“モノづくり日本”の強さを支えてきた技術やノウハウが,新たな危機にさらされている。知的所有権(特許,著作権,肖像権)に対する海外での訴訟や侵害が増加しているのだ。世界に展開するすべての日本企業が,この“グローバル訴訟リスク”に直面していると言っても過言ではない。しかもリスクは賠償だけではない。弁護士をはじめ,証拠開示(ディスカバリー)にかかるコストも無視できない額になる。そうした状況下で,証拠開示プロセスを劇的に効率化する「リーガルテクノロジー」に注目が集まっている。法務部門や知財部門の方だけでなく,ITに関わる方もこの流れを理解しておく必要がありそうだ。Eディスカバリーベンダーとして日米を中心に活動する,株式会社Ji2のキーパーソンに聞いた。
対岸の火事ではない“訴訟リスク” 日本企業が直面する,新たな危機

代表取締役
藤澤哲雄氏
日本企業を標的にした訴訟が,米国を中心に増加傾向にある。訴訟リスク低減の支援サービスを提供する株式会社Ji2の藤澤氏は,グローバル訴訟の現状を次のように語る。
「いま米国で提訴されているグローバル訴訟の年間2,000件以上,IP訴訟では全体の10%近くに日本企業が関わっています。ご注目いただきたいのは,近年,『知的所有権』に関連する訴訟が急増していることです。特許,著作権,トレードマーク,肖像権に関する訴訟は,企業にとって特にリスクが大きいので早急な対策が求められます」
日本企業が考慮すべき訴訟は,大きく3つに分類される。前述の知的所有権に関する「IP(Intellectual Property)訴訟」に加え,製造物責任に関する「PL(Product Liability)訴訟」,そして独占禁止調査に代表される「行政調査(Government Investigation)」である。この中で「IP訴訟」のリスクが大きいのはどのような理由か。
「IP訴訟では,賠償額が数百億円に上るケースも珍しくありません。ビジネスに与えるダメージも桁違いに大きいと言えるでしょう。アジア圏を含む世界中の企業が,訴訟の舞台として自国ではなく米国を選ぶ理由は,この賠償額の大きさにあります。また,数億円というコストをかけて情報開示を行わなければならない可能性も忘れてはなりません」(藤澤氏)
莫大な賠償金を支払うリスクの大きさはわかるが,数億円のコストを要する“情報開示”とは何を指すのか。
「米国の民事裁判では,提訴から審理が開始されるまでに,原告・被告双方が『ディスカバリー(Discovery)』と呼ばれる証拠開示を行います。企業で扱う情報は膨大です。その中から必要な情報を正確に選別し,証拠能力を維持しながら抽出する作業にかかる手間とコストは大変なものになります」(藤澤氏)
IP訴訟で損害賠償を争うような場合,技術部門をはじめ営業・マーケティング・財務などを巻き込んだ関連社員の特定と,非常に大掛かりな資料取得を行わなければならない。
「2006年12月に米国連邦民事訴訟規則(Federal Rules for Civil Procedures:FRCP)が改正され,電子データに関わる情報公開の方法が取り決められました。それ以降,電子証拠開示いわゆる『Eディスカバリー』が急速に進みました」
Eディスカバリーへの対応が必須になったことで,証拠収集・分析の作業は一気に拡大した。これまでのように現地の弁護士に丸投げしていては,訴訟コストの増大に歯止めがかからない。
「訴訟リスクを低減するためには,Eディスカバリーの効率化が不可欠です。この考え方に基づいて,米国企業を中心に『リーガルテクノロジー(Legal Technology)』の導入が進んでいます」
ディスカバリーの優劣が訴訟の結果を大きく左右する
米国の民事訴訟の場合,およそ95パーセントは訴訟の早期,または「ディスカバリー」の過程で和解に至るという。しかし,藤沢氏は「ディスカバリーを優位に進めて最終的に有利な条件で和解するには,大量の電子データをスピーディかつ効率的に処理できなければなりません。まさにこれを支援するのが『リーガルテクノロジー』なのです」と強調する。
「日本では,訴訟リスクを低減するための事前措置を講じている企業は,欧米に比べてまだ少ないというのが実感です。企業が扱う情報のおよそ80パーセントが電子データと言われていますが,Eディスカバリーへの対策を行っている企業は数えるほどです」
開示の対象となる情報は,原告・被告双方の面会協議(Meet and Confer)によって合意されるが,原告は非常に広範な,膨大な量の証拠を要求するのが定石となっている。
