


IBMはこれまでにも外部調査機関に委託してCIOに関する意識調査は行っていたが、IBMの社員が直接インタビューしてまとめた調査レポートは今回が初めてとなる。調査期間は2009年2月から4月までで、世界78カ国・19業種・2500人の企業ならびに公共機関のCIOが対象となった。「日本では162社のCIOに話を聞きました。私も実際に十数名のCIOとお会いしましたが、取り組みの実情や企業としての考え方など、アンケートによる調査では得ることができない深い話を生の声で聞くことができ、たいへん貴重な経験をすることができました」と加藤氏は語る。
今回のCIOスタディの最大の成果は、ビジネスの成長に貢献するCIOは3つの対となる役割、一見相反する「6つの役割」を補完的にうまく両立させていることが大きな特徴となっている(図1)。行動様式の1つめは事業部門とうまく連携してITを活用した将来ビジョンを描く「洞察力に富んだ先見者」だ。2つめは変革実現の具体的な計画を策定する「有能な実務者」である。このふたつは一見矛盾しているが、両方を実現することによってビジネスモデルの変革を軸にしたイノベーションを具現化している。


3つめは社外・社内の顧客ニーズを把握し、より良い施策を立案する「見識ある価値創造者」。そして4つめはコスト削減へ向けた方策をたゆみなく追求する「あくなきコスト削減追求者」である。この両者を両立させることにより、ITの投資対効果の最大化を実現している。また、5つめはCFOなど他の経営層と「協働するビジネスリーダー」、6つめが部下であるITリーダーの能力を認め、IT部門の専門性を高めて効果的に新しい施策の導入に取り組む「組織を活性化するITサービス提供者」である。これを両立させることによってビジネスへの貢献を拡大している。
「これら6つの役割をすべて実現するのは難しいことですが、CIOとしては、やらなければならない仕事です。自分ひとりですべてやらなくても、それを補うサブCIOやチームを設けて仕事を分担し、次々と発生する課題に、6つの役割をうまく歩いて対処する必要があります。実際、ある高成長企業のCIOは6つの役割をチームとして実現し成功されています」と椎木氏は語る。
グローバルの高成長企業のCIOは、これらの6つの行動様式のすべてにわたって特性値が高いのではなく、「洞察力に富んだ先見者」「協調するビジネスリーダー」「有能な実務者」が高い(図2-A)。その背景には、CIOとサブCIOの役割分担を明確にして、CIOはより経営に近い部分を受け持っていることがある。これに対して日本企業は「組織を活性化するITサービス提供者」の特性値が高いことが大きな特徴となっている(図2-B)。

そのことから、日本企業ではCIOがITマネージャーとしての役割をサブCIO以下のIT部門に委譲できておらず、IT部門長として行動している、あるいはIT部門長に委譲しても、他の役割(管理部門担当など)との兼務であるためCIOとしての役割を果たす時間を取れていないケースが多いことが分かる。「グローバル化が進み、単純な輸出モデルは成立しなくなる中で、企業には新しいビジネスモデルを作り出すことが求められています。それは全世界を1つの企業活動の場ととらえ、経営資源を最適化するモデルですから、ITを徹底的に活用し、世界中の資源を同時に管理できるしくみを実現しなければ経営が成り立ちません。そうしたモデルが必要な企業では、CIOはCEOに近い能力が必要になります」(椎木氏)。
このようなCIOを育てるためには、CEO候補となる可能性がある人材に、専任のCIOを経験させる人事政策を意識的に実施することも有益と思われる。それによってCIOとして、ITが経営にどのように役立つかを理解したうえで、CEOになった際には、十分にITを経営に活用できるようになる。今回のCIOスタディはCIOへ向けての提言にとどまらず、CEOに対しての参考にもなるだろう。
今回のCIOスタディを踏まえて、IBMは企業の成功に貢献するイノベーションパートナーとして顧客との関係を今まで以上に強化していく。「IBMとして、CIOスタディから得たグローバルな知見を企業のトップだけでなく、経営層全体に届け、共有できるような仕組みを作っていく考えです。顧客企業との長期的で密接な信頼関係にもとづいて、その知見をもとに新しいビジネスモデル創出のための作業をともに担っていきたいと考えています」と加藤氏は今後の抱負を語った。