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2018.01.05
心不全治療に求められるハートチームカンファレンス
心不全治療の新しい文化を創る 第2回

京都府立医科大学 大学院医学研究科 心臓血管外科学教授 夜久 均 氏
取材:21世紀医療フォーラム取材班 竹林篤実 文責:同事務局長 阪田英也

第1回では、心不全に対する外科医の見方を紹介した。そのポイントは、患者の人生の時間軸を見越した上で、トータルなQOLを最も高める治療戦略を考えることにある。そのための手段の1つが、外科医だけでなく、心不全治療に関わるオールスタッフによるハートチームカンファレンスである。

連載の第2回では、ハートチームカンファレンスの考え方について、引き続き、夜久氏にお話を伺った。

夜久 均氏
夜久 均(やく ひとし)氏
1957年生まれ。1982年 京都府立医科大学医学部卒業後、1984年より国立循環器病センター心臓血管外科にてレジデントを務め、1993年 京都府立医科大学大学院医学研究科修了、医学博士(京都府立医科大学)。1990年より米国ヴァーモント大学医学部心臓病学研究員、豪州セント・ヴィンセント病院、セント・ジョージ病院、ロイヤル・アレキサンドラ子供病院にて心臓胸部外科レジストラーを経て、1997年 京都府立医科大学第二外科学教室助手、同大学心臓血管・呼吸器外科学教室助手、講師、助教授を経て、2014年より現職
 
○主な学会活動
日本外科学会認定医 日本外科学会指導医 日本外科学会専門医 日本胸部外科学会専門医 日本胸部外科学会指導医 三学会構成心臓血管外科専門医認定機構研修指導医 日本循環器学会専門医 日本脈管学会専門医 国際心臓血管外科学会会員 アジア心臓血管外科学会会員 欧州心臓血管外科学会会員 米国胸部外科学会会員ほか

心不全治療を変える
ハートチームカンファレンス

第1回の最後に話されたハートチームカンファレンスは、具体的にどのように行いますか。

夜久 ハートチームカンファレンスとは、2010年にヨーロッパで提唱された考え方です。内科医や外科医、看護師、リハビリ専門医、OTやPTなど心不全治療に関わる全スタッフが、ディスカッションを尽くした上で治療方針を決め、チームとして患者に対処していきます。

例えば、三枝病変に糖尿病が絡んでいる場合には、どのような対処が最も望ましいのか。まずステントを入れて様子を見るのか、それとも最初からバイパス手術をするのか。患者ごとにベストの選択肢は異なる上に、その将来までを踏まえるなら、様々な選択肢が考えられます。そこで治療方針を内科や外科が単独で決定するのではなく、関係者全員による衆知を集めた上で決めます。

ハートチームカンファレンスはヨーロッパで先行導入され、最近では日本の医療機関でも採り入れるところが増えてきました。ただしディスカッションといっても、それぞれが的確な専門知識に基づいて発言をする必要があるため、参加者のレベルを合わせる必要があります。

京都府立医科大学では、すでにハートチームカンファレンスを導入されていますね。

夜久 2014年から導入しました。私は、2015年に開催された日本循環器学会近畿地方会の会長を務めたとき、研修医のための教育セッションとして、ハートチームカンファレンスのロールプレイングを採り入れてみたのです。これが参加者の知的好奇心を刺激してかなりの盛り上がりを見せ、手応えを感じたこともあり力を入れるようになりました。

ハートチームカンファレンスを導入するメリットは、4つあります。第1は、内科医と外科医ら多くのメンバーが協力して1人の患者に向き合うため、治療方針決定の透明性が担保されます。第2は、患者の人生の時間軸を見据えた上で、適切なタイミングで適切な治療を戦略的に行えることです。

第3は教育効果です。カンファレンスには研修医も参加しますが、彼らにとって何より大きいのは、内科と外科が議論しながら治療方針が決まっていく過程を学べることであり、そのプロセスを通して心不全についての包括的な知識を養えます。そして、第4が医療安全上のメリット。多数の目が関わることにより、医療事故が起こる確率を極力抑えることができます。

私は、ハートチームカンファレンスを心不全治療における1つの文化として定着させるべきだと考えています。文化というと大げさかもしれませんが、若い頃ヨーロッパ研修に行った際に、毎日のように午前と午後に1例、黙々と何の気負いもなく心臓手術をしている状況を目の当たりにしたことがあります。当時の日本は、心臓の手術は特別なイベントのように思われていた時代です。そのとき、私たちとの文化の違いを痛感しました。ハートチームカンファレンスもヨーロッパ発の文化ですが、これを今後日本に根づかせることが、私たちの責務だと考えています。

ハートチームカンファレンスを定着させるための課題は何でしょうか。

夜久 現状での最大の課題は、エントリークライテリアが明確になっていないことです。つまり、どんな患者を対象とするのかが定まっていない。この判断を、患者の最初の窓口となる内科の先生だけに任せてしまうと、無意識のうちにバイアスのかかるリスクがかかってしまいます。

そのため海外では全症例を対象とする医療機関もあるようですが、それは時間の制約があるため現実的には難しい。バイアスを極力抑えた上で患者を選び、ディスカッションを進めていくには、どのような手順を踏むべきか。様々に模索しながら理想の姿を求めているところです。