私にとって環境に配慮した建築づくりを考えるきっかけになったのは、1973年の石油ショックだ。現代生活がこれほど石油に依存しているという事実に初めて気づかされると同時に、その石油資源が無限に存在するものではないことを思い知った。
石油化学燃料に依存しすぎない建築をどう実現していくか。そうした考えは、1980年代、大学時代の師である奥村昭雄(東京芸術大学名誉教授)を中心に生まれた「ソーラー研究会」の活動につながっていく。この集まりでは、外断熱や躯体への蓄熱を組み合わせた太陽熱利用の方式を研究し、屋根面を用いた空気式太陽熱集熱換気システムを生み出した。これは現在も「OMソーラーシステム」として、広く活用されている。
設計には合理的な説明が必要

野沢 正光氏
2011年3月11日に発生した東日本大震災と、それに伴う原発事故。40年前の石油ショックをさらに大きく上回る事態が起こり、私たちの生活や建築の在り方が根本から揺るがされている。今こそ、私たちは環境負荷の少ない建築づくりに向けて本腰を入れて考えていかなければならない。
そもそもソーラー研での活動に熱中したのは、将来に対する危機感だけではなく、目の前に突きつけられた宿題に対する答えを探す作業が単純に面白かったからだ。私は、建築をつくる際に論理的に説明できないのが嫌だ。その点、環境負荷(L=Load)を下げつつ環境品質(Q=Quality)を高めていくという考え方は、理にかなっている。
既存建築を生かした高機能空間
最近、パッシブデザインと既存建築の有効利用を組み合わせた提案をいくつか手がけている。2010年10月に竣工した「愛農学園農業高等学校」(三重県)はその一例だ。
築46年になる3階建てRC造校舎の最上階を取り除いて傾斜屋根で覆い、耐震化と温熱環境の改善を施した。当初の依頼は既存校舎を取り壊して木造校舎を新築してほしいという内容だったが、RC造の校舎を解体すると大量の廃棄物が生じ、卒業生の思い出も消失してしまう。そこで、既存建物の減築を提案した。
もともとのRC造の校舎は断熱性能が低い。しかも熱容量の大きいコンクリート躯体は夏には蓄熱体、冬には蓄冷体として働くため、過酷な室内環境を助長してきた。
そのため駆体に外断熱を施し、太陽電池で駆動する太陽熱集熱換気システムを組み込んだ。屋根面で集熱して暖めた新鮮空気を、ダクトを通して教室の床下へと導き入れる。太陽熱集熱換気システムを利用すれば、コンクリートは非常に効果的な蓄熱体として機能する。竣工後に計測したところ、室内の空気は冬には10℃から20℃を維持し、夏には冷房なしで外気より低い温度を保つという画期的な結果を得た。


また11月末には、くまもとアートポリスの一環として実施された「三加和区域小中併設型校舎」プロポーザルで、私の事務所が参加したNNSH設計共同体が最優秀賞を受賞した。プログラムは、小中一貫教育を目指し、既存の中学校に小学校を併設させるというもの。私たちは既存校舎の空き教室を小学校の高学年に供することで、既にある建物を有効活用しながら、小中を融合させた教育を実現する校舎の在り方を提示した。
国土交通省によると、2004年にピークを迎えた国内の人口は、40年後の2050年には現在より3000万人少ない9515万人になる。人口が4分の3に急減する状況を前に、右肩上がりの成長を前提につくられてきたインフラや建築を、時代にふさわしい形に整えていく作業が求められている。既存建築を活用し、現代に求められる環境や性能を備えた空間に生まれ変わらせる手法は、そのための重要な解になる。同時にそれは、非常にクリエーティブな領域でもあるのだ。

構造設計:山辺構造設計事務所
施工:小原建設名古屋支店
延べ床面積:985.65㎡
階数:地上3階(改修前)地上2階(改修後)
構造:鉄筋コンクリート造
<主な仕上げ材料>
屋根:カラー鋼板瓦棒
外壁:透湿湿式外断熱工法(シュトーサーモクラシック)、乾式外壁外断熱工法(NOIN工法)
床(教室・その他室):ヒノキ無垢フローリング(三重県産)
腰壁(同):スギ板貼り(三重県産)
壁(同):PBのうえEP塗装
天井(同):岩綿吸音板
<主な設備>
環境配慮技術:太陽熱集熱換気システム(OM ソーラーシステム)
空調:個別空調方式(PC室、事務室、保健室のみ)
熱源:電気
給水:直結直圧式







