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総論:IoT&Enterprise Forum 2015レビュー

■[基調講演]アイ・ティ・アール

新規ビジネスの創出、既存事業の強化
IoTはすべての企業に有望な機会を提供

株式会社 アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト
甲元 宏明

 「今年はIoT元年だと考えています。2010年にクラウド元年だと話しても、誰もが半信半疑でしたが、今やクラウドは現実のものとなっています。IoTも5年後にはクラウドと同じようになっていると思います」。IT調査会社のアイ・ティ・アールの甲元宏明氏はこう話す。

 IoTの最大の特徴はインターネットを活用しているので、世界各地で通信でき、全てのデータを分析可能な点にある。工場内の様々な機器を企業内通信によってコンピュータと接続し、生産速度、生産効率、製造品質の向上を図るFA(ファクトリーオートメーション)との最大の違いはここにある。

業績が好調な企業ほど
IoTに前向きな傾向に

 IoTに対する日本企業の関心は日増しに高まっている。アイ・ティ・アールの調査によると、導入に前向きな日本企業の割合を比べると今年度は昨年度に比べ増えている。「好業績の企業ほどIoTに前向きです。業績が非常に好調という企業の半数近くがIoTを導入済みで、今後も拡張すると回答しています」(甲元氏)。

 IoTの実現には、センサーをはじめ近距離無線通信、スマートデバイス、クラウドサービス、機械学習など様々なテクノロジーやサービスが必要だといわれている。甲元氏は「最も大切なことは、テクノロジーやコストではなく、世界の誰も思いついていないような斬新なアイデアの発想と、それを実現する情熱だと思います」と指摘し、医療センサーのTeddy the Guardianの事例を挙げた。

 Teddy the Guardianは、体温や心拍数、血圧などの健康状態などを測定できるセンサーを内蔵した子供向けのテディベア。センサーが集めたデータはBluetoothを使って保護者のスマートフォンに転送される。事業化したのは、クロアチアにある2013年5月創業のメディカル系スタートアップ企業。発案者で創業者でもある女性2人は20歳代と若く、IT専門家でもない。米FDA(アメリカ食品医薬品局)の許可を取得しており、2015年中に販売開始の予定。「IoTを活用したビジネスはアイデアとスピードが大切です。スモールスタートでいち早く始めることが成否のカギを握っています」(甲元氏)。

 スタートアップだけではない。データ分析によって既存ビジネスも変革できる。GPS搭載の建設機械を投入し、建機の位置、稼働状態などを詳細に把握するコマツのケースはその典型。中堅企業でも成功例はあり、埼玉県のイーグルバスは、運転士の“ 勘と経験” から、GPSと赤外線乗降センサーに切り替え、コスト算出単位をきめ細かくし、運行ダイヤの最適化を図った。

 「IoTはどの企業にも有望な機会を与えます。ビジネス向上のために活用するのなら、できるだけ多くのフレッシュな『事実データ』を収集し、『データに基づく経営』に邁進すべきです。事実データをより多く持っている企業が勝ち残っていくでしょう」。甲元氏はこうアドバイスし、講演を終えた。


■[特別講演]竹中工務店

IoTを活用した次世代建物管理システムを開発
スマートシティ実用化に向けた第一歩にも

株式会社 竹中工務店
情報エンジニアリング本部長
後神 洋介

 「ICT(情報通信技術)と建築は融合し、情報通信機能を備えた建築が当たり前なものになってきました。今後はその機能をどう活用するかが重要になるでしょう」。竹中工務店の後神洋介氏はこう話す。

 竹中工務店は2014年10月、次世代建物管理システム「ビルコミュニケーションシステム」を発表した。IoTやビッグデータを活用したクラウド型の建物制御、監視システムで、建物内の空調や照明、セキュリティや防災、各種センシングなどの設備システムをネットワークでつなぎ、Microsoft Azureと連動させ、気温や湿度、人の動き、運用スケジュールなどの膨大なデータを処理する。

 IoTによって、これまで困難だった様々な設備・環境の定常的なモニタリング、機械学習によるビッグデータ分析がクラウド環境で安価に実現できるようになっただけでなく、設備管理者の知見を学習することで、少子高齢化で難しくなっている人員確保の問題の解決にもつながる。

 ビルコミュニケーションシステムを導入する利点はそれだけではない。建物管理システムといえば、これまでインターネットなど外部ネットワークから切り離されたクローズドシステムだった。計測・計量や照明、空調の各制御システムが独自プロトコルで動作し、オープンプロトコルであるBACnetを通して中央監視システムや防犯システム、データ可視化システムに接続するのが一般的だった。「建物ごとに空調・照明・セキュリティ・防災などのシステムを構築し、それに合わせて個別に構築・運用していたので、ビル管理システムを最新のものにするには多大な手間とコストが必要でした。建物は20年に1度を目安に大規模修繕をしますが、このときに建物管理システムも入れ替えることしかできませんでした」(後神氏)。

1983年竣工のオフィスビル
最新機能を簡単に追加

 竹中工務店は東京・大手町で運営するテナントビル、大手センタービルにビルコミュニケーションシステムを導入した。1983年に竣工したオフィスビルにもかかわらず、Web上で様々な届け出ができる「オンライン申請システム」、エネルギー消費量をリアルタイムに確認できる「見える化システム」、屋外の快適度を算出し屋外スペースの利用を促進する「ソトコミ」などの最新機能を容易に追加でき、サービス向上と管理の効率化を図れた。

 今後は、2020年の省エネ法の改正を見据え、気候データなどに基づいて将来のエネルギー使用量を予測・分析する「エネルギー負荷予測システム」、人の所在に合わせて空調・照明などを自動的に制御する「リアルタイムモニタリング・制御システム」などの導入を計画。ビルコミュニケーションシステムをスマートシティやスマートコミュニティを視野に入れたものに発展させていく方針だ。