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クラウドで変わる企業経営、その未来像は?

KEYNOTE

インダストリー4.0でICT融合のBTO自動生産
クラウドでロボット情報を管理、トラブル解決も

下池 正一郎 氏
株式会社 安川電機
技術開発本部 技術企画部
部長
下池 正一郎 氏

 「当社が考えるインダストリー4.0は、ICTを融合したBTO(Build To Order)対応コンポーネントによるBTO自動生産です。当社の工場で実証をしたのちにお客様に展開し、お客様のニーズを吸収して新製品を開発していきます。オープンイノベーションの考え方を積極的に取り入れます」。安川電機の下池正一郎氏はこう話す。

 同社の歩みは産業革命そのもの。電動機などの国産化を目指し1915年に創業、蒸気機関から電動機に代わったインダストリー2.0が創業の原点。60年代後半には「メカトロニクス」を世界に先駆けて提唱し、70年代から始まったインダストリー3.0の波に乗り、ACサーボモーター、インバーター、産業用ロボットで世界トップを走る。

顧客のロボットを常時把握
QRコード×スマホで迅速対応

 インダストリー4.0の実現に向け、クラウドでロボットに関する情報を管理し、サービス部門と情報を共有することでトラブル発生時に問題を解決するMOTOMAN-Cloudを開始している。使用中のロボットの製品情報の閲覧や問い合わせのほか、QRコードを使用してトラブルに迅速に対応するスマートフォン用アプリケーションを提供する。

 工場内のクラウドで情報システムを稼働し、外部のクラウドで故障情報を共有し、人工知能の概念も取り入れ動作のパラメーターの自律学習を視野に入れる。北九州市の本社には実証実験フィールドとして「安川電機みらい館」を開設し、大学・高専と研究・開発・教育分野で連携し、新産業・新技術・雇用の創出、人材育成などを通しイノベーション創出拠点を目指す。

KEYNOTE

クラウドは試すことから始められコスト安価
100点満点を狙わず70点の開発を繰り返す

松田 正太郎 氏
三井化学株式会社
システム部
松田 正太郎 氏

 「事業に貢献するシステム部を目指していますが、そのシステムを開発する上で『業務の属人化』と『失敗恐怖症』が障壁になっていると思います」。三井化学の松田正太郎氏はこう話す。

 業務の属人化については、その代表例がExcelでの文書作成だ。Excelに詳しい一部の社員がマクロを駆使して様々なシステムを開発するため、部署ごとに独自のシステムが使われている。他方、失敗恐怖症については、機能の盛り込み過ぎがその好例だ。システムに追加・修正が発生すると、社内で問題になる可能性もあるので、システム開発者はそれを避けるため、機能を盛り込む傾向がある。

対面型開発ができ事業部門も参加
業務見直しと業務改革も進展

 この改善のため着目したのがクラウドを利用した開発だ。三井化学はサイボウズのビジネスアプリ作成プラットフォームであるkintoneを使って様々なシステムを構築している。「対面型開発ができ、事業部門も開発に参加し、彼らの反応を見ながら業務に役立つシステムが簡単に開発できます」(松田氏)。効果はそれだけではない。クラウドで開発すれば、追加・修正が簡単にできるので、システムのスモールスタートが可能になる。事業部門も参加して開発途中のシステムを使うことで、業務の見直しにも前向きになり、業務改革も進展する効果も得られるという。

 「100点満点の開発を狙わず、クラウドを活用して70点の開発を繰り返すことを心がけています。クラウドなら失敗のコストが安いのでチャレンジしやすくなります。『まずは使ってみる』ことが大切です」。松田氏はこう言って講演を終えた。

KEYNOTE

経験と勘に頼らずデータドリブンに転換
人間しかできないことに集中、働き方も改革

柳瀬 隆志 氏
嘉穂無線株式会社
代表取締役 副社長
柳瀬 隆志 氏

 九州北部と山口県でホームセンター、GooDay(グッデイ)を展開する嘉穂無線。柳瀬隆志氏はこう話す。「経験と勘に頼るのではなく、データドリブンに転換することで、人間しかできないことに集中でき、ワークスタイルも変革します」。

