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ITpro Expo 2015 Review:基調講演

基調講演 1日目
医師の治療支援から企業の顧客対応まで
認知型システム「Watson」が拓く可能性

米IBM
Fellow,VP,CTO,
IBM Watson Group
ロブ・ハイ
(Rob High)

 「コンピュータが人間の“認知”を補強し、より良い意思決定ができるようにしたいのです」。ITpro EXPO 2015の初日は、米IBMでコグニティブ(認知型)・コンピューティング・システム「Watson(ワトソン)」の最高技術責任者を務めるロブ・ハイ(Rob High)氏の基調講演から始まった。

 ハイ氏によれば、多様なテキスト・音声・動画やIoTに伴うセンサー情報など、日々発生する膨大なデータの8割はコンピュータが理解できず、活用されていない、という。この課題を解決するのが認知型システムのWatsonだ。「Watsonは膨大なデータの内容や相互の関係を理解することで、人間の情報処理能力や推論能力を高める役割を果たす」。ハイ氏はこう説明する。

医学文献を読み選択肢を提示 治療法の決定を支援

 既に様々な分野でWatsonを活用するプロジェクトが始まっている。医療への応用がその一例だ。ある医師がこんな相談を持ちかけてきたという。「次から次へと出てくる新しい医学文献の全てを読んで理解する時間的な余裕がない。Watsonを有効活用できないか」。

 このニーズに応え、Watsonを使って医師による患者の治療を支援するシステムを開発した。Watsonが医師に代わって大量の医学文献データを読み込んで分析し、より良い治療法の選択肢を提示する。Watsonは膨大なデータの分析に基づく知識の獲得と自然言語処理に優れており、こうした用途は得意とするものだ。

 Watsonの応用分野は医療以外にも広がっている。例えば、企業のコールセンターや問い合わせ窓口における顧客への対応だ。蓄積された問い合わせ対応の履歴データを分析し、オペレーターが顧客とやり取りする中で、質問の内容に応じた適切な回答の選択肢を示す。Watsonは料理にも力を発揮する。「Chef Watson」と呼ぶアプリケーションは、与えられた料理の材料を基に、これまで発表されていない全く新しいレシピを考案することができる。

 認知システムの進展は予想以上のスピードだ。「2020年までに、コンピュータとの対話の半数は認知型になる」。ハイ氏はこう言って講演を締めくくった。

基調講演 2日目
企業経営にITをフル活用する2社が語る
ビジネス変革とダイバーシティの勘所

マツダ株式会社
ITソリューション本部
本部長
大澤 佳史

 2日目の基調講演は、マツダの大澤佳史氏と、リクルートテクノロジーズの中尾隆一郎氏がITを活用したビジネス変革などについて語り合った。両社の共通点はITを企業経営に最大限活用していること。背景には新技術の採用コストの大幅な低下があると両氏は指摘した。

 マツダは新型エンジンの開発で、製造設備などから収集したビッグデータを活用し、低燃費と走行性能を両立した。「ビッグデータ活用のためのIT基盤導入のハードルが低くなり、トライしやすい環境が整ってきた」(大澤氏)。中尾氏は「以前なら新しい技術のメリットを享受できるのは先進国や大企業に限られていましたが、今では新興国や中小企業も利用でき、世界中で新たなサービスが続々と生まれるようになりました」と話す。

新技術が競争と協業を促す 異業種からのライバル参入も

株式会社リクルートテクノロジーズ
代表取締役社長
中尾 隆一郎

 こうして新たな競争が生まれるが、相手は同一業界の企業とは限らない。自動運転車の市場には、自動車メーカーだけではなく、グーグルのようなIT企業も参入を狙っている。大澤氏は「脅威ですが、自動車をIoTのデバイスととらえるIT企業と自動車メーカーとでは、考え方や強みが異なると思います」と話す。

 新技術によって、競争だけでなく、新たな協業の可能性も広がる。中尾氏はコラボレーションの相手としてエンドユーザーの重要性が高まっていると指摘した。そのニーズを的確に把握するため、新たな技術や手法の活用に取り組んでいる。一例として、リクルートグループの教育サービスを紹介し、テキストマイニングや画像処理技術を使った解析の有効性を挙げた。このほか、両氏の話は人材のダイバーシティにも及んだ。

基調講演 3日目
企業経営に役立つクラウド活用法
有力ユーザー企業3社に見る戦略の違い

丸紅株式会社
情報企画部
部長付
加藤 淳一

 3日目の基調講演(パネル討論)では、丸紅、協和発酵キリン、富士フイルムICTソリューションズの3社がクラウドサービスの活用についてそれぞれの立場で語った。

 丸紅はAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を中心に、全てのシステムをクラウドに移行する方針。Office 365といったSaaSの利用も増やしていく。丸紅の加藤淳一氏は「システムの置き換えやサーバー購入の負担を減らせ、柔軟にリソースが調達でき、クラウドサービス事業者の巨額投資による規模のメリットを享受できます」とした。

機密データはパブリックではなくプライベートクラウドを活用

協和発酵キリン株式会社
情報システム部長
篠田 敏幸

 協和発酵キリンの篠田敏幸氏は「推進派に近い“中庸派”」と話す。クラウドを第一の選択肢とする「クラウドファースト」を掲げ、既にサーバーの40%ほどをAWSに移行し、2020年ごろにはクラウドに全面移行できるとみている。ただし、利用ソフトが最新OSに対応していないなどの制約があり、現時点での全面的な移行は難しいと考えている。「制約が解消されればすぐにでもクラウドに移行したいと思っています」(篠田氏)。


富士フイルムICTソリューションズ株式会社
システム事業部
ITインフラ部 兼 IT企画部 部長
柴田 英樹

 慎重な姿勢を見せたのは富士フイルムICTソリューションズ。SaaSを活用しているが、IaaSやPaaSの利用は限定的。同社の柴田英樹氏は「機密データを扱うアプリや、法規制などが厳しいアプリはパブリッククラウドへすぐには移行できない」と話す。代わりにプライベートクラウドに力を入れ、基幹系システムなど多数のシステムをプライベートクラウドで利用する。全社的にサーバーを集約しているため、規模のメリットを享受し、柔軟性も確保できている。