オリンピックをきっかけに、東京を緑でつなごう | NBonline SPECIAL

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オリンピックは、日本人の身体を取り戻せるか?

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オリンピックはスポーツの祭典、言い換えれば、人間の身体の可能性を計る大会です。

日本人は、とかく脳と身体を分けて考えてしまう癖があり、「頭がいい」というのは勉強ができることで、「スポーツが得意」という体育会系をただの肉体派と見なしたりします。

けれど、この考えは、間違っています。

なぜならば、スポーツを司るのは、結局のところ神経系であり、煎じ詰めれば、脳の力によるのですから。運動神経がいい、スポーツが得意、というのは、頭のよさの一種なのです。

最近、アメリカの学者が、「頭をよくしたかったら、身体を鍛えろ」という内容の書籍を出しました。これは、別に突飛な話ではありません。脳科学的に考えれば、むしろ当たり前です。

実際、アメリカのとある底辺公立高校で、毎朝体操を規則正しくやるよう、生徒たちを指導したところ、みるみるうちに成績が改善し、優秀校に変身した例があるそうです。アメリカでは公立高校だと体育が授業に組み込まれていないケースもあるそうなので、よけい効果があったのかもしれません。

閑話休題、スポーツ選手の身体の頭のよさ、というのを見る上で、世界最高の選手たちが競い合うオリンピックほどふさわしい大会はないでしょう。

日本大学に林成之さんという医学博士がいらっしゃいます。林さんは、サッカー監督のイビチャ・オシムさんが脳卒中で倒れられたときの主治医で、彼の病を治した脳の低温蘇生法で有名な方です。

その林さんと私は、サイエンス映像学会というところでご一緒しているのですが、最近とても面白い話をうかがいました。

林さんは今、北島康介選手らオリンピックの水泳選手たちと一緒に、スポーツ時における脳の働きの研究をされています。その研究結果が実に興味深い。

昔から、「日本人選手は、なぜ本番に弱いのか?」ということがよく言われてきました。練習や予選では高記録を頻発する選手が、本番の決勝になると、あえなくは敗退してしまう。そんな俗説がありました。

この俗説には、脳の働きから見ると、はっきり根拠があったのです。

それを林さんは、水泳で競争している選手の脳の働きを調べて見つけました。

選手たちは、「あと10メートル」といった具合にゴールが見えた状態になると、意識下においては「よし、がんばらなければ」と思い、意識してスピードを上げようとする。

ところが、面白いことに、無意識下においては、ゴールの存在を認識した時点で「ああ、もうゴールについた」と感じてしまい、脳が身体を刺激する報奨系の回路が閉じて、身体の動きが結果として、ぎくしゃくしてしまう。プールの上から観客として眺めてもはっきり分かるくらい、泳ぎのリズムが崩れてしまうそうなのです。

結果、最後の10メートル、意識下ではラストスパートをかけているつもりなのに、逆に身体の動きはバランスを欠き、かえってスピードが落ちてしまう。

これは、昔から武道などでは言われていたことですね。すなわち、身体の動きというのは「無意識」でできるようになって、初めて達人の域に達するわけです。

芥川龍之介が『侏儒の言葉』の中で、「百里の道は、九十九里をもって半ばとす」という故事成語を取り上げているのを思い出しました。スポーツ選手にとってゴールまでの残り数メートルは、九十九里から先の、とても遠い「あと一里」にあたるわけです。なぜ、そんなに遠いのか。それはゴールを意識していまい、頑張ってしまうからです。

スポーツにとって、最後のラストスパートはいわば苦行です。けれども皮肉なことに、ラストスパートをかけようと「意識してしまう」と選手当人が苦行の形相でがんばると、身体のポテンシャルは逆の方向に向いてしまい、スピードが落ちてしまう。力が出なくなってしまう。

これが、「日本人選手は本番に弱い」という俗説の正体、というわけです。

かつてマラソンでは、日本人選手の多くが、42キロあまりを走ってゴールについた瞬間、コーチの腕に倒れ込んだものです。選手たちは42キロ走って、身体的に限界に来たから倒れ込んだわけではありません。体力的にはまだ何十キロも走れるはずです。なのになぜ倒れるか。あれはまさにゴールしたと同時に「心が折れた」状態になったわけです。まさにゴールを「意識してしまった」結果、ぽきりと折れるように地べたにはいつくばる。

じゃあ、そんなに頑張った選手たちが勝てたかというと、彼ら彼女らの前に、けろりとした顔でゴールテープを切り、にこやかに優勝を手にした外国人選手がいたりした。

このあたりの状況、でも最近は変わってきましたよね。

昨今、マラソンで活躍する日本人選手たちは、ゴールしたあとも実に朗らかな顔をしている。

そうそう、北島選手がかつて優勝したとき、「ちょー気持ちいい」と思わずはいた台詞がありますね。林さんが北島選手に聞いたところ、あの台詞は用意したわけではなく、思わず口をついて出た言葉だったそうです。

ゴールを意識せず、平常の心で無意識に自分のパフォーマンスを気持ち良く行う選手が結果を出す。

最後の遠い一里をものともせず、平常心で、無意識のうちにゴールを通過する選手たち。最近の日本のトップアスリートの強さは、こうした脳科学の側面からもはっきり見てとれるわけです。

オリンピックのような超人たちの戦いだからこそ、こうした人間の身体の秘密が見えてくる。長年、脳と身体のことを考えてきた私にとって、とても得心のいく話です。

東京で、オリンピックがもし開催されることになったら、スポーツをただ観戦する、というのとちょっと違った目で、ちょっと違った観点で、たとえばこんな脳科学的な見地から、オリンピックに触れてみると面白いかもしれないですね。

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