 以前は、データを分析するシステムを導入していない上、手作業で入力するデータもあったため、「いろいろなデータやアイデアはあっても、それが仕事に生かされていませんでした。それを解消することが課題でした」(柳瀬氏)。

 その解決の切り札がクラウドの導入だ。売り上げや利益などといったデータをAmazon Redshif tやGoogleBigQueryに蓄積してBIツールのTableauによって分析する仕組みを構築し、データ入力の手間を軽減したほか、勘と経験に頼らずデータに基づき発注作業を実施できるようになった。

熊本地震でも威力を発揮
被害状況把握と安否確認にも

 データ活用を強化するため、データサイエンティストの育成にも力を入れる。毎週1回勉強会を開き、需要予測分析や商圏分析などで成果を上げている。

 クラウドによる効果はデータ分析だけではない。今年4月に発生した熊本地震では、タブレットで被災した店舗の様子を撮影し、それをGoogle Appsにアップしたところ、「百聞は一見にしかず」の通り、被害状況が手に取るように理解でき、従業員の安否確認や復旧策の共有にも威力を発揮した。

 このほか、店内に設置したビーコンのデータを解析し、顧客と店舗スタッフの動線を分析することで、店舗運営の改革にも取り組んでいる。

KEYNOTE

タブレット導入を成功に導いた段階的な機能拡大
初めは公開情報だけ、次に行内システムと接続

堀田 晃 氏
株式会社 中京銀行
執行役員
事務統括部長
堀田 晃 氏

 「営業の機会を増やすには渉外行員の活動量を増やさなければなりません。金融商品の販売を強化しようとしても、その活動を支えるツールがありませんでした。その解決策としてタブレットに着目しました」。中京銀行の堀田晃氏はこう話す。

 中京銀行がタブレットの導入を決めたのは2013年12月。段階的に機能を拡大する計画を立てた。具体的には三つの段階に分け、ステップ1で電子パンフレット、投信情報などの公開情報を扱い、ステップ2で行内情報や顧客情報といった機密情報に取り扱い対象を広げ、ステップ3で業務ナビゲーションを提供する。「セキュリティ技術、コスト、開発期間などを考えると、当初から全てのステップを実現するのは負担が大きく、時間がかかります。導入を決めたからには、早く使うためにステップ1を実現したいと考えました」(堀田氏)。

セキュリティ確保は念入りに
業務モードと顧客モードで分離

 ステップ1では、FAテラー(金融商品の知識を持つ窓口担当者)や個人特化型渉外担当、営業店を対象にタブレットを配布、運用を始めたが、想定よりも利用されなかった。「金融商品の販売を支援する役割だけでは利用が進まないことを実感しました」(堀田氏)。

 利用が拡大したのは、顧客情報を扱う行内システムと、外出先で使えるタブレットを接続したステップ2からだ。銀行ならではの高いセキュリティ水準を確保しながら、外出先から顧客情報を参照でき、オフィス外でも営業情報を記入できるようにした。そして、ステップ3では投資信託販売事務ナビゲーションを支援する機能を実現するので、2017年春の稼働を目指して開発に取り組む。

KEYNOTE

ビッグデータ活用で溶解鋳造工程を改善
成否のカギは製造・分析両部門の相互理解

石川 修平 氏
日本ガイシ株式会社
取締役常務執行役員
エレクトロニクス事業本部長
石川 修平 氏

 「製造部門と分析部門が問題や分析結果、気付きを共有することが大切です。ビッグデータ活用の仕組みは相互の理解と、垣根を越えた経験の上に根付いていきます」。ベリリウム銅の生産にビッグデータを活用し、成果を上げた日本ガイシの石川修平氏はこう話す。

 ベリリウム銅は銅合金の一つ。設備の改良や生産時の設定の見直しなどによって、収率(製品完成重量/原料投入重量)改善を図ったが、2010年以降は頭打ちになった。その解決策として、原料を溶かして固める溶解鋳造工程でビッグデータを活用した。原料の成分や配合比、溶解炉の温度や時間、角度などを対象に分析したところ、製造法についても新説を発見し、収率は0.5%向上した。最終収率を極大化するため、現在、ベリリウム銅の生産工程全体への展開を進めている。

