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ビッグデータはクラウドで操る:最新事情

クラウド/ビッグデータ最新事情

IoTと機械学習、アルゴリズムで
ビッグデータから価値を生み出す

ビッグデータを活用したさまざまなビジネスが立ち上がり始めた。大きな成功を収めた企業もあるが、これからが本番だ。社会やビジネスにインパクトを与える画期的なビジネスやサービスが明日にも登場するかもしれない。新たな価値を創造するためのキーワードとして、日経BPイノベーションICT研究所 上席研究員の田中淳氏は「IoT」「機械学習」「アルゴリズム」を挙げる。

IoTは製造業だけの話ではない。サービス業などさまざまな分野で続々と事例が登場

 ビッグデータ時代のキーワードとして、日経BPイノベーションICT研究所の田中淳氏が挙げたキーワードは「IoTと機械学習」。そして、+αとしての「アルゴリズム」である。これらを活用し、あるいは組み合わせて新しい価値を創造するために、世界中の企業が猛烈な勢いで走り始めている。

 まず、IoTについて。IoTというと設備の予防保守などのイメージが強いせいか、製造業の話ととらえられがちだ。しかし、実はサービス業での活用も進んでいると田中氏はいう。

 「たとえば、日本航空は間接部門の従業員に名札型のセンサーを持たせて人の動きを可視化し、オフィスのレイアウト改善などワークスタイル改革に生かそうとしています。IoTの応用範囲は非常に広いのです」

 メガネを製造販売するJINSが発表したメガネ型デバイスは、目の動きをセンシングしてスマホアプリと連携し、居眠り運転防止などに役立てるという。ウエアラブルセンサーを人の体調管理などに活用している企業もある。最近話題になることの多い自動運転でもIoTの技術は必須だ。

 「NFL(米プロフットボールリーグ)は、2015年のシーズンから本格的にIoTの導入をスタートしました。全選手の肩パッドにセンサーを装着し、フィールド上の位置や加速度などのデータをリアルタイムで収集します。このデータを加工して提供することで、ファンはゲームをより楽しめるようになります。また、データはコーチ陣などにも提供されるとのことです」(田中氏)

 応用分野が広がることでセンサーや関連デバイスの価格が低下し、それが新しいトライアルを促進する。そんな循環が生まれている。IoT関連の市場は、今後急速な拡大が見込まれている。国内IoTデバイス市場は2014年の5億5700万台から、19年には9億5600万台に拡大すると予測されている(IDC Japan)。また、世界中のセンサーは14年度の311億個から19年度には419億個に増えるとの予測もある(富士キメラ総研)。

機械学習をサポートするさまざまなクラウドサービス

 次のキーワードは機械学習だ。「AI(人工知能)と言い換えてもかまいません。機械学習はAIという広い概念の中に含まれます」と田中氏。AIについては、これまで何度かブームが到来した。

 「80年代から90年代にかけて盛り上がった時期がありました。当時はコンピューティングパワーの限界もあり、なかなか壁を突破できずにブームが退潮しました。その後、AIの考え方に大きな変化が起こりました。以前は主として『人間がルールをつくる』というアプローチでしたが、現在では『コンピューターにルールを考えさせる』というのが大きな流れです」(田中氏)

 機械学習はすでにビジネスにも取り入れられている。ベーカリーを展開する神戸ベルは、画像認識によってパンの種類を見分けるレジ装置を導入。来店客がパンを載せたトレーをレジ横に置くと、その上のカメラが画像を読みとって購入額を自動的に計算する。

 「人間が『これがクロワッサンだよ』とルールを覚え込ませるという従来からの手法だと、色や形が少し変わった新商品が登場したときにコンピューターはわからなくなってしまいます。これに対して、神戸ベルのやり方はパンの種類ごとに10枚の写真をコンピューターに読み取らせて画像モデルを自動生成させるというもの。これにより、パンの種類を正しく認識できるようになったそうです」と田中氏は説明する。

 高度な機械学習の1分野として、ディープラーニングがある。近年、ディープラーニングを用いた画像認識が大きく進化した。有名な例の1つが、数年前に発表された「グーグルの猫」である。大量の猫の画像を読み込ませた結果、グーグルはコンピューターに猫の画像を認識させることに成功した。「これが猫だ」と事前に教えたわけではなく、猫のラベルを付けた写真を読ませたわけでもない。コンピューターが自力で猫を認識したのである。

 「それがクロワッサンなのか、アンパンなのか。あるいは、猫なのか犬なのかを、人間はほとんど無意識に判定しています。しかし、コンピューターにとっては非常に難しい。機械学習の進展によって、この課題が解消されつつあります。その背景には、計算能力の飛躍的な増大があります」と田中氏は指摘する。

 機械学習の適用領域も広がっている。スパムメールの検知やクレジットカードの不正検知、ECでおなじみのユーザーへのレコメンド機能、特定疾病の予測診断、売上予測、画像認識、故障検知の予測などである。

 「マーケティングの分野では、顧客離れの予測にも機械学習が取り入れられています。顧客の購買や行動についてのデータを分析して、離反を防ぐための施策を実行する。業績に大きなインパクトを与える可能性もあるでしょう。今後、機械学習はさらに広範な領域での活用が期待されています」(田中氏)

 機械学習の裾野の拡大を後押ししているのが、世界的なIT企業各社によるさまざまなクラウドサービスだ。IBMやマイクロソフト、アマゾン、グーグルなどが機械学習向けのクラウドサービスを次々に発表している。田中氏は「手軽に機械学習を試せる時代になってきました」と話す。

ビッグデータ+クラウド、価値を生むためのアルゴリズム

 今、企業や行政組織などの持つデータの量は増加の一途をたどっている。データの形式および、データの出所は多様化し、一方でデータの粒度は細かくなり多頻度化している。このような性質や傾向を持つビッグデータを、手元のサーバーで分析するのは現実的とはいえないだろう。

 「ビッグデータの置き場所としては、パブリッククラウドが有力な選択肢になります。今後、『ビッグデータ+クラウド』を活用したさまざまな動きが活発化するでしょう」(田中氏)

 大量のデータを集めるだけでは価値は生まれない。田中氏は「ビッグデータを使って何をするかが問われています」と強調する。

 そこで主要な役割を担うのがアルゴリズムである。アルゴリズムとは、問題を解決するための定式化された手順のこと。アルゴリズムを用いた自動化エンジンはさまざまなビジネスで実用化されている。

 金融分野の超高速取引はよく知られている。市場の動きなどに関する大量のデータを超高速で分析して売買注文を繰り返すというものだ。Web広告の世界では、売り手と買い手の間でオークションを行ったうえで広告表示の権利を取引する一種のマッチングサイトが登場している。このサービスの中核を支えているのは独自のアルゴリズムだ。

 タクシー業界に衝撃をもたらしたウーバー・テクノロジーズは、需給に応じて料金が変動するサージ・プライシングというアルゴリズムを持っている。その都市の現在の状況に合わせて、高すぎず、安すぎない最適な料金を示し、ドライバーと顧客が両方とも満足できる均衡点を見いだそうというもの。サービスのたびに蓄積されるデータをもとに、このアルゴリズムは進化し続けている。

 「IoTなどが生み出すビッグデータ、クラウド、アルゴリズム。これらがつながり、新しいサービスが次々に生まれています。非常に面白い時代です」と田中氏。チャンスはあらゆる企業に開かれている。田中氏はすべての企業、人々に積極的なチャレンジを呼びかけた。

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