「特許訴訟では,特許侵害によってどの程度の利益が損なわれたか,ということが大きな争点になります。広範な部門を対象に,関連ドキュメント,メタデータ,社員がやりとりした電子メールの履歴まで要求されるのが通例です」
また,藤沢氏は「合意したディスカバリーを履行できなかった時のリスクも考慮すべき」と続ける。
「裁判所から『ディスカバリー違反』と判断された場合,違反者にとってその審理は極めて不利になるばかりでなく,弁護士費用の負担など金銭的な制裁を受けることもあります。本来の訴訟の観点ではなく,ディスカバリーの問題で裁判に負けるというのは最悪のケースと言えるでしょう」
Eディスカバリー=電子データによる証拠開示――現代の訴訟においては「リーガルテクノロジー」による支援が不可欠だ。
Eディスカバリーの解析処理を正確,高速かつ効率的に行うには
情報の特定から,保全,処理,提出文書の作成まで――Eディスカバリーの標準プロセスは,リファレンスモデルEDRM(Electronic Discovery Reference Model)として認知されている。実際にどのような手順で進められるのか,Ji2社のセールスエンジニア 吉田氏に聞こう。
「ごく一般的な例をご説明しましょう。まず,関連する電子データとその保持者の所在をすべて明らかにします(データマッピング)。次に,対象と範囲を適切に決めて電子データを収集・保全します。保全作業には,電子データを破棄や改ざんから保護する目的もあります」
PCやファイルサーバーから保全されるデータの容量は,数テラバイトに及ぶことも珍しくない。

技術本部 SE・サポートチーム
兼 営業&マーケティングチーム
セールスエンジニア
吉田卓氏
「弁護士チームのレビューに先立って,Eディスカバリーベンダーが保全したデータを解析処理し,必要な情報をキーワード検索等により抽出します。企業は相手側からの開示要求に対して,合理的な範囲で,可能な限り訴訟に関係する全ての文書を提出するよう最大限努力する義務があります。しかし,機密情報や秘匿特権文書の不用意な開示も避けなければなりません。いかにリーガルテクノロジーを駆使して正確かつ高速に訴訟関連文書を特定するか,それが私たちの実力が問われる領域です」(吉田氏)
処理の正確性とスピードはもちろん,コストも重要なポイントだ。保全データを解析して必要な情報を抽出し,文書レビューツールにアップロードするまでの作業に関わる費用は,一般的なEディスカバリーベンダーで1GB当たり350〜1,000ドルを要する。数テラバイトに及ぶデータ量ともなれば大変な額となる。
「解析対象となるデータの絶対量を減らすことができれば,処理コストは削減できることになります。私たちは,保全したデータの“一次仕分け”をEディスカバリーのプロセスに組み込むことで,解析処理対象となるデータを1/10にまで削減することに成功しました」
一次仕分けを経たデータに対して,より高度な解析処理を実行する。そこで最終的に抽出された“非常に小さなデータ”を弁護士チームに提供するというわけだ。
「情報を段階的に絞り込むことで,正確かつ高速で,しかも効率的なEディスカバリーを実現できるのです」(吉田氏)
Eディスカバリーのプロセスを変えたソリューションを,次章で詳しく紹介しよう。
Eディスカバリーのプロセスを革新するアプライアンスソリューション
Ji2社が提供するEディスカバリーソリューションの全容は,次のようなものだ。
「プロセスの前半部にあたるデータの保全・収集を,HPの情報管理プラットフォーム『HP Integrated Archiving Platform(HP IAP)』が定期的・自動的に行います。保全対象は,ファイルサーバーからデータベース,E-Mailまで広範に設定できます。HP IAPは,データアーカイブ時にインデックスを作成します。これにより“一次仕分け”が非常に容易になるのです」(吉田氏)
たとえば,E-Mailのデータであれば,ドメイン,ユーザー名,送受信日時,件名などの項目で高速検索が可能だ。前述のとおり,HP IAPによる一次仕分けで,データ量はおよそ1/10に削減することができる。
訴訟に関連する可能性のあるデータのみをまとめて,改ざんや消去から保護する作業は,一般的に”訴訟ホールド(Litigation Hold)”と呼ばれている。”訴訟ホールド”におけるHP IAPが果たす重要な役割について,日本HPの樋口氏は以下のように説明する。

HPソフトウェア・ソリューションズ統括本部
マーケティング部 部長
樋口裕一氏
