


セミナーは、主催者である日経ビジネスオンライン発行人渋谷和宏氏の挨拶から始まった。
渋谷氏は、日本の企業の状況を概観し、バブル経済が崩壊するまでは、世界最強だった日本の企業群が今、世界でうまく事業を進められなくなっていること、対照的に韓国や中国の企業が勢いを増していることを指摘、その遠因として、ビジネスの主戦場が欧米市場から、アジアを筆頭に中南米、アフリカなど新興国市場に移ったことを述べた。日本企業は、欧米市場で支持された高機能・高品質な製品が、新興国市場ではしばしば、高機能過ぎ、高品質過ぎて受け入れられないことに気づかないまま、失敗することが多かった。そこには、刻々と変化する経営データをタイムリーに把握できていない、世界のさまざまな地域で活躍できる人材が十分に育っていないといった問題も潜んでいる。
対照的に世界で躍進したのが韓国のサムスンである。かつて韓国企業は、高品質の製品では日本の水準に届かず、低価格の普及品では中国から追い上げられる厳しい状況に合っていたが、サムスンはそこから抜け出し、近年は台頭する新興市場で圧勝している。
一方、経営側が新しい市場の変化・動向を把握し、迅速な判断・行動をするには、的確な情報の入手が欠かせない。その実現に欠かせないのがITの利用だが、これまた日本企業では十分とは言えない。
セミナー参加者からは、このような課題を解くヒントを得たい、という熱い期待が感じられ、全員が熱心に講演者の言葉に耳を傾けていた。

サムスン躍進のきっかけとなった出来事が2つある。1つは1993年に、現在のサムスングループ会長のイ・ゴンヒさんがフランクフルトで宣言した新経営方針、もう1つは1997年に起こった金融危機、いわゆる韓国のIMF危機だ。2つに共通するのは、これまでの事業のやりかたを全否定し、社会の変化を敏感にとらえ、サムスンから韓国を変えようという意識である。
それに比べると日本企業の経営者は、今なお、日本が世界で最も成功した製造業大国だったときの幻影を心のどこかに抱いているようだ。口ではグローバリゼーションを語るが、実行する意識は弱いように思う。
グローバリゼーションは、国際化と同義ではない。国際化が海外へ投資したり、生産拠点を持つことだとすれば、グローバリゼーションは市場として期待する地域に拠点を置き、地域密着型ものづくりをすることだ。
ここで考えなくてはいけないのが「ものづくり」や「消費」の意味である。ものづくりとは、素材(媒体)に何らかの設計情報を与えて製品に変え、顧客に届けるプロセスだ。従って無形のソフトやサービスも、ものづくりに含まれる。しかもこのものづくりは、世界各国の文化、地域、環境に左右される。また消費は、顧客が製品を操作し、機能を呼び起こして初めて成立する。
この発想から言うと、サムスンがしたのは、ものづくりのサービス面や顧客満足に注力したことである。ものづくりを生産現場に閉じず、企画、開発、販売はもちろん、顧客や、顧客の顧客まで巻き込んで、求められるもの(設計情報)を届けることをめざした。これを新興国市場においてしたことが今日の成功につながった。
ものづくりのデジタル化も追い風となった。従来のように、ある機能を実現するために、複数の部品間を最適に擦り合わせる技術力は、アナログ時代には重要で、それが日本企業の優位性にもなっていた。しかしデジタル時代になると、この擦り合わせをMCU(マイクロ・コントローラ・ユニット)が実現するから、携帯電話などはチップ1つで製品ができてしまう。
人材面では、サムスンは世界各地域に密着するために、部課長クラスに世界中の言語の集中的研修を行い、地域専門家を育成している。その中にはタミル語などの珍しい言語まである。
日本企業は、新興市場の消費者は日本の30、40年前のメンタリティであることを忘れてしまっている。それを意識して、品質、コスト、納期についても考え直すべきだろう。サムスンでは、例えば品質は顧客が決めるものと考え、体感不良率だけで品質管理している。また在庫は先進国ならゼロが望ましいかも知れないが、新興国では顧客のためには常に一定数は必要だ。アフターサービスも非常に重要な付加価値なので力を入れている。
ただようやく日本企業もこうした実情に気づいてきたようだ。固定概念や惰性といった殻を、従来とは異なるものづくりへの情熱で打ち破り、新しい時代を切り開いていただきたいと思う。

企業活動において、部分を見れば、正しい判断をしているのに、全体を見ると、誤った判断になっている。これは企業、特に大企業でしばしば見られることだ。しかしこれでは世界の市場で勝ち抜くことはむずかしい。
その原因を探ると、各現場は多過ぎるほどの情報にあふれている一方、経営層には必要かつ正確な情報が伝わっていないことが大きい。世界的なビジネス雑誌BusinessWeekが実施した世界の経営者・管理職への調査によると、実に67%が不充分で不確かな情報による不適切な意思決定をしていると考えている。またその理由として28%の経営者は未整理の情報が多過ぎると感じ、41%の経営者は情報が足りないと感じている。
こうした問題を解決するうえで有効な手段の1つがBIツールである。あらかじめ情報を集積しておき、これを用いれば、ちょうど検索エンジンのような使い勝手で、経営に必要なデータを簡単に集め、分析できる。例えば海外現地法人の利益率が下がり、その原因を議論しているとき、憶測や類推や伝聞に頼らず、正確なデータを即座に引き出し、それに基づいて判断することができる。
ビジネスでは、戦略を実行に移し、結果を見て方向修正しては、次の戦略を立てるというPDCの繰り返しが行われ、その方向修正にはインサイト(洞察力)が必要となる。その手助けをしてくれるのが、こうしたITによる経営の「見える化」や情報活用だ。
これをより効果的に行うためには、企業の経営管理のグローバル化も必要となる。この点、日本企業はまだ十分ではない。世界中の各拠点の情報システム、人材、会計基準などがばらばらで、全体最適ができていないところが多い。しかしこれらを標準化すれば、BIツールを使ってボタン1つで、どの拠点の経営状況も把握することができるようになり、格段に業務効率化が進む。今、日本企業にとって必要なのは、そうした改革を行う意志と実行力だろう。新興市場に適応し、勝ち抜くためにも、改革を進め、ITを有効活用していただきたいと願っている。
