FPGAの概要や開発手法については、ここまでの連載でご理解いただけたと思う。ここからは少し角度を変えて、FPGAが実製品でどのように活用されているのか、数回にわけて紹介してゆく。技術革新や低コスト化を追い風に、産業用機器から民生用機器に至る幅広い分野で採用されているFPGA。今回はFPGAの採用分野について、歴史的背景とともに紹介する。使用されている分野を知ることで、FPGAに対する理解をさらに深めることができるだろう。
前回までの連載を通じて、FPGAの概要やメリットを概観してきた。ポイントをまとめると、論理を自由にプログラミングできるFPGAには、
・開発期間を短縮できる
・NREコストがかからないため開発コストを削減できる
・製品出荷直前まで回路をチューニングできる
・出荷後もフィールドにおいて機能強化を図ることができる
といったメリットがあり、これによりさまざまなフレキシビリティを製品開発の現場にもたらすことができるということを述べてきた。
また、優れた開発環境も用意されていて、グラフィカルな直感的操作からコマンドを使ったスクリプト処理まで、設計者の好みやニーズに合わせた効率的な開発を支援している。
こうした利点に加え、微細化によるデバイスの低価格化により、FPGAの採用分野は近年拡大の一途にある。今ではデジタル家電などのコンシューマ機器での採用も多い。そこでここからは少し目先を変え、FPGAがこれまでどのような製品で採用されてきたのか、どのように普及してきたのか、実際の製品ではどのように活用されているのか、具体的な例をあげながら見てゆくことにする。まず今回は、FPGAの採用分野の概要を、歴史的背景とともに紹介する。採用されている分野を知ることで、FPGAに対する理解をさらに深めることができるだろう。
1980年代後半「夢のデバイス」誕生:試作・評価で活躍
FPGAの誕生は1985年である。ハードウェアは一度作ったら変更が難しい、という考えが当たり前だった当時、プログラミングによって回路を何度でも自在に組み込むことができるFPGAは、「夢のデバイス」(連載第1回「"夢"のデバイスFPGA」)としてエンジニアから迎えられた。
当時も回路を電気的にプログラミングできるデバイスとして、GAL(Generic Array Logic)あるいはCPLD(Complex Programmable Logic Device)も存在していた。だがFPGAは、連載第2回目「FPGAの中をのぞいてみる!」でも説明したように、ルックアップテーブルとレジスタで構成されていて、CPLDよりも複雑な論理を組みやすいという特徴がある。そのため、半導体技術の進展とともに将来の大きな可能性が約束されていた。
とはいえ、初期のFPGAは論理規模も小さくコストも比較的高かったこともあり、実製品への搭載より、むしろ研究機関や大学での試作や回路教育を目的とした評価という目的で使用されていた。
この時期から1990年代後半にかけて、多くの半導体ベンダーがFPGA市場に参入した。競争の激化により技術開発とコストダウンが促進され、本格的な開発環境も登場した(図1)。
1990年代前半:実製品での本格採用スタート
1990年代前半はFPGAの普及がいよいよ始まった時期である。FPGAベンダーの日本法人も相次いで設立され、日本市場で本格的な展開を進めていく体制も整えられた。
プロセスの微細化とアーキテクチャの改良、さらに開発ツールによる設計容易性が高まり、FPGAがより身近なものになり産業機器や通信基幹装置での採用もみられるようになってきた(図2)。
この時代、1993年に、国内の大学が中心となって、「Japanese FPGA/PLD Design Conference and Exhibit」というカンファレンスの第一回目が開催されたのであるFPGAの有効性が教育利用で認められるとともに、計算機アーキテクチャや処理アルゴリズムなどの研究でも活用が進んでいたことを意味する。1995年に開催された第3回目では、米Supercomputing Research Center(当時)のDuncan Buell博士から、FPGAで構成したスーパーコンピュータ「Splash 2」の紹介があった。かなり最先端の研究にまでFPGAが使われていたことが分かる。ベンダー側からもアルテラ社がカンファレンスと展示会で構成する「PLD World」を1994年から開催し、PLD/FPGAの普及に努めた。
1990年代後半:通信業界を中心にFPGAの採用がさらに拡大
1990年代後半はFPGAの普及に弾みのついた時期である。その理由のひとつは、デバイスの機能が一段と向上してきたことだ。たとえばアルテラからはニーズの強かったメモリブロックを内蔵したFLEX10Kがリリースされ、広範な採用が進んだ。また、論理規模もゲート数換算で100万から150万ゲート規模にまで拡大し、PCIバスインタフェースに代表されるIPコアも提供され、ASICの置き換えが可能となる環境が整った。HDL(VHDL/Verilog)を使った設計手法も本格化した。
