患者の健康維持と財務の健全性の両立から充実した新たな医療の姿が生まれる

我が社の明日が見えた
長引く景気低迷、新興市場の勃興など、日本企業はかつてない経営状況に直面している。そのような状況でもうまく組織を活性化させ業績を上げている企業/自治体などがある。この連載では、「新規ビジネス創出」、「コンプライアンス」、「グローバル化」、「コスト削減」の4つの柱を立て、各分野で成功している企業/組織のトップをインタビュー、企業が抱える経営課題を解決するための秘密を探った。

vol.3 新規ビジネス編 聖路加国際病院 院長 福井次矢氏
患者の健康維持と財務の健全性の両立から充実した新たな医療の姿が生まれる
さまざまな病院ランキングで常に上位に名を連ねる聖路加国際病院。米国医療をモデルとした国内屈指の充実した医療体制が一般に知られているが、カルテなど診療情報のいち早い電子化、病院や医療の質を定量化した独自の指針「クオリティインジケータ(QI)」の提唱と公表、外国人患者や外国人医療スタッフの積極的な受け入れなど、経営面でも注目すべき取り組みが多い。同病院が注目される秘密の一端を院長の福井次矢氏に聞いた。

さまざまな病院ランキングで常に上位に名を連ねる聖路加国際病院。米国医療をモデルとした国内屈指の充実した医療体制が一般に知られているが、カルテなど診療情報のいち早い電子化、病院や医療の質を定量化した独自の指針「クオリティインジケータ(QI)」の提唱と公表、外国人患者や外国人医療スタッフの積極的な受け入れなど、経営面でも注目すべき取り組みが多い。同病院が注目される秘密の一端を院長の福井次矢氏に聞いた。
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健全な財務体質を背景に充実した医療を提供

−現代の病院の経営にはどのような課題があるのでしょうか?

福井 病院の経営では、医療機関として患者の病状の回復を図る一方で、財務的な健全性をきちんと保たなければなりません。すなわち、「ペイシェント・ヘルス」がベストになるように努めながら、「ファイナンシャル・ヘルス」のバランスをきちんと維持していくというのが、病院経営者の仕事です。また、良質な医療スタッフを確保するとともに、多様な価値観を持つスタッフが同じベクトルを向くように束ねていくことも重要です。さらに、医療に伴うインシデントやアクシデントなどを関係者で共有し、適切な対策を速やかに打つということも不可欠です。

−日本の病院経営はどこも非常に厳しいと言われています。

福井 現在の診療報酬制度では、たとえば1人の患者さんを5人のスタッフできめ細かいケアをするのと1人のスタッフで適当にケアするのとでは、人件費は5倍も違うのに、診療報酬としての病院の収入は同じにしかなりません。そのため、国民は質の高い医療を求めているはずなのに、病院側としてはどうしてもコストカットに走らざるを得ないのが実情だろうと思います。その点で当院は非常に恵まれていて、併設している聖路加タワーからの定期借地権収入など、医業以外での収入があるため、これらを医療体制の充実に充てることで、質が高く手厚い医療を提供することができています。逆に言えば医業以外での収入手段を持っていないと、今のわが国の診療報酬体系のなかではわれわれが考えるレベルの医療を提供するのは難しいというのが現実ではないかと感じます。

次代を担う人材を育成し医学の進歩に貢献

−聖路加国際病院は非常に成功している病院として知られていますが、そのような成功に至ったコアコンピタンスは何だとお考えでしょうか。

福井 当院は1902年(明治35年)に米国の宣教医師であったトイスラー博士によって創設され、1933年に作られたトイスラー博士の理念を私なりに噛み砕いて、(1) 「患者との協働医療」を実現するため、患者の価値観に配慮した医療を行う、(2) 医療の質を高めるため、「根拠に基づいた医療」を実践する、(3) 全人的医療を行うため、全職員の専門性を結集する、(4) 地域住民の医療・介護・保健・福祉に貢献するため、地域の医療者・施設との連携を強める、などの8項目を基本方針として、過去5年間、運営してきました。創設者のトイスラー博士の縁もあって米国とのつながりがきわめて強いこともあり、先進的で充実した米国医療をモデルとしている点や、大学病院とは異なりいわゆる学閥がなく、優秀な人材が集まりやすいという点などに特徴があるかと思います。もとより、初代院長のトイスラー博士や、皆さんも名前をご存じかと思いますが当院の8代目院長で現在は理事長・名誉院長の日野原重明先生に代表される歴代院長が持っていた、医学の進歩に貢献するとともに人を育てようという強い情熱が、108年余りの誇ることのできる歴史を作ってきたと考えています。

−病院名に「国際」という文字が入っていますが。

福井 医療のグローバル化への対応も当院が取り組んできた経営施策のひとつです。以前からさまざまな国の大使館の方なども当院で受診されていますが、真の意味でインターナショナルな病院が日本国内にも必要と考えて、英語のできる医師、看護師、事務スタッフを揃えた国際外来を2009年4月に開設しました。また、英国や米国などの大学の医学部学生を10人以上受け入れて各大学の正式カリキュラムの一部としてローテーション研修をしてもらっているほか、米国人のドクターも雇用しています。ただし医師法の制約により外国人医師は日本国内で医療行為ができませんので、残念ながら研修医の教育や研究に限定せざるを得ないのが実情です。将来は、他の先進諸国のように、質の高い医療・治療を求めて海外から当院を訪れてもらえるようになって欲しいとも思っています。その場合、言葉の問題のほかに、やはり医師法による制約が強いので、たとえば海外からの患者さんを診る状況下では米国人医師が診療できるような免許制度を作るなどのフレキシブルな対応を厚生労働省にはぜひ考えてもらいたいと思っています。

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