
2011年4月、大阪でSAP BUSINESS SYMPOSIUMが開催された。テーマは、市場のグローバル化とそれによって企業に求められる変革、特にリアルタイム経営についてである。冒頭、SAPジャパン代表取締役社長のギャレット・イルグ氏が挨拶、変革への的確な対応にはITが鍵であり、SAPがそのための革新的技術・製品を提供していることを述べた。
基調講演では、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授一條和生氏が、経営環境のグローバル化の実態と、これからのあるべき戦略を、実例を挙げながら解説。続いてSAPジャパンのバイスプレジデント脇阪順雄氏が、リアルタイムな意思決定の重要性、それを支援するSAPのしくみについて説明した。
その後は「グローバル経営管理」、「リアルタイムビジネス」を各々テーマとした二つのセクションに分かれ、前者では、「日産EV『LEAF』のバッテリ生産を支えるSAPソリューション」、「日立グループにおけるグローバル会計システム統一への取り組みについて」などの事例が、後者では、「情報爆発時代におけるビジネス革新 真のリアルタイムアプリケーションがもたらす可能性」、「SAPのモバイルソリューションおよび活用例の紹介 ERPとモバイルの組み合わせで変わるワークスタイル」などの事例が紹介され、満員の来場者は熱心に聞き入っていた。
スイスの経営教育・研究機関IMDでは毎年、世界各国の競争力調査を実施している。それによると日本の競争力は1990年に1位だったが、その後、長期低迷し、2010年度には27位となった。大きな原因は競争力の背景となるトレンドが変わってきたことだ。1990年ごろは、質の高い労働や効率性だったが、現在はグローバル化であり、それに適応できた企業や国が競争力を高めている。そしてこのグローバル最適化をなした企業がターゲットとしているのがBOP(the base of the economic pyramid )市場、つまり、世界市場の底辺をなす低所得層である。
現在、最もグローバル化が進んだ企業では、グローバル統合すべき要素と、ローカル対応すべき要素を明確に把握して戦略を立てている。一般にグローバル統合すべき要素とは、まず製造、広告、R&Dなど、規模のメリットおよびコストダウンを追求できる部分である。そのほか、強いブランド(世界的に浸透したブランド力の行使)、ベストプラクティスの活用(ある国や地域での成功事例を他地域にも応用する)、経営人材(才能ある人材に世界のさまざまな地域で活躍してもらう)、首尾一貫したサービス(世界のどこでも共通したサービスを提供する)が上げられる。一方、ローカル対応すべき要素には、人々の好みや習慣、購買力、販売チャネル、競争へのプレッシャー、規制、技術、環境、組合、経営、気候風土などがある。
何をグローバル統合し、何をローカル対応すべきかは、産業によっても企業によっても異なる。
グローバル最適化を成しとげた企業の一つがスイスのネスレである。ネスレは1867年の創業以来、提供する価値を変化、発展させ、現在2025年に向けてはウェルビーイング(健康で満足した生活状態)を掲げている。その考え方は、経営におけるグローバル統合と、顧客に対する多様性の両立である。全世界共通のビジョンを掲げる一方、各国や地域に権限を委譲している。多様性はミネラルウォーターのブランド戦略一つ見てもわかる。ネスレは全世界で77のブランドを有するが、内、国際的上位ブランドは5、ネスレを冠したブランドは2、残りの70はすべてローカルブランドである。BOP市場は低所得市場であり、ここへシフトするためには劇的な変革が必要である。ネスレは、「BOP市場を開拓して貧困から解放することは企業の社会的使命である」というビジョンを掲げ、それに基づいた企業変革を続けている。
このようにグローバリゼーションは、世界中から斬新なアイデアを出し、それをネットワークし、横展開しなくてはならない。組織の構造を変えるだけでなく、根本的変革(イノベーション)が必要である。日本企業は今後、ますますこれを促進しなければならない。
また、日本社会がイノベーションを実現することは世界的使命とも言える。日本は社会の高齢化に苦しんでいるが、それはどの国でもたどる道であり、世界は日本に注目していた。そこに東日本大震災というさらなる危機が到来した。日本がイノベーションを起こし、危機を克服することは、世界に貢献する道でもあるのだ。
SAPは、グローバル時代の企業に欠かせない「リアルタイム経営」を支えるしくみを提供してきた。私は「リアルタイム」とは「オンデマンド」と言い換えてもよいと考えている。仮に私が販売会議に出て、売上状況について何かの質問を受けたとすれば、正確なデータを出して答えるには、データがリアルタイムで処理されていることが必須条件となるからだ。
現在、ビジネスのスピードはますます加速している。そのため、変化に対応して速いアクションを取る必要がある。しかもグローバル化した企業は世界中に拠点や権限を分散しつつ、統合をしている。そうした中で、PDCAサイクルを回す、つまり、今起きていることを知り、適切な手を打つ必要がある。そのときリアルタイムデータは、意志決定にとって極めて重要だ。サムスンのDRAMやアップルのスマートフォンが極めて短期間に市場を席巻した背景にはこの意思決定のスピードアップがある。
将来の意思決定についても同様のことが言える。仮に経営に何らかの問題(製品の利益率が低下した、ある地区の売上高が伸びていないなど)が発生したときの流れは、対応策の検討→アクションの決定→担当会社(拠点)に伝達→アクション開始となり、場合によっては着手まで3カ月もかかる。しかし、リアルタイムでデータを処理し、あらかじめ起こり得る問題について対応策を決めておけば、問題が発生してもすぐアクションを取ることが可能だ。これを実現するには二つの条件がある。一つはデータが正確であること、もう一つは、あらかじめデータを必要に応じて月別、国別などに整理して収納しておくことだ。ただ、意思決定者が実際にはどんなデータを必要としているかは予測できない。そこでSAPは高速のデータベースエンジンSAP HANAを開発した。これにより、生データを入れておけば、高速で加工して出すことができるようになった。さらに、SAP Business SuiteのようなERP製品によって堅牢なIT環境を構築し、正確なトランザクション処理をすることで、SAP HANAやSAP BusinessObjectsをより活かすことができる。
ただし、ERP以前のデータ入力という面倒なプロセスは、従来、人手に頼っていた。SAPとしてはさまざまな解決方法を提示しているが、その有力な一つがモバイル・テクノロジーだ。例えば訪問営業の担当者にデジタル端末を携帯してもらい、そこにデータを打ち込むことで活用できるようにした。こうした挑戦によってSAPが提供しているのは、データを活用できるプラットフォームである。それによって多くの企業に「真のリアルタイム経営」を可能にしたいと考えている。