


今回の「国際会計基準シンポジウム2010」の開幕を飾る基調講演には、金融庁の三井 秀範氏が登壇。我が国にIFRSを導入することについての経緯や意義、あるいは現状で浮上している様々な課題などについて指摘した。
三井氏は、日本でのIFRS導入に関する一連のスケジュールについて「仮に強制適用が決定された場合にも、十分な準備期間をとるのが金融庁の方針です。具体的には、比較財務諸表を含め2年分の開示が必要なので、準備には最低でも3年間の期間を設けるとともに、1〜3年程度をかけた段階的な適用をマーケット等の声を聞きながら検討し、混乱のないよう対応していきたい」と見解を語る。
その一方で、米国では2014年からの国内企業へのIFRSの強制適用についての是非を2011年までに判断するとしているが、一般にはそこでの決定が日本のIFRS適用の判断にも大きな影響をおよぼすと指摘されている。要するに、米国がIFRSを適用すれば日本も強制適用し、仮に米国がIFRSを適用しなかった場合、日本におけるIFRSの強制適用も困難だという考え方である。「仮にそうした形で、日本が米国に追従すると見なされれば、国際的な場で日本の声が尊重されなくなってしまう。そうした意味では、米国の後に付いていくのか、少し先に適用するのかという問題は、今後、重要な会計外交上の判断になるでしょう」と三井氏は語る。
さらに、三井氏は、国内でのIFRS導入をめぐる様々な誤解に関して触れながら、企業における対応作業の負荷に関わる問題を取り上げ、「IFRSへの対応については、些末なことにとらわれず、いかにローコストで全体としてのクオリティを担保するかを心がけることが重要です」と語った。


国内でのIFRS適用に際し、理念上の重要なポイントとなるのが、IFRSが財務諸表作成者の側の視点ではなく、投資家やアナリストの観点に立った財務報告基準となっている点だ。いわゆる原則主義や経済実態重視といった、IFRSの特徴はそれに立脚したものであり、そうした中で企業には、経理担当者だけではなく、経営者レベルにおいても、合理的な判断によって、ビジネスの実態に則した財務処理を実践していくことが不可欠となる。
「IFRSにおいて求められる資産・負債アプローチにおいては、これまでの費用収益対応原則や保守主義原則などに基づく、いわば“のりしろ”を持った経営では対応が困難になることをきちんと理解する必要があります」とあずさ監査法人の天野 秀樹氏は指摘する。
一方、IFRSの適用後の問題として、並行開示期間における企業の決算業務に関する作業負荷が高まることが挙げられる。仮に2015年3月を初度適用日とすれば、その前の1年間から初度適用後の四半期開示までの1年9カ月くらいが並行開示期間となり、その間、企業にはかなり厳しい作業が想定される。これに関しては、経営サイドの理解を得て、例えば外部リソースを有効活用するなどの施策も積極的に検討すべきだという。
また、EUにおいて2005年にIFRSが強制適用となった際には、準備期間がなかったこともあり、企業では適用に際してまずは最小限の対応を行った上で、適用後に実務を行いながらプロセスやシステムの整備を進めてきたという経緯がある。「そうした観点では、日本においても、今やるべきことと後でやることを切り分けながら対応していくという方法も有効な選択肢になるでしょう」と天野氏はアドバイスを送った。


「IFRSへの対応をグループ連結経営の基盤作りに活かすためには、ここ数年来、日本企業が取り組んできた金融商品取引法における内部統制報告制度への対応で得られた成果を活用するのが有効です」と青山学院大学大学院の八田 進二氏は指摘する。
まずIFRSでは、個別企業優先思考から企業グループ連結経営指向への転換が基本となっており、グループとしての企業価値やキャッシュフローの最大化、ガバナンスの強化等を目指した、グループとしての効率的経営が命題となっている。これに関し内部統制への対応では、企業に体制の整備・運用を連結ベースで行うことを基本として要求していた。さらに、基準に明示されていない個別処理については「概念フレームワーク」に立ち返ることを求めるなど「原則主義」に立脚するIFRSは、目安となる数値や詳細な個別ルールを持たずに「ミニマムスタンダード」を提示して企業の創意工夫を促し、経営者の説明責任を求める内部統制報告制度における考え方と、まさに同一の理念に基づいている。
さらに、IFRSにおいては、経営者の説明責任がより一層強化され、監査人との十分な協議が不可欠となる他、毎年改正が加えられるなど、常に変化を遂げる環境に即した、迅速な対応が求められる。「そうした観点では、同様の要件が掲げられた内部統制報告制度への対応において企業が得た経験を十分に踏まえ、その知見を活用することが、IFRS対応において重要なカギを握るはずです」と八田氏は強調した。