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日本企業はIT資産を管理していない!?

自社のIT資産をきちんと管理していますか? そう聞くと、多くの企業は「当然です」と答えるだろう。果たして本当だろうか。購入時の記録はあっても、実際の運用後の状況をきちんと把握できていない日本企業は多い。それがライセンス規約違反による支払い、あるいはライセンス料の過払いを引き起こしている。日本企業にとって、IT資産管理のレベルアップは避けて通れない課題だ。日本のIT資産管理の現状について、国際IT資産管理者協会(IAITAM)日本支部長の武内烈氏に聞いた。

「御社は契約を超えて使っています」
監査の結果、不足分数億円の例も

武内 烈 氏
国際IT資産管理者協会
(IAITAM)
日本支部長
武内 烈

多くの企業はこれまで、ITに相当の投資をしてきたはずだ。それを管理するのは当然のことだが、現状は必ずしもそうなっていない。

国際IT資産管理者協会(IAITAM)日本支部長の武内烈氏は「IT資産管理で、IT戦略との明確な整合を取った目標の設定やロードマップの整備をしている日本企業は、ほとんどありません」と語る。さらに武内氏は、次のように続ける。

「特に潜在的に大きな問題を抱えているのは大企業です。大企業は多くの種類と数のIT資産を保有しています。購入時の情報は持っていても、IT資産の状況は使い続ける中で変化します。その構成管理や変更管理が行われていないケースが非常に多い。つまり、正確なIT投資計画を設計するためには必要不可欠となる“現状”が見えていないのです」

小規模の企業なら、ハードウエア、ソフトウエアともに少ないので、担当者がExcelなどで管理することもできるだろう。しかし、クライアントPCやスマートデバイスだけで数千台、数万台があり、さらに多種多様なサーバーソフトウエアを利用している大企業で同じようなやり方は通用しない。

IT資産管理の未整備によって、多くの企業が困った事態に直面している。とりわけ問題が大きいのがサーバーソフトウエアのライセンス契約管理、特に利用規約の条件に則った運用管理だ。昨今、ソフトウエアベンダーの監査を受け、契約を超える、あるいは、利用規約を違反する利用が行われているとして不足分を請求されるケースが相次いでいる。企業によっては億円単位の請求が行われる場合も珍しくない。

「こうした事態が生じるのは、十分なIT資産管理ができていないためです。最初に契約する購買部門やユーザー部門は、その後の運用でソフトウエアがどのように使われているかを見ていません。一方の運用担当者は、契約の利用規約の中身を知りません。パフォーマンスなどのチューニングを行う際などに、そうとは知らずに、利用規約に抵触するような運用をしてしまうのです」(武内氏)。正規のライセンス料を支払わず、契約違反しているとすれば、コンプライアンスの観点で大きな問題だ。企業としてのガバナンスが問われてしかるべきだろう。

ハードウエアやソフトウエアを購入する部門や、必要なライセンスを発注する開発チームやインフラを構築する技術チームは、IT資産のライフサイクルをトータルで管理しているわけではない。運用に当たるIT部門も同様。ほとんどの日本企業で、IT資産管理の実質的な責任者がいないという状態が続いている。

状況が見えないから
過大なライセンス費用を払っている?

武内 烈 氏
「欧米ではコスト削減策としてIT資産管理が積極的に活用されています」

逆に、実態に対してライセンス料を過払いしているケースも少なくない。毎年同じ数のクライアント・デバイス・ライセンスを購入している日本企業は多い。去年は1万ライセンス、今年も1万ライセンスという具合だ。ユーザー数や利用の仕方は毎年変わるはずだが、切りのいい数字で契約を更新していることが多い。「現時点で何ライセンスが使われているか、あるいは、余っているか不足しているかが把握できないので、多めにライセンスを購入しているのです。これは、契約交渉や利用規約に基づく管理能力の不足に起因しています。年次補正などはトゥルーアップしかないからできれば報告したくない、という姿勢は欧米では過去のものとなり、今日では、契約交渉によりトゥルーアップもトゥルーダウンもあるので積極的に管理し、コスト削減の機会を逃さないという姿勢に変化しています」と武内氏は指摘する。

過払いの理由も同様に、IT資産を把握していないからだ。武内氏は「ケース・バイ・ケースですが、欧米の大企業の場合は厳格なIT資産管理を導入すると、グローバル契約統合の実現などにより契約交渉で10~30%のライセンス費用を削減できることが多いようです」と言う。「欧米の先進企業は、保有するIT機器や契約したライセンスを在庫あるいはリソースプールと捉えています。IT資産を管理してその在庫を正確に知ることは、資産の稼働率を向上するために不可欠です。必要なユーザーに対してすぐにライセンスを割り当てられるので、事務処理のスピードも上がります」(武内氏)。

日本企業もまったくIT資産管理を行っていないわけではない。問題は取り組みが不十分であること、または間違ったアプローチをとっていることだ。

ステークホルダーは多様
部門横断的なBPRが不可欠

「日本企業のIT資産管理は、『ツールありき』です。確かに、IT資産管理をうたった国産ツールはあるのですが、その機能はクライアント環境のセキュリティやソフトウエアライセンスの総数管理などに限られています。クライアント環境から、データセンターを含めたエンド・ツー・エンドの契約、発注、会計、在庫管理を可能とするIT資産管理プロセスを自動化するための業務システムが求められています」と武内氏。また、機能の面でも現状には課題が多いようだ。

「資産管理という観点では、資産に関わる契約や在庫管理、会計とのデータ連携や将来的な業務システム間連携が欠かせないという認識が高まっています。しかし、こうしたポイントを考慮したIT資産管理システム(ITAMS)の設計ができている日本企業はまずありません」

例えば、利用規約ライブラリを用いた契約条件の遵守の自動化。ツールを使って端末に搭載したエージェントからソフトウエアの利用状況を収集しても、それで監視項目が把握できるわけではない。同じソフトウエア製品でも、利用規約により異なる運用条件が混在していたりするからだ。大企業において、これを手作業で監視するのは困難だ。結果として、ツールで集めた情報は利用規約に則った運用が遵守されているのか突合することもできず、「どのライセンスが再利用可能なのか」を把握できないので、必要なユーザーやシステムに適切に割り当てることもできない。

一方、欧米の先進企業はIT環境の全体最適化を進めながら、IT資産管理をレベルアップさせてきた。同時に、IT部門のイノベーションセンター化、IT資産のリソースプール化も進んでいる。こうした方向を日本企業も目指すべきだと武内氏は提言する。日本企業では、システムごとのサイロになっているケースが多く、グループ企業、特に欧米以外の海外現地法人では、IT資産管理がほとんど行われていないこともある。「こうした現状を見直し、企業はIT戦略として全体最適化を進める必要があります。そのためには、部門横断的なBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が不可欠です。IT資産管理には購買やユーザー部門だけでなく、人事や総務、法務など多様なステークホルダーが関係するからです」(武内氏)。

クラウドが急速に浸透している中で、IT部門は自らの役割の再定義とITの構造変革を求められている。その際、武内氏の言う全体最適の視点は不可欠だ。IT構造改革とともに、IT資産管理のあるべき姿を改めて考え直す。今が、そのタイミングだろう。「5年、10年の時間軸で取り組むべきプログラムです」とも武内氏は話す。旧来のIT構造、IT資産管理を引きずったままでは、ビジネスの持続的な成長は期待できない。

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