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2017.11.08
見過ごされてきた、もう1つの心不全
拡張不全の啓蒙と治療の普及を目指す 第2回

兵庫医科大学内科学講座 循環器内科教授 増山 理 氏
取材:21世紀医療フォーラム取材班 竹林篤実 文責:同事務局長 阪田英也

第1回は、見過ごされがちな拡張不全と、その治療法、特に急性期に有効な治療法について紹介した。連載2回の第2回では、超高齢社会を迎えた日本で、今後増加が確実視される高齢心不全患者の治療上の課題、本来なら幼少期にまで遡って行うべき心不全予防のための方策などについて、引き続き、兵庫医科大学内科学講座 循環器内科教授の増山理氏にお話を伺った。

増山 理氏
増山 理(ますやま とおる)氏
1956年 大阪生まれ。1984年 大阪大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1987年 米国スタンフォード大学研究員。1995年 大阪大学医学部第一内科助手、同外来医長などを経て、2002年より大阪大学大学院病態情報内科助教授。2004年より兵庫医科大学内科学講座循環器内科主任教授
 
○所属学会
日本心臓病学会理事、日本超音波医学会理事、日本心不全学会理事、日本エコー図学会理事など

○専門分野
主な研究テーマは、心不全(特に拡張不全)の病態解析と治療法の開発、超音波心筋イメージングなど

高齢者の心不全と、
どのように向き合うべきか

高齢者の増加に伴い、心不全患者の増加も避けられません。心不全治療の今後の課題について、どのようにお考えでしょうか。

増山 我々は、これから極めて難しい問題と向き合わなければなりません。後期高齢者の増加は、必然的に80歳や90歳以上の高齢者の増加を意味します。先般、日本老年学会と日本老年医学会は90歳以上を超高齢者とすべきと提言しましたが、これは90歳以上の増加を見越してのことでしょう。

では、超高齢者の心不全にどのように対応すべきなのか。この年代への対応に関しては、今のところ延命療法のエビデンスしかありません。仮に90歳代で、すでに寝たきりで意思疎通を図ることが難しい患者に対して、どのような治療を施すべきでしょうか。延命治療のあり方についても、これから議論が必要です。

高齢者に対しては、薬の投与についても新たな観点からのデータが必要です。心不全の薬は種類が多く、中には薬の服用により気だるくなるようなものもあり、薬の選び方には慎重を期す必要があります。さらに、日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」で指摘したように、多剤併用は避けるべきです。

また、薬の使い方については他にも議論すべき点があります。例えば利尿薬を多用すると、寿命に影響する恐れがあります。しかし、水が溜まってむくんでいる患者にとっては、むくみは不快な症状であり、利尿薬を服用してでも、むくみを取った方がQOLは高まります。このバランスの取り方が重要になってきます。

高齢者に対して、どこまで治療を施すのかが問われそうです。

増山 非常にセンシティブなテーマであり、現時点では議論すること自体がタブー視されかねない。しかし、治療には必ずコストの問題が絡んでいることを意識すべきです。日本では医療保険制度があり、少ない自己負担で治療を受けることができる印象を多くの人が持っていますが、決してそんなことはありません。

米国などでは、良し悪しは別問題として、お金がなければ治療を受けることさえ不可能です。日本では90歳を超えた患者に対しても、延命治療を求められたら基本的に断りません。医療に対する考え方や文化的背景が欧米とは全く異なるからです。ただし、医療費は個人が負担していなくとも、社会全体で負担している事実は認識しておくべきです。

一方で、医学はすさまじい勢いで進歩し続けています。心臓移植の対象年齢は65歳までと定められていますが、植込み型人工心臓については明確な年齢制限はありません。人工心臓の出来が良くなっているので、これを使えば何年も生きられる可能性が出ています。

増山先生が策定委員として関わられた「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」でも、「高齢心不全患者に対する終末期医療の指針」に一章が割かれていますね。

増山 同じ心不全といっても、若い人に対する対処は従来通りで問題ないと思います。この年代に関してはエビデンスも十分にあり、人工も含めた心臓移植が最終的な治療法となります。一方で高齢心不全患者への対応は、これから考えていく必要があります。

例えば大動脈弁狭窄症の治療法として、ダ・ヴィンチによる大動脈弁形成術が行われていますが、中には95歳の患者を対象に行われるケースもあるようです。その意義はコストを含め様々な観点から考慮していく必要があるでしょう。