誕生600年が間近、最高級茶葉のブランド戦略を訊く

~「八女伝統本玉露」のGI登録とその効果とは? JAふくおか八女

高級緑茶として知られる玉露。その中でも特別に手間暇をかけて作られる「八女伝統本玉露」は、2015年、「日本地理的表示(GI)」保護制度の第5号として登録された。生産者と茶商、福岡県、八女市、JAふくおか八女が一体となり取り組んだブランド力アップの一環だ。このGI登録が地域にもたらした意外な効果とは? 緑茶市場の縮小という時代の波と闘うJAふくおか八女の活動を追う。

高級玉露の産地八女

 JAふくおか八女は福岡県南部に位置し、東は大分県、南は熊本県と接する。管内では果樹や野菜の生産が盛んで、特に福岡県のブランドいちご あまおうは県内有数の産地。その他ぶどう、キウイ、みかん、なす、トマト、電照菊など多彩な農産物を生産している。その中で地域名を冠した八女茶は、JAふくおか八女管内での生産面積や売上高の比重は約10%であり、基幹作物と位置付けられている。

 八女茶の始まりは1423年と伝えられ、長い歴史を誇る。福岡県の茶の生産量(2019年)は1,780トン。静岡県、鹿児島県、三重県、宮崎県、京都府に次ぐ全国6位で、比率にすると国内生産量の約3%に満たない。しかし、高級茶として知られる玉露は45トンと約20%を超え、京都府に次ぐ産地として名高い。しかも手摘みの伝統本玉露となると、その多くが八女茶なのだ。

八女茶は香り高く、甘い味わいをもつ高級茶として高い評価を得ている
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八女茶は香り高く、甘い味わいをもつ高級茶として高い評価を得ている
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八女茶は香り高く、甘い味わいをもつ高級茶として高い評価を得ている
JAふくおか八女 総合販売部 茶業課 係長 仁田原修治 氏
JAふくおか八女 総合販売部 茶業課 係長 仁田原修治 氏

 それだけに品質は群を抜く。JAふくおか八女 総合販売部 茶業課 係長 仁田原修治氏は、「全国茶品評会の玉露部門で、最高位である農林水産大臣賞を、ここ30年間で23回受賞しています」と胸を張る。

市場縮小をはじめ山積する課題

 最高品質の玉露の産地であるJAふくおか八女管内ではあるが、伝統本玉露の生産面積と生産者数は減少を続ける。2015年の約180名から現在は約140名に。その大きな要因が日本人の消費行動の変化だ。ペットボトル入りのお茶が増え、昔ながらの急須を使った淹れ方でお茶を嗜む人が大きく減っている。玉露のような高級茶にとっては危機的状況だ。

JAふくおか八女 茶業部会 副部会長 徳永毅 氏
JAふくおか八女 茶業部会 副部会長 徳永毅 氏

 品質のバラツキという課題もあった。JAふくおか八女 茶業部会 副部会長 徳永毅氏は、「地域で伝えられてきた伝統技法はありましたが、明文化されているわけではないので、それぞれが自分なりの工夫をしていました。肥料のやり方や種類が変わるだけで味は大きく変わるので、かなりの開きがありました」と語る。

 このような課題を解決するため、福岡県が主導し、八女市、生産者、茶商、JAふくおか八女が八女伝統本玉露推進協議会を設立。玉露の中でも特に手間暇をかけた八女伝統本玉露を「日本地理的表示(GI)」保護制度に登録することになった。同制度ができた2015年のことである。

日本地理的表示(GI)保護制度とは

 地域の気候や風土、それらと結びついた伝統的製法などによって高い品質が認められ、「〇〇(地名)みかん」や「〇〇(地名)牛」のように産地名が品質や社会的評価など確立した特性に結びついている農林水産物・食品の名称を知的財産として登録し保護する国の制度。制度の対象となる農林水産物等の範囲は、全ての食用農林水産物等(飲食料品を含む)及び非食用農林水産物等のうち政令で指定された13品目(観賞用植物、工芸農作物、立木竹、観賞用魚、真珠、飼料、漆、竹材、精油、木炭、木材、畳表、生糸)だ。名称と共に産地や品質基準を申請し、審査が通って登録されるとGIマークが付され、パッケージ等に付けることができる。これにより、他の産品との差別化が図れ、ブランド力の強化につながる。また、通常は模倣品が出ると生産者団体などが自ら訴訟を行う必要があるが、GI登録品は国が取り締まってくれるため、ブランド保護が容易になる。また、GI登録は国際的にも保護されるので、海外の模倣品対策としても有効だ。現在99品(2020年9月末現在)が登録されている。

 八女伝統本玉露は、中山間地のみで作られる。そのためGI登録の話が持ち上がった当初は、玉露を作らない平地の生産者に不満もあったようだ。「平坦地の生産者は伝統本玉露のことをよく知らないため、八女茶全体でGI登録をしたいという声もありました。しかし、市況も産地も厳しくなる中、地域を代表する伝統本玉露を残さないといけないという機運が生まれました」(徳永氏)。仁田原氏も、「玉露と言えば京都の方がメジャーですが、手摘み玉露はシェアのほとんどが八女茶で、品評会での評価も高い。地域名を冠した特産品というGI制度の目的にも合致することから、最終的には看板となる伝統本玉露を打ち出すことで、八女茶全体のブランド力アップにつながるとの共通認識に至りました」と説明する。

厳格な生産条件に加え、キロ単価の内部規定以上がGIマークの条件

 収穫された八女茶の葉は、速やかに蒸され、揉みあげて乾燥させ荒茶となる。荒茶のほとんどはJAふくおか八女から、JA全農ふくれん(JA全農福岡県本部)の茶取引センターに出荷。競りによって茶商が購入し、仕上げ加工を施し袋詰めして販売される。そのためGI登録には、生産者と茶商の協力が不可欠だった。

 ご存じの方も多いと思うが、よく見る茶畑は上部が丸く刈り揃えられている。しかし、八女伝統本玉露の茶畑は様子がまったく違う。枝が自然に伸び、揃っていない。それは八女伝統本玉露が手摘みだからだ。玉露でも機械で刈り取ることが多い今日、八女伝統本玉露は手摘みでなければならない。

 また、お茶の旨味の素となるテアニンは、日光を浴びると苦みや渋みの素となるカテキンに変化する。そのため、玉露の生産には日光を遮る被覆が欠かせない。現在化学繊維の被覆が主流だが、八女伝統本玉露は稲わらなどの天然資材しか認められない。剪定方法にも決まりがあり、これらの条件をクリアしなければ八女伝統本玉露は名乗れない。

八女伝統本玉露の生産条件
1.茶樹の枝を収穫後に1回だけ剪定し、秋まで自然に芽を伸ばす「自然仕立て」
2.茶樹を16日以上(概ね20日間)、稲わらなどの天然資材で覆う「棚被覆」
3.ていねいに新芽を摘む「手摘み」

 さらに荒茶のキロ単価が内部規定以上で、福岡県内の茶商が購入し、県内で袋詰めされた茶葉に限られる。つまり上記の生産条件に合わせて作っても、キロ単価が内部規定に満たなければ、GIマークを付けることができないのだ。ちなみに今年の全国品評会1位のキロ単価は48万円。内部規定のキロ単価に満たない荒茶もあることを考えると、大筋の作り方が決められた中でこれだけの価格差が出るというのが、茶ならではの特色と言えるだろう。生産者や取り扱い茶商の登録・管理などGIマークに関する管理業務は、JAふくおか八女が実施している。