今年12月、COP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)が開催され、京都議定書の次の枠組みが決められる。これにより、企業の環境問題への取り組みはさらに厳しく求められるようになるだろう。この環境問題に対し、日本企業は今、何をすべきか――。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)ジャパン、東京大学、日本IBMの代表者が集まり、戦略の大きな転換が迫られる環境経営に対し、日本企業はどう向き合うべきかについて話し合った。

IBM LEADERS'INSIGHT:環境経営:戦略の大きな転換が迫られる環境経営 日本企業は今、何をすべきか

今年12月、COP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)が開催され、京都議定書の次の枠組みが決められる。これにより、企業の環境問題への取り組みはさらに厳しく求められるようになるだろう。この環境問題に対し、日本企業は今、何をすべきか――。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)ジャパン、東京大学、日本IBMの代表者が集まり、戦略の大きな転換が迫られる環境経営に対し、日本企業はどう向き合うべきかについて話し合った。

温暖化対策の枠組みを超え、社会全体が変化に向けて舵を切る

国際環境計画 金融イニシアチブ特別顧問 / CDPジャパン チェアマン 末吉 竹二郎氏
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 教授 松橋 隆治氏

末吉 今年後半から来年前半にかけて、社会全体の考え方が大きく変わる転換期になるでしょう。2013年以降の地球温暖化対策の枠組みが決まる「ポスト京都」の議論がすでに始まっています。ここで決まるのはCO2削減目標だけではありません。地球社会がこれから“どこを目指すのか”が決まるのです。

 働く人はもちろん、すべての生活者の消費のありかた自体が変わってきます。個別の企業にとっては生き残れるかどうかの岐路であり、戦略の大きな転換が迫られることになります。変化の兆しを見逃さないことが重要ですね。

松橋 確かに企業側の姿勢も大きく変わってきました。90年代は温暖化対策への努力を「できるだけ少なく済ませたい」という感じでしたが、今は「ビジネスに役立つ」ととらえているのが伝わってきます。

 また、データからも温暖化対策と株価の相関関係が変わってきたことが分かります。2000年の初めごろまではコスト高などによって株価に悪い影響が見られましたが、2003年ごろからは比例するようになってきました。変化の兆しは2000年代の前半から現れています。

 経営者も温暖化対策を積極的に進めたいと話し、ハイブリッド車や省エネ家電も人気です。ただ、全体がそういうマインドになっているかどうかというと疑問も残ります。実際に収益の大部分は他の事業から生み出されています。本音と建前が若干、かい離している状態です。

 しかし、環境問題は多くの人が知るところとなり、関心も大変高くなっています。今後はポスト京都の議論が進められる中で本音と建前が一致してくるでしょう。本格的な変化に向けて“覚悟して舵を切る時代”に入るのではないでしょうか。

日本IBM 執行役員 未来価値創造事業担当 岩野 和生氏

岩野 ITの世界は飛躍的に進化しましたが、経営環境はますます複雑になっています。私たちの調査では、世界のCEOの約半数が「存続するには企業ブランドの見直しが必要」と考え、そのキーワードの1つに“環境問題”を取り上げ、地球との共生が企業の存続につながるとしています。

 しかし、現在のコンピューターの利用状況に目を向けると、データセンターで使われるエネルギーのうち計算処理に使われているのはわずか3%で、50%が熱の冷却に使われています。さらに分散計算環境では、85%もの計算資源が使われていないアイドル状態にあります。処理能力へのニーズが増す中で、このような非効率的な状況が生まれています。その観点からもエネルギー問題に立ち向かわなければなりません。

企業レベルの最適化ではなく、社会としての全体最適を追求すべき

末吉 効率化だけでイノベーションを進めていくには限界があります。大きな変革のためにはモデルそのものを変えることが必要です。これまでは企業を単位とする部分最適の追求でした。気がついてみるとその部分最適が集まってひどい状態になっており、それが地球温暖化に結びついている、ということです。

岩野 IBMは1970年代から環境問題に積極的に取り組み、CO2の総排出量をグローバル・レベルで削減してきました。日本IBMとしても1990年比で2007年までに66%削減しました。これだけ劇的に下げることができたのは、ビジネスモデルを変えてきたからです。サプライチェーンに正しい情報が伝わる仕組みを作ってムダをなくし、技術を駆使して物流を最適化するとともに、サーバーやデータセンターの統合を進めてきました。

 2007年には、企業を世界規模で運営する「Globally Integrated Enterprise (GIE)」による全体最適化を提案し、今年初めからは「Smarter Planet」という新たなビジョンを打ち出しました。世の中のもの森羅万象がつながり、それらの活動や関係の情報が取り出せ、社会的価値観にしたがって統合化、判断、最適化でき、そして社会・ビジネス生態系に変革を与えることができるという考えです。その意味で、もっと「賢い」生態系を追求できるのだと考えています。

