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実用フェーズに入った“New IT” デジタル時代の主役は“ひと”

アクセンチュアが毎年発表している「テクノロジービジョン」。2016年版は「主役は“ひと”:デジタル時代は“ひと”こそ最優先」というメインメッセージのもと、5つのトレンドについて説明している。その中から、日本企業にとって重要で活用の検討を始めやすいと思われる「インテリジェント・オートメーション」と「流体化する労働力」について、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部の田畑紀和氏が解説する。

急速に進んだデジタル化の潮流 活用のカギを握るのは“ひと”

田畑 紀和 氏
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
テクノロジーアーキテクチュア グループ統括
マネジング・ディレクター

 テクノロジーの進歩が新ビジネスを創出する一方で、既存ビジネスの形を変えつつある。デジタル化する世界の潮流をとらえた企業は、成長を加速することができる。適応できない企業は、衰退への道をたどることになるだろう。

 アクセンチュアはテクノロジーの動向と、テクノロジーがビジネスにもたらすインパクトについて毎年「テクノロジービジョン」を発表している。この4月に発表された「テクノロジービジョン2016」について、アクセンチュアの田畑紀和氏は次のように説明する。
「2013年のテクノロジービジョンでは、『すべてのビジネスがデジタル化する』というメッセージを打ち出しました。以後、デジタルはビジネスの中に急速に浸透し、デジタルを使いこなすための“道具”が一通り揃ったと言えます。そうした道具を使いこなし、デジタルを活用したビジネス変革を起こせるかはひとえに人材にかかっている。そこで、今年のテクノロジービジョンでは、人に焦点を当てたのです。『主役は“ひと”:デジタル時代は“ひと”こそ最優先』が、今回の大きなメッセージです」

 テクノロジービジョン2016は“ひと”に着目した上で、大きく5つのトレンドを提示している。「インテリジェント・オートメーション(Intelligent Automation)」、「流体化する労働力(Liquid Workforce)」、「プラットフォーム・エコノミー(Platform Economy)」、「破壊を予期する(Predictable Disruption)」、「デジタル時代の信頼(Digital Trust)」である。
「“New IT”という言い方もありますが、2013年から16年にかけて、従来のITとは異なる新しいテクノロジーや方法論が実用レベルにまで進化しました。クラウドやAI、DevOps、アジャイル開発などです。これにより、デジタルな世界への道が一気に開けてきました」と田畑氏は述べた上で、こう続ける。
「一方で、人やモノなどすべてがネットワークにつながることに、セキュリティの脅威や不安を感じる企業もあるでしょう。あるいは、破壊的なイノベーターが競争相手として登場することに、懸念を持つ経営者も少なくありません。こうした不安を克服し、デジタルを本格的に活用するための示唆が、テクノロジービジョンの随所にあるのです」

データサイクルの自動化とインテリジェント・オートメーション

 テクノロジービジョンが挙げた5つのトレンドは、それぞれが大きなインパクトを持つ動きだが、とりわけ日本企業にとって活用の検討を始めやすいと思われるのが「インテリジェント・オートメーション」と、「流体化する労働力」だ。以下では、この2つを中心にビジネスとテクノロジーの関係について見てみたい。

 まず、インテリジェント・オートメーション。IoTの普及、AIの実用化などにより、「データ収集・入力→データ処理・分析→現実世界へのフィードバック」という業務を遂行する上で処理される情報の流れ(データサイクル)が、IoT導入により巨大化および自動化され、蓄積されたビッグデータの分析にAIを活用する環境が整ってきた。人手によるデータ入力や様々な情報に基づいて下していた人の判断が自動化されるだけではなく、今までであれば収集できなかった、もしくは収集しても処理しきれなかったデータも活用し、人では推測すらできない結論を導くために、インテリジェントなオートメーションを活用することが可能になりつつある。
「人間の判断が必要な領域は残りますが、多くの分野ではAIが判断を行うようになるでしょう。分野によっては、一連のデータサイクルをすべて自動化することも可能です。ここ1、2年の間に、そんな世界が現実のものになってきました」と田畑氏はいう。

 インテリジェント・オートメーションの実践例として目立つのは、コールセンターのスマート化である。自然言語処理機能を備えたAIが、顧客などからの問い合わせに回答するというものだ。商品やサービスに関する情報やマニュアル類、顧客の購買履歴などをもとに、AIが最適な答えを探し出す。AIは日々学習を重ねながら、よりスマートなものへと進化していく。

