからです。これは大きな情報格差です。CSR(Corporate Social Responsibility)はそれを可視化して解決する手段だと思いますし、IBMのようなグローバル企業が世界の視点で日本企業に評価基準を提案することにも大いに意味があります。
松山 昨年12月に開催されたGIOでは、低炭素経済に向けて社会全体として何ができるかが議論されましたが、IBMとしてもSmarter Planetの延長線上でさまざまな取り組みを考えています。具体的には、日本政府への提言も視野に入れ、また企業向けには、CO2排出とオペレーション・コストの両方を削減できる実践可能な取り組みを提案していきます。
前平 グリーン化は、具体的な数字を提示することで加速させることができるはずです。これまでのQCD(Quality、Cost、Delivery)の3つの軸にCO2の軸が加わって4軸になることで、サプライチェーンはより複雑になります。そこで私たちは、基礎研究所で開発したアルゴリズムを活用して目に見えるかたちで最適解を提示する「Green SCM」というプロジェクトを推進しています。2月16日に発表した、サプライチェーン全体でCO2排出量を削減するソリューション群は、その成果の1つです。

松山 Green SCMは、お客様のCO2対策を支援しようというものですが、IBMでもCO2削減には積極的に取り組んでいます。例えば、箱崎事業所の1階に「カーボンマネジメント・ダッシュボード」を設置し、フロアや部門ごとにエネルギー使用量をリアルタイムで測定し、さまざまな角度からCO2排出量を可視化することで具体的な改善を促したいと考えています。
前平 このプロジェクトは、CO2排出量を可視化することで箱崎事業所の従業員の意識改革を促進し、一人ひとりのアクションを引き出すことを目的としています。箱崎事業所をショーケースとし、まず自分たちが変わることで可視化の重要性を示そうというのが狙いです。
末吉 可視化は重要ですね。地球温暖化がなぜ起きたか。それはすべて、自分の庭先だけをきれいにしようとしたからです。こうした発想はもう通用しません。境界線を自分たちの企業グループから地球全体に広げたときに、本当に求められていることが行えるはずです。今はそれが問われているのです。「ジャスト イン タイム」が必ずしも正しいとは言えないように、視点や範囲が変われば何が正義であるかも変わってきます。
低炭素社会への道筋について結論は出ていませんが、IBMは「お客様」「社会」「自分」の3つのグリーンの重要性を強調していますね。今回の箱崎事業所の取り組みで、まず「自分」が実践することを示したいということのようですが、活動範囲を意識的に社会全体に広げようとしていることは素晴らしいことだと思います。
松山 今、社会全体の未充足ニーズにIBMとしてどう応えられるのか、IBMがどんなリーダーシップを発揮できるのかが問われているのだと思います。新しい道筋を作るにはさまざまなコラボレーションが必要です。Smarter Planetもその1つですが、常に地球全体を考えて広い視野からどう貢献できるかを考えていきたいと思います。
末吉 当面は原点に戻って、お客様と問題点やソリューションを議論することも重要でしょう。そうした中で、一緒に問題を発掘して解決するというIBMの提案力や実行力が活かされる場面は多いと思います。日本企業に対して、長期的な問題解決のプロセスを提示されることを期待しています。