 IBMは技術を提供することで変化を支援し、社会に貢献したいと考えていますが、そのときに最も大事なのは「社会をどういう方向に持っていくのか」という価値観です。それに則ってポリシーを作り、変化に向けてドライブをかけていくことになります。

末吉 私は金融業界出身ですが、「どこを見てお金を貸しているのか」という話をよくします。企業ではなく、日本という国の向かうべき方向を見て、その方向感と個々の貸し出しを合致させるべきです。

 そうすれば、企業も「社会はどこへ向かおうとしているのか」を踏まえて活動するようになります。それを金融機関が支援していくという形が望ましいと考えています。

松橋 部分部分が活動していても、社会全体がうまくいっていないことの1つが「地球温暖化の問題」であることは確かです。

 1980年代に論文が発表された「熱の多段利用」を例に説明しましょう。熱エネルギーを効率的に利用するためには、まずいちばん高い温度の需要があるところで利用して、順次低いところへ下げていけばよいという概念です。10回使えばエネルギーの需要を10分の1にすることができます。私たちの研究でも画期的にエネルギー効率を上げられることが分かりましたが、日本では法制度や規制が壁になって普及していませんでした。しかし、北欧では大きな成果を上げています。

 もちろん、風土や文化の違いもありますが、これからは何が大事なのかという価値観を社会で共有し、そこから必要な規制緩和や法制度の改定を考えていくべきでしょう。そうすれば熱の多段利用なども進み、全体の最適化に近づくのではないでしょうか。

客観的な評価基準と「CO2の通貨化」で本音と建前が一致する

末吉 風土や文化の違いも含めて「どうしたら社会の変革を始められるか」が地球温暖化問題の根底にあると思います。

 本音と建前のギャップを埋める手段は大きく2つあります。1つは「ルールを変える」ということです。これは法律を改定したり、社会規範に盛り込んだりすることで実現できるはずです。もう1つは、お金をどう結びつけるかということです。温暖化対策に取り組んだ人が得をするといったインセンティブを用意すれば人も企業も動きます。金融という方法もありますが、実は税金が有効です。集めた税金を、誰に、何のために渡すのかということが重要になります。

岩野 今は技術が進化して、簡単に情報が入手できるようになっています。情報から生態系を見ることで、新しい社会経済モデルの可能性が見えてくると思います。

 また社会規範という面では、日本には昔から下の田んぼのために、上の人が水を融通してきたという歴史があります。地域社会には共存共栄のための知恵がありました。環境問題でもそういう知恵が出てくると、もっと地球環境に良い社会規範ができあがってくるはずです。

末吉 私たちCDPが進めている「CO2排出量に基づく企業評価モデル」の役割も大きいと思います。企業グループとしてどのように温暖化対策に取り組んでいるのか、商品やサービスのレベルではどうなのかを、社会が正しく判断するための尺度を示すことになります。

岩野 その尺度を基準に評価して「見える化」することは、世の中の人にとって重要ですね。新しい社会規範を作る流れを生み出す原動力にもなるはずです。

松橋 指標に基づいて分析したところ、温暖化問題に取り組んでいる企業は高い収益性を実現しているという相関関係があることが分かりました。温暖化問題への取り組みが、企業の生き残りの条件の1つであることがデータで裏づけられたことになります。

 また、製品のライフサイクル全体の環境負荷を評価するライフサイクル評価という手法も見直されてきています。最近では、カーボン・オフセット商品や、カーボン・フットプリント、CO2排出権付き商品などが登場してきました。これらはライフサイクル評価によって消費者の意思決定を助けることができることから注目されています。

末吉 CO2排出量の国内クレジットの取り引きも始まり、太陽光発電の固定価格買い取りも近く開始される予定です。これは、CO2が貨幣としての価値を持ったという意味で大きなステップと言えます。

 すべてを貨幣価値に置き換えて考えるべきではなく、倫理面からの理解が求められることは言うまでもありませんが、温暖化の問題がそれだけ重要であり、社会はその方向に動いています。本音と建前の一致はすでに始まりつつあるのです。

Page TOP »
  • 環境経営

LEADER'S INSIGHT HOME >>

おすすめVIDEO

環境経営(1)ポスト京都への舵取り

環境経営(1)ポスト京都への舵取り

記事を読む >>

動画を見る >>

環境経営(2)全体最適に向けた価値観とは

環境経営(2)全体最適に向けた価値観とは

記事を読む >>

動画を見る >>

環境経営(3)情報開示の重要性とは

環境経営(3)情報開示の重要性とは

記事を読む >>

動画を見る >>