「電子データを証拠として開示するためには,そのデータが改ざんされる可能性を回避する仕組み,万が一,改ざんされてもその事実が把握できる仕組みが必要となります。HP IAPはこの問題に対して以下の3つの機能で対応します。
1つ目は,監査担当者,法務担当者など該当データを閲覧する権限をもった管理者といえども,あらかじめ設定されたデータ保持期限内は保存データの改ざんや不正削除が出来ないという点,2つ目は,HP IAP内部のデータは外部とは完全に隔離され,かつ暗号化されているため,システム管理者といえども,ハッキングが極めて困難であるという点,そして 最後は,万が一root権限でHP IAP内部に侵入し,様々な方法を駆使してデータを改ざんしたとしても,電子署名の比較により改ざんの事実が判明するメカニズムをもっている点です。
また,設定された保持期間を過ぎたデータは自動的に削除されるので,企業の電子文書管理ポリシーに準じたIT対応をするときも,企業内における作業が非常に楽に行えます。」
これに対しプロセスの後半部を担うのは,高度な解析処理とレビュー機能を備えたユニークなソリューション「Clearwell eDiscovery Platform」である。
「Clearwellは,HP IAPから抽出されたデータに対し,より高度な抽出処理,分析,絞り込み,レビュー,提出文書生成の機能を提供します。自動的な重複排除処理や検索ワードを事前に検証できるトランスペアレントサーチにより,対象データの絞り込みを効率的に行います。400以上のファイル形式をサポートし,自動的な重複排除処理,英語・日本語はもちろん中国語を含む多様な言語に完全対応しています」(吉田氏)
Clearwellはアプライアンス製品として1ボックスで提供される。データを外部に持ち出すことなく,社内で処理を完結できることもメリットだろう。吉田氏は続ける。
「電子データの自動アーカイブから,抽出したデータの高速検索,分析,レビュー,レポーティングまでを一貫して処理可能なソリューションは,他に例がありません。一次仕分けをHP IAP,二次検索となる解析処理をClearwellで分担することで,極めて合理的なEディスカバリープロセスを実現しています。さらにこのプロセスは,会計監査や社内調査などの幅広いリスクマネジメントに汎用できるため,プラスアルファのコスト効率が期待できます」
守りから攻めの訴訟リスク対策へ 日本企業に求められる発想転換
グローバル訴訟やディスカバリーに対して無防備であることは,日本企業にとって知的所有権(IP)の危機を意味する。藤澤氏は「今こそ,訴訟リスク対策の“発想転換”が必要」と言う。
「グローバル訴訟は“事故”ではありません。リスクマネジメントの対象として,また経営課題として捉えるべき課題です。また,これまで培ってきた知的所有権を正しく守るだけでなく,利益の源泉として戦略的に活用していく“攻め”の姿勢も重要です。守りと攻めの訴訟戦略は,日本企業の共通テーマになっていくはずです」
Ji2社は,Eディスカバリーの全てのプロセスを一貫して支援するサービスを提供してきたが,一方で「社内Eディスカバリープロセス構築ソリューション」にも力を入れている。
「短期的な事後対応だけではなく,社内にEディスカバリープロセスを構築することには大きなメリットがあります。私たちの試算では,社内に適切なEディスカバリーインフラを整備し,それを運用するための標準化されたプロセスを持つことで,ディスカバリーにかかる費用はアウトソースする場合と比較して,少なくとも50%以下に削減できます。本格的な証拠開示手続きを必要とする訴訟を1年に2本以上抱える企業にとっては即効性のある投資対効果と言えるでしょう」(藤澤氏)
Ji2社と日本HPのアライアンスは,より能動的に,より戦略的に訴訟リスクへの対応をめざす企業にとって朗報となるに違いない。
詳しくは 9月16日(木) 開催の「 HP Software Universe Tokyo 2010」 で!!
C-2「IT部門も知っておくべき、米国訴訟における電子証拠開示の実務」
(まとめ)
IT部門の方にも,IP訴訟がいかに大きな経済的損失を伴うリスクであるか,ぜひ知っておいていただきたい。一般には,訴訟への対応は法務部門・知財部門が解決の推進役となるケースが多い。しかし,Eディスカバリーの巧拙が和解条件を左右する状況下においては“IT部門の協力”は欠かせない。関連情報が会社のどこに所在するのかを常時管理する,いわゆる“データマッピング”をIT部門の責任範囲とする企業も現れた。訴訟リスクへの対応=ディスカバリーへの対策は,経営課題であるとともにIT課題でもあるのだ。





