ITpro Special

「労働人口減少」を突破するテレワーク

 テレワークが大きな注目を集めている。過去にも、パンデミックや東日本大震災後のBCP(事業継続計画)対策で脚光を浴びたが、今企業が取り組もうとしているのは労働人口が減少する中で、すぐれた人材を確保し続け、成長を図ろうという観点からだ。テレワークの活用は企業にとって利点があるだけでなく、働く人にとっても様々な状況の中で柔軟に働けるメリットがある。その意味で、テレワークが本格的に普及する時代が始まったといえるだろう。テレワークで会社を運営するとともに、テレワーク普及の政策提言や導入コンサルティングなどを行うテレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利氏と、サイボウズ 社長室 フェロー 野水克也氏との対談を2回に分けて掲載する。

労働人口減少の中で優秀な人材を確保

田澤 由利氏
株式会社テレワークマネジメント 代表取締役/株式会社ワイズスタッフ 代表取締役
田澤 由利氏

田澤 テレワーク(Telework)の「Tele」はTelephoneのTeleと同じで、「離れた」ところで「仕事(Work)」をすることです。そのためには道具が必要になりますが、ITの発展で、離れていても仕事ができるようになりました。これまでは、誰もが会社に通い、場所と時間に縛られて働いていました。そのため、決められた時間に会社に通えなくなって、辞めなければならない人がたくさんいました。私も電機メーカーで働いていて、ずっと働きたかったのに、出産と夫の転勤が重なって、会社を辞めざるを得ませんでした。ですから、涙をのんで会社を辞める人の気持ちが痛いほど分かります。テレワークが普及すれば、そうした人たちも会社を辞めずに働くことができます。テレワークは、より多くの人が働けるようになることが最大のメリットで、その波及効果としてワークライフバランスや災害時の事業継続、コスト削減などがあります。

野水 社会状況が大きく変わり、何らかの理由で仕事を離れざるを得ないケースが増えていますね。子育てが終われば親の介護がありますし、自分自身が病気になることもあります。それに対応した柔軟な働き方が求められています。

田澤 テレワークはパンデミックや東日本大震災の際などに注目されましたが、定着しませんでした。ところが、1年半ほど前から、人材確保という観点でテレワークに注目する企業が急増しています。労働人口が減少する中で、優れた人材を確保するためには、子育てや介護などで社員が辞めない会社にする必要があると考え始めているのです。そこでポイントになるのが「人材の戦力化」です。テレワークにより、会社から離れていても働ける環境をつくることで、これまで辞めざるを得なかった社員を戦力化できるのです。労働人口の減少は、少なくとも今後30年は続くわけですから、テレワークは過去のような一過性ではなく、大きく広がることが確実です。

仕事の一部を切り出すだけでは広がらない

野水 克也氏
サイボウズ株式会社 社長室 フェロー
野水 克也氏

野水 昔は転勤命令を受けたら、辞令通りに転勤していましたが、最近は会社を辞める人もいます。せっかく育てた社員に辞められるのは会社としては大きなダメージです。テレワークが普及すれば、自分の都合で働く場所を移ることができます。私は実家が地方ですから、何かあったら帰らなければなりません。その時、普通であれば会社を辞めなければなりませんが、サイボウズでは、私が地方に営業所を開くといえば、そのままそこで働くことができます。今、九州営業所には二人の社員がいます。営業所を置いたきっかけは、大分出身の社員が実家に戻るので、会社を辞めたいと言ってきたことでした。それなら、福岡で営業所を開いたらよいという話になり、福岡営業所をつくったのです。私たちは普段からテレワークを活用しているので、福岡の社員も営業本部の一員として、朝は本社と普通にミーティングを行い、情報も共有しています。

田澤 今、多くの企業が実施しているテレワークは、会社でやっている仕事の一部を切り分けて、自宅に持って帰って行うというものです。そうすると、たくさんある仕事の中から切り出すわけですが、自宅でできそうな仕事はデータ入力、図や資料の作成などで、それほどたくさんはありません。その形で週1回在宅勤務をやろうとすると、そのための準備が必要になり、前日に資料を持って帰らなければなりません。ところが、その日に電車が事故で止まったりすると、持ち帰れなくなってしまいます。このような形でテレワークをやってみるのは敷居が低いのですが、テレワークの広がりはつくれません。

変化を嫌う中間管理職層も変える

田澤 それに対して、理想のテレワークへの第一歩は、会社にある書類や資料、コミュニケーションツールなどを少しずつクラウドや社外からもアクセスできる場所に持っていき、どうしたら今やっている仕事が時間と場所の制約を受けずに可能になるかを考えることです。それを行わずにテレワークを導入して、在宅でできる仕事が足りないので、テレワーク向きの仕事をつくろうというのは労力もかかるし、生産性は向上しません。どうしたら、今の仕事を会社から離れてもできるようになるか、どんな道具があればそれが可能なのかを考えるのは、それほど難しいことではありません。そうした形に発想を切り替え、会社にいる時と全く同じように仕事ができるようにすることを目指して、取り組んでいくことが重要です。

野水 テレワークの導入に当たっては、変化を嫌う中間管理職層が大きな問題になると思います。トップダウンでやる以外にないと思うのですが、そのあたりはどうお考えですか。

田澤 多くの企業では、中間管理職層は大体40代後半から50代の男性で、ITに強くない人もいます。その人たちが抵抗なく使えるように、例えばビデオ会議システムを接続したままにしておいて、すぐ部下を呼び出せるようにするなどの工夫が必要です。実際に使ってみて便利だと広がっていきます。

 また、「ご両親はおいくつですか」と聞いてみるのもよいと思います。親の介護は奥さんが担っている場合が多いと思われがちですが、それでも4割は男性が介護しているといわれています。今のテレワークは女性社員や子育て中の社員のためのケースが多いかもしれません。しかし、実は中間管理職の男性にとっても、自分自身の将来のために、今テレワークを使いやすいようにしているのだというスタンスで話をすることです。

野水 PCを使ったデスクワークをしている社員以外はテレワークが難しいというのも間違いです。スマートフォンなどのモバイルデバイスが普及し、様々な機能も提供されている中で、メーカーであれ、物流業であれ、様々な業種や職種でテレワークが可能になっています。

後編に続く

プロフィール

株式会社テレワークマネジメント 代表取締役/
株式会社ワイズスタッフ 代表取締役
田澤 由利氏

北海道在住。電機メーカーに勤務していたが、出産と夫の転勤で退職。1998年、夫の転勤先の北海道北見市でワイズスタッフを設立。「ネットオフィス」の考え方を進め、全国約160人のチーム体制で事業を展開。2008年にはテレワークマネジメントを設立。東京にもオフィスを置き、企業の在宅勤務の導入支援や国や自治体のテレワーク普及事業などを実施している。

提供:サイボウズ株式会社