

溝江 まずはプロジェクトに取り組まれた理由(背景)について教えていただけますか。
鈴鹿 当社の競争相手は世界です。このため、メーカーが取り決めた基準を上回る高いレベルの指標を設けて整備の質を追求し、トップレベルの品質を保持してきました。しかし、当社が保有する約160機のボーイング航空機に対して約50万個の個別管理部品があり、これを時間管理をしながら適切なタイミングで整備し、整備履歴をすべて管理するというのは非常に困難で、かつ複雑なプロセスになります。当社が世界を結ぶ「日本の翼」を目指すための要である整備の高品質化にあたり、システム統合は避けて通れない道だったのです。
溝江 御社は早くからシステム化に取り組んでおられ、その完成度も高かったと思われますが、あらためて大規模なシステムを構築することになった狙いはどこにあったのでしょうか。
鈴鹿 それまでにもさまざまな分野で大小100くらいのシステムが稼働していましたが、それぞれが素晴らしいほど「個別最適化」されていたために、かえって部門間の連携が脆弱になっていました。皮肉なことに個々のシステムの完成度が高いことが連携の足かせになっていたのです。
そこで、ERPでシステムを統合し、トータルに品質を向上させようと考えました。これは仕事の仕方や考え方を変革して組織としてのパフォーマンスを最大化したいという経営視点とも合致していました。統合システムを導入することによって業務をシステムに合わせ、BPR(企業活動全体を対象とした総括的な改革)を推進しようとしたのです。
溝江 BPRを進める場合、全体最適を図るための新たな軸が必要です。変革を推進する軸をどのようなところに置いたのでしょうか。
鈴鹿 まず、コストの視点とお客様の視点です。これ以上のコスト削減を実現するためには全体で見るしかありませんし、今の限られたリソースで顧客満足度を高めるには顧客視点で部門間の連携を強化することが必要です。品質という視点では、水平展開ができることがポイントでした。ある条件のもとで不具合が発見された場合に同様の条件下にあるものを探し出せば「予防的整備」につながります。今回のシステム化でデータがタイムリーに有効利用できるようになりました。
溝江 社内的な反発などはありませんでしたか。
鈴鹿 かつてない大規模プロジェクトですから、実行する前から壁は高いだろうと覚悟していました。そこで『常識を打破しよう』というスローガンを掲げ、徹底してユーザーと対話する機会を設けました。これらの想いを伝えるキャラバンは合計100回以上実施しましたね。その結果、整備本部全体で「変わろう」という当事者意識を生み出すことができたのが大きかったと思います。

溝江 検討・導入にあたり、パートナーとしてIBMを選定していただいた理由はどこにあったのでしょうか。
鈴鹿 SAPの導入パートナーはたくさんありますが、グローバルな航空業界での実績はIBM様しかありません。御社の経験に賭けたというのが最大の理由です。実際に経験のあるコンサルタントを世界から集めることができました。
またSAPの19のモジュールを使い、世界中で約5000名のユーザーが24時間利用するという、これまでにない大規模プロジェクトだったことも御社を選んだ理由のひとつです。こうした世界最大級のプロジェクトの「マネジメント経験を持っている」ということも御社の強みと評価しました。
溝江 お答えにくいかもしれませんが、IBMに対する評価についてお聞かせください。
鈴鹿 パートナーとしてたいへん高く評価しています。「本当に助かりました」という感じです。私たちの視点に立った複数の提案をしてもらえましたし、「どこまでできて、どれはできない」といった線引きを的確に教えてもらうことができたのが、ユーザーを説得するうえで大きかったと思います。また、プロジェクトのピーク時にはオフィスに15カ国から400名のコンサルタントが召集され、インドのオフショアには100名が活動していましたが、それをマネジメントできたのもまさに御社だったからだと思います。
溝江 JAL Mightyは今後どのように御社の経営に貢献できるとお考えですか。
鈴鹿 整備作業の設定から作業指示、計画の立案、実際の作業、そして完了処置と次の整備期限の設定といった整備全体の流れがビジュアルで見られるようになりました。これにより、働く人のマインドが変わっていくことが大きいと考えています。部品の面でも、部品が機体から取り降ろされ、倉庫に戻して整備され、在庫として納入される、といった一連の流れにさまざまな部門が関与することで、連携しないとうまく流れないということが実感として分かるようになってきたと思います。
このように、JAL Mightyを通して否応なしに他部門の動きが分かるようになったため、「整備品質」および「部門間の連携」は大幅に向上するでしょう。また、流れが一目瞭然になったことで部品の在庫状況が分かり、ムダな発注を防ぐという「在庫の削減効果」もあります。
溝江 JAL Mightyを通して、多くの人たちの仕事のつながりが見えてくるわけですね。
鈴鹿 それが重要です。整備の仕事は7000名がうまく連携することによって、はじめて品質が高まります。その業務改革を実現したJAL Mightyは画期的です。今後、整備グループ全体の効率化と品質が格段に向上し、顧客満足に貢献するものと期待しています。
日本を代表するエアラインのひとつ。約160機のボーイング航空機を保有しており、これらには約50万個の個別管理部品がある。新整備業務システム「JAL Mighty」は、機体整備履歴や在庫管理など整備関連業務全般を一元管理するもので、これによりデータの精度と効率化の向上、整備部品調達の最適化など、整備グループ全体の効率化と品質が格段に向上するものと期待されている。