 オンラインショッピングの分野でも期待は大きい。画像による商品検索、リアルタイムレコメンド、不正取引検知、物流の最適化、商品レビュー分析など、EC事業における多くのプロセスを自動化することができる。「AIを新たな働き手として捉え、それを使いこなせる人材を育てることこそが重要です。それによって、高負荷な仕事はAIや機械に任せて、従業員はより高付加価値の業務にシフトすることが可能になります」と田畑氏はいう。

 アクセンチュアは、インテリジェント・オートメーション・プラットフォームの導入支援を始めている。
「どの会社でも、属人的なノウハウをできるだけ平準化し、業務の品質向上と効率化につなげたいと考えますが、AIを活用した『Accenture myWizard』というアプリケーション・サービスが、まさにその解決策になります。これは、アクセンチュアが持つテクノロジーやビジネス変革のノウハウを自動化プラットフォームに集約させ、人的判断を要する様々なタスクに関してアドバイスをするというもので、これによって人間がより高度で戦略的な業務に集中することができ、生産性の向上が期待できます」(田畑氏)

 Accenture myWizardにはプロジェクトマネジメントやテストなど、プロジェクトを進める上で重要な各領域をサポートする、人工知能を搭載した数人の仮想エージェントがいる。それぞれのエージェントはプロジェクトの進捗管理データ、テストデータなどを分析した上で、「来月の予定をクリアするためには、新しい要員の手当てが必要では?」とアドバイスしたり、「来週金曜日段階でのバグ率は○%」と予測したりする。アクセンチュアでは、すでに約3000人の社員がこのソリューションに関するトレーニングを受けており、お客様への導入実績は、過去約6カ月ですでに100社を超えているという。

 このほかにも、インテリジェント・オートメーションの適用範囲は広い。研究開発分野では、リードタイムの大幅な短縮が期待されている。例えば、製薬においては、臨床試験の解析業務を自動化し時間短縮とコスト削減を図ろうとする動きがある。スマートファクトリーの高度化に向けて、インテリジェント・オートメーションを導入する企業も現れている。

デジタル時代を勝ち抜くためにはビジネスとNew ITの知見が必要

 次に、流体化する労働力について。いま、人々の働き方は大きく変わろうとしている。終身雇用は崩れつつあり、1日8時間決まった場所で業務に就くという固定的な働き方も変わろうとしている。また、日本社会全体に目を向けると、労働力人口の減少や労働力不足という課題が浮上。こうした社会課題を解決するためにも、デジタルの活用は重要な役割を担うことができる。
「フルタイムが前提なら辞めざるをえないけれど、週に3日くらいなら、あるいは在宅勤務が可能なら働き続けられるという人は多いと思います。こうした柔軟なワークスタイルをサポートするのもNew ITです。個々人がデジタルを使いこなすことで、より多様な働き方を実現することができる。これも、テクノロジービジョンが“ひと”に注目する理由の1つです」(田畑氏)
アクセンチュアにおいても、短日短時間勤務制度の導入やシステムの整備を進めた結果、短時間勤務など柔軟なワークスタイルを選ぶ社員が増えているという。

 テクノロジービジョンが示す5つのトレンドは、ビジネスそのもの、人々の働き方を大きく変えつつある。こうした環境変化にいかに対応するか、それはあらゆる企業に突き付けられた問いだろう。まったく新しいビジネスやサービスにより価値創造を目指す企業もあれば、デジタルで社員の生産性を高めて勝ち抜こうとする企業もある。そのためには、New ITとビジネスへの深い理解が必要だ。
「New ITは事業部門のためのITとも言えます。そのため、それぞれのビジネス現場をよく知る社員が、New ITの知識を併せ持ち活用する能力を身に付けることが理想です。ただ、そうした人材を育成するには時間がかかります。ならば、両方の知見を持つ外部パートナーと組むという選択肢もあるでしょう。アクセンチュアが貢献できる部分も少なくないのではないかと考えています」と田畑氏はいう。デジタル時代を切り拓こうとする企業に伴走しながら、アクセンチュアもまた新しい知見を積み重ねている。

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