2016.12.26
文=川井直樹
コンビニエンスストア業界の競争が激化しているなか、地方に出店したいファミリーマート。一方、Aコープの客離れが進み、打開策を模索していた上伊那農業協同組合(JA上伊那)。互いの弱点を補うべくニーズの一致した両者がタッグを組んだ。
JA全農(全国農業協同組合連合会)は、購買部門の一つであるスーパーマーケットとしてAコープを全国で展開している。各地のAコープは、地域密着型のスーパーとして知られ、長野県南部のJA上伊那でも複数店舗を擁する。
しかし、人口減少や少子高齢化、消費者の嗜好(しこう)の変化などから客離れが進み、昔ながらのスタイルでは売り上げが頭打ちとなっていた。
JA上伊那では最盛期には地域内でAコープを20店舗以上運営していたが、段階的に店舗数を減らしてきた。伊那市周辺でも幹線道路沿いや市街地にコンビニが出店し、その利便性から客を集めていた。これがAコープの売り上げに影響した。
一方、ファミリーマートでも、コンビニエンスストア業界の競争の激化に直面し、戦略としてさらなる店舗展開を検討していた。
ファミリーマートの多摩・甲信ディストリクト統括部長シニアオフィサーの前西潤一氏は狙いをこう語る。
「長野県の南部である南信地域にはファミリーマートの店舗数が少なく、知名度も高くありませんでした。そこで、その南信地域での店舗展開を進めることにしました。まず2012年7月にJAみなみ信州と提携してファミリーマートを出店。その後、Aコープ西箕輪店の経営改善を検討していたJA上伊那に加盟提案をしました」
ファミリーマートとJA上伊那は、それまでも深いつながりがあった。JA上伊那は地元で収穫した米をコンビニチェーンや外食産業向けに出荷している。その大口顧客の一つがファミリーマートだ。ファミリーマートの店頭に並ぶおにぎりに、上伊那産の米が使われるものもある。
そうした関係もあって、JA上伊那では売り上げが停滞していたAコープのてこ入れ策として、ファミリーマートへの業態転換を進めた。
前西氏は「JAと組んでの店舗展開は他のコンビニチェーンではやっていないでしょう。14年にJA全農と包括的な業務提携を結び、積極的にJAとの協業を始めました。現在は全国で18のJAと取り組んでいます」と、協業での店舗拡大に胸を張る。
もちろん、Aコープがファミリーマートのフランチャイズ店になることに対し、JA上伊那の理事会では慎重意見も出たという。「Aコープにお金をかけて大型店に負けないようにテコ入れするか、他のノウハウを活用するかという選択の中で、地域の人たちの利便性向上にはコンビニへの業態転換がベストと判断しました」と下村氏は振り返る。