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2018.11.16
心不全の治療や薬、予防をわかりやすく伝える
患者を救うために学会ができること 第3回

東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科学教授 小室一成 氏
取材:21世紀医療フォーラム取材班 但本結子

第2回では、心不全の啓発や教育、CRTの適応などについてお話をお伺いした。連載3回の最後は、東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科学教授の小室一成氏に、日本循環器学会の役割、基礎研究の重要性やアカデミアができること、心不全啓発キャンペーンへの要望などについてお伺いした。

小室一成
小室 一成(こむろ いっせい)氏
東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科教授
1957年生まれ。1982年 東京大学医学部医学科卒業。1984年 東京大学医学部附属病院第三内科医員。1989年 ハーバード大学医学部留学。1993年 東京大学医学部第三内科助手。1998年同大学医学部循環器内科講師。2001年 千葉大学大学院医学研究院循環器内科学教授。2006~2008年 千葉大学医学部附属病院副病院長。2009年 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教授。2012年より現職
 
○主な学会活動
日本循環器学会代表理事 日本医学会連合理事 アジア太平洋循環器学会副理事長 
日本心臓病学会理事 日本心不全学会理事 日本腫瘍循環器学会理事長
日本臨床分子医学会理事 日本心血管内分泌代謝学会理事 国際心臓研究学会理事 
日本脈管学会理事 日本心臓財団理事ほか

心不全は未だ原因が解明されず
対処療法にとどまる

前回、小室先生は地域のかかりつけ医が活用できるよう、もっとわかりやすいガイドラインを作成しなければならないと言われました。

小室 日本循環器学会では今まで60以上のガイドラインを作ってきました。これはアカデミア向けの非常に専門的な内容であり、かなりボリュームもあることから、学会のホームページで無料公開してきましたが、全てを読んで理解することは大変で、あまり実戦向きではなかったかもしれません。ガイドラインは専門医に限らず一人でも多くの先生方に読んでもらい、広く日常臨床に活用していただくことにその意味があるので、今後は簡略化したわかりやすいものも作っていきたいと考えています。

これまでの学会は学術、学問の場で良かったのですが、現在はその役割が少し異なってきています。学会は国民の健康・福祉のため、特に日本循環器学会は国民の循環器疾患を予防し、治療するためにあります。大学の人だけが集まり最先端の学問を学んでいればいいのではなく、どんな治療法や薬があり、どうしたら患者さんを救うことができるのかを広く専門医以外の先生にも知っていただきたいし、国民にも理解して欲しいと思います。ガイドラインを作ったらそれで終わりではなく、実際の現場で使ってもらうためにどんな啓発や工夫ができるのか。そうしたことを考え行動に移したいと考えています。

具体的には、ガイドラインを作ったら次は簡単なガイドブックやポケットブックを作り、これをもとにかかりつけ医の先生、あるいは看護師や理学療法士、さらには一般の人たちにもそれを使って治療や薬、予防などについて説明していくことが重要です。

一方で、小室先生はアカデミアに在籍していらっしゃいます。私たちの循環器疾患を予防し治療するために、アカデミアはどのような役割を担いますか。

小室 今年10月、がん免疫に関するご研究で京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。基礎研究の理解が進んだことによって、がんが治る時代になってきました。それに対して心不全は未だに発症機序が解明されないため、原因に基づいた治療法がなく治すことができない。心不全の治療は進んでいるとはいえ、いずれも心臓を休ませる、心臓の代わりに血液を送り出すといった対処療法であり、それでは治るわけがありません。

第1回でもお話したように、心不全の予後は胃がんと同じぐらい悪く、その胃がんは治る時代に入ってきた一方で、心不全は全く先が見えません。本庶先生も基礎研究の重要性を説いておられますが、心不全も原因を突き止めて原因治療ができれば、治すことが可能になります。本庶先生のノーベル賞受賞を良い事例として研究、特に基礎研究の重要性を訴えていきたいと考えています。

がんと同じように心不全の研究が進み、完治する時代が来ることに期待したいですね。

小室 私が学生時代、がんはいずれは薬で治ると思っていましたが、これほど早く治る時代が来るとは思いませんでした。当時、がんは早期であれば切除によって治せるものの、そうでない場合はお手上げという状態でした。

一方、循環器疾患にはPCIがあり、アブレーションがあり、また生命予後を改善するような薬が数多く存在し、あらゆる疾患の中でも最も治療法の進んでいる領域が循環器でした。ところがいつの間にか、最も治療が難しいと考えられていたがんに抜かれてしまった気がします。やはり研究の力は大きいとあらためて感じますね。

がんと研究のお話が出ましたので、これに関連してお伺いします。小室先生は、「心不全の定義」の記者発表の場で、がん治療が飛躍的に進歩したことでがんサバイバーが増え、最後はがんではなく、心不全で亡くなる人が増加していくと指摘されていました。がんと循環器が重なった腫瘍循環器という新たな領域も、今後の課題となっていきますか。

小室 先日も米国で開催された腫瘍循環器学会に参加してきましたが、この領域は新しいこともあり世界的にも大変活気があります。実際に取り組む人も若く、参加者もどんどん増えている状況で、新しい学問として非常に注目されています。

年をとると、がんか循環器、あるいは両方で命を落とします。がんの場合、ほとんどの抗がん剤は心臓に強い障害を与えるため、やがて心不全を発症します。今後はがん患者でありながら心臓病で亡くなる人が非常に増えてくるでしょう。がんは克服しても心不全で命を落とすことになるので、がんと心不全は同じように重要だという認識を持って欲しいと思います。