
「従来の経営変革は、最大化、最小化がテーマだったことが多かったように思います。今後のチャレンジは『最適化』です。最適化を有効に機能させるためには、そのスコープを拡大させることが必須です。グローバルレベル、異業種間、企業と個人や社会とのつながりに存在する膨大な情報を収集し、最適化問題を解き、アクションにつなげるためには、情報管理や情報利用の発想を変える必要があると思います」と金巻氏は語る。
従来の情報活用は、あらかじめ仮説があってそれを検証するというものが主流だった。経営環境の変化が激しくなる一方で、情報の量と視点は急速に増加している。
「大量の情報をやみくもに分析するよりも、まずは仮説を立てて分析する方法が最良と従来はみなされてきました。しかし、ITの発達により、大量の情報を収集する技術、情報の中から何らかの価値を見出す技術、そして、最適な解を導き出しアクションをうながす方法が実用化されるようになってきました。従来のデータ活用はもとより、こうした新たな可能性を模索するのがBAO(Business Analytics and Optimization)です」
企業内部には膨大な情報が溢れている。ただ、それらはそもそも、自社の経営の最適化のために収集されたものだ。こうした情報を企業間、業界間で共有化し、集められた情報を分析すれば、より高度な最適化が実現する。
「現在、私たちの周囲のいたるところに情報がありセンサーがあります。自動車や家電製品に埋め込まれたコンピュータ、RFIDを搭載された商品、人や自動車の動きを感知するカメラなど。会社や都市の中には、膨大な情報、そしてそれをアップデートする数多くのセンサーが存在しています」金巻氏は、そんな風に時代の断面を切り取る。
企業、社会、様々な動きを察知するためのセンサー、それは日々のビジネスをつかさどる情報システム、ネット上のコミュニティも含まれる。企業、業種、国境などを越えて情報を収集し、社会レベル、地球レベルでの最適化が進められている。

例えば、経営者がある仮説を思いつく。しかし、その仮説を検証するための情報が不足しているという問題にしばしば直面する。そのため、企業内外の膨大なデータソースから代替情報を切り出し、大きな工数をかけて加工する。しかし、その間に経営環境は変化してしまう。
仮説は、ある意味、ひらめきの産物だ。検証のための情報をあらかじめ準備しておくことには限界がある。となれば、管理する情報の量を増やすという発想になる。世界中のさまざまな情報にアクセスできれば、本当の意味で仮説・検証サイクルは動き出し、意思決定の質は高まる。問題は、膨大な情報の中の有益な情報をいかに抽出できるかだ。BAOを役立てることで、仮説そのものを抽出することも一部可能になってきた。
「例えば、イタリアの在庫をスペインに移動するという場合、いつまでに完了すればスペインの販売機会損失を30%以上下げることができるか。あるいは、上海支店とデトロイト支店のビジネス面での類似点をシステムが感知し、斬新な仮説を経営者に提供することなどが想定できるでしょう。BAOの技術により、経営変革を実現していきたいと考えています」
「環境問題といえば、以前は、情報収集と報告業務で研究開発部門の工数の10%が費やされるというような、ネガティブなものでした。現在は、違ってきています。地球規模での環境対応の動きが、従来は存在しなかった機能や業務を浮かび上がらせ、新たなビジネスチャンスを発生させています。つまり、環境は企業の成長戦略の有力なドライバーとなっているわけです。河川や空に国境はありません。業種や地域を超えての最適化が進む中、どのような最適化コミュニティにいかに参画するか、それが成長戦略の鍵を握っているかもしれません」。金巻氏は、最適化の事例としてストックホルムの取り組みについて語る。
「交通量を計測し、ラッシュアワーの通行料金を引き上げ、市内の交通量をコントロールしています。こうしたスマートな都市は、このほかにもロンドンやシンガポールなど世界中に広がりつつあります」
このような、企業や人々の活動の最適化を目指すものが、IBMの提唱する「Smarter Planet」である。よりよい地球の実現を目指すというビジョンだ。「世界中の企業は、業界や国の壁を越えてコミュニティとして課題解決を始めています。従来の営業、物流、会計、人事といった企業の機能ごとの経営課題は、地球規模の最適化というテーマの中で、それぞれを単独に語れるものではなくなりました」
単一組織での独り勝ちが難しい時代となった。得意分野を持った企業が、価値あるコミュニティに招かれ、それを通じて社会に貢献し、持続的な成長を遂げるのだ。企業ビジョンの重要性は昔から言われているが、今ほど「自社の存在意義」や「提供価値」といったビジョンの再確認が重要な時代はいまだかつてなかったかもしれない。

金巻龍一(かねまき・りゅういち)
早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科博士前期課程修了。日本ビクター、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、PwCコンサルティング入社。2003年より、IBCSの戦略コンサルティンググループを統括し、現在に至る。慶應義塾大学大学院SDM研究科 特別研究教授。専門領域は、サービス事業開発、企業統合マネジメント、プロフェッショナル人材管理、法人営業改革

【第1回】 総論 計測と相互連携、分析による最適化で地球規模の課題解決を目指す
【第2回】 金融 スマートな金融サービスへの変革―――新しい利益・収益源の確保へ
【第3回】 製造(自動車・電気) すべてのプロセスがつながれば、モノづくりはもっと賢くなる
【第4回】 製造(産業向け) 世界への飛躍、ビジネスモデルの変革―――情報が導く産業向け製造業の未来像
【第5回】 通信・メディア 業務の再整理と新技術の応用で強みを生かす新ビジネスモデルを発掘
【第6回】 公共 縦割り構造からの脱却で国民の生活に貢献する真の公共サービスを
【第7回】 保険 多様化する顧客ニーズを把握、予見し保険の枠を超えたモデルへと変革
【第8回】 流通 モノや人の動き、需要予測情報を最適な輸送計画、機会損失防止に生かす