普及を加速したもうひとつの理由は通信市場の拡大である。もっとも強い牽引力となったのが携帯電話の普及だ。通信基幹装置、携帯電話基地局、通信計測機器の需要が急増し、ASICよりも短期間で開発できるFPGAに白羽の矢が立ったのである。同時に、医療機器や産業機器への採用も広まった。部品単価だけで見ると高いといわれがちのFPGAだが、その単価も順調に下がり、普及を支えた(図3)。
前セクションで取り上げた「Japanese FPGA/PLD Design Conference and Exhibit」の1998年のアジェンダには、あるセッションで日本のコンピュータメーカー大手3社がパネルとして登場し、「PCIバスインタフェースにおけるFPGAの利用」、「交換機におけるFPGAの利用」、および「画像処理装置開発におけるFPGAの利用」をテーマに実際の応用事例を紹介した記録が残っている。
部品の認定や採用基準が厳しいことで知られる国内メーカーも、この頃にはFPGAのメリットを認識するとともに、信頼性等の面でもお墨付きを与えていたことが分かる。また、紹介のあった三つのテーマ、すなわち
・高速インタフェース
・通信制御
・画像処理
は、現在もFPGAの利用シーンとして中心的なものだ。当時のエンジニアがFPGAの特徴を適切に把握し、製品に組み込んでいたことが窺えよう。
なお、1980年代後半から1990年代前半に多くの半導体ベンダーがFPGA市場に参入したと述べたが、そのほとんどがこの時期にビジネスから撤退している。現在は、FPGAの実質的にビジネスを継続しているのはアルテラを含む4 社となっている。
2000年代:デジタル家電などコンシューマ製品でも採用が進む
2000年はITバブルが弾けた年である。通信需要を背景に急激な伸びを示していたFPGA市場は、バブルの崩壊とともにいったんは落ち込んだものの、その後はもちなおし、現在では半導体全体の成長を上回るペースで成長を続けている(図4)
2000年代の牽引役となっているがデジタル家電やデジタルAV機器だ。シリコンオーディオプレーヤー、DVD/HDDレコーダー、液晶/プラズマテレビ、デジタルカメラ、スマートフォンなどのコンシューマ製品が相次いで登場し、そのうちのいくつかのモデルにはFPGAが使われている。
かつてFPGAのデバイス価格がきわめて高かった時代を経験してきた世代の読者にとっては、コストに敏感な民生機器にFPGAが採用されることなど、にわかに信じ難いところもあるかもしれないが、ASICに比べて開発費もかからないこともあり、今や「普通の部品」として扱われているのが実態なのである。
このほか、ネットワーク機器、放送機器、ポータブル医療機器や計測機器などにも市場は拡大するとともに、通信インフラ機器、産業用機器、テスタ、医療機器などの高性能な領域でもASICの代わりにFPGAをメインのLSIとして採用する例も増えている。
こういった利用が加速している背景には、やはりFPGAの進化がある。ひとつは性能追求品と低価格・低消費電力品との二極化が始まった点だ。アルテラの製品を例に挙げると、前者はStratixシリーズであり、後者はCycloneシリーズに相当する。2002年9月に発表されたCycloneは、最小規模のEP1C3の価格がわずか4ドルと安く、FPGAの裾野をコンシューマ分野にまで一気に広げる契機となった。
【参考 http://www.altera.co.jp/corporate/news_room/releases/releases_archive/2002/products/nr-cyclone.html】
一方で高機能化および高性能化も進んでいる。プロセッサコア(アルテラの場合はNiosコア)を内蔵できるようになったほか、トランシーバの内蔵により高速インタフェースの構築が容易になった。もちろん、半導体の微細化を背景に、大規模化もとどまるところを知らない。
このようにFPGAは、市場の変遷を辿りながらもその地歩を着実に固めていった。現在は、IT社会や通信インフラを支える高信頼かつ大規模な機器から、コンシューマ用のデジタルポータブルデバイスまで、幅広い応用が進んでいる。今後もASICの置き換えを中心にさらなる採用と展開が見込まれているFPGAは、今や「産業の米」のひとつとして、デジタル社会に深く浸透しているのである。
次回は画像処理と通信制御を例に、具体的な応用事例を掘り下げてみたい。
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FPGAのPはProgrammableの頭文字のPです。その「プログラマブル」の名の通り、FPGAは、「後からでも回路の書き換えが可能」である点が大きな利点になっています。詳しくはアルテラの「FPGA入門」をご覧ください。
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