三つのステップで活用を推進
革新的な材料開発も視野に

 日本ガイシは三つのステップでビッグデータ活用を進めていく方針だ。ステップ1では最適製造条件を制御し、収率最大化条件の予測を図る。現在はこの途中段階にある。ステップ2では高精度製造シミュレーションを実現し、ステップ3ではシミュレーション技術とビッグデータ分析を組み合わせて革新的な材料の開発を支援する。

 「初めはセンサーの設置やデータウエアハウスの構築などで投資が膨らみますが、効果はすぐに表れません。あきらめず粘り強くビッグデータを活用する仕組みを構築する必要があります。途中の成果を見せて、社内の理解を得ることも大切です」。石川氏はこうアドバイスして講演を終えた。

KEYNOTE

新たな企業ビジョンは「ホテル運営の変革者」
ITは事業に直接的に価値を提供するものに

久本 英司 氏
星野リゾート
グループ情報システム
ユニットディレクター
久本 英司 氏

 「ITは業務プロセスと事業の変化を促進させ、新たなビジネスチャンスをつくるものです」。星野リゾートの久本英司氏はこう話す。

 開業は1914年。低迷していた老舗の業績を成長軌道に乗せたのは現社長の星野佳路氏だ。「リゾート運用の達人」との企業ビジョンを掲げ、フラットな組織文化に変え、従業員が顧客に適切な対応ができるように情報共有を進め、様々な業務を担当するマルチタスクを採用。顧客満足と生産性の向上を両立し、事業拡大を図った。ITが担った役割は、経営情報の見える化、マルチタスク化を支援する仕組み、全国の運営施設で同じ仕組みを提供することだった。

マイクロサービス、DevOps
クラウドが成否のカギ握る

 星野リゾートは2014年から「ホテル運営の変革者」という新たな企業ビジョンを掲げている。その背景には、旅行サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)の普及、インバウンド(訪日外国人旅行者)の増加に伴う日本旅館の人気の高まりに代表される事業環境の変化がある。それに伴い、ITを「事業に直接的に価値を提供するもの」と位置付け、俊敏性、堅牢性、変化対応力、リスク対応力を重視する。個別に導入でき拡張可能なマイクロサービス、開発部門と運営部門が連携して開発するDevOps、クラウドサービスを積極的に活用する。

 既にベンダーとマイクロサービスを実験的にプロジェクトに採用して経験値を上げ、最も重要な顧客サービスをDevOps化するプロジェクトを進めている。クラウドについては、現場で開発できる簡単さなどを評価してサイボウズのkintoneを採用。アプリケーション開発での情報システム部門の関与を最小限にしていく。

KEYNOTE

ICT×ロボットで変わる日本農業の姿
農産物品質・収穫量の平準化など数々の効果

松野 哲 氏
岩見沢市
市長
松野 哲 氏
野口 伸 氏
北海道大学
教授
野口 伸 氏

 「ICT(情報通信技術)とロボットで次世代農業を進め、農家戸数の減少や農業従事者の高齢化などの課題を解決しようと思います」。岩見沢市の松野哲氏はこう話す。同市は水稲作付面積、収穫量とも北海道最大で、小麦や大豆、白菜、玉ネギなどの有数の生産地だ。

 次世代農業を目指す背景には、1990年から全国の自治体に先駆けて整備した総延長196kmに及ぶ市営の光ファイバー網がある。既に市内13カ所の気象観測装置では作付けや収穫の参考となる様々な予測値を50mメッシュで提供するほか、市内3カ所のGPS補正基地局によって農機の自動化・ロボット化に必要な誤差3cm程度の高精度位置情報を市内全域で利用できる。

オートステアリングを終え
2020年にマルチロボットに

 北海道大学の野口伸氏が地元農家と実証実験を進める。手放し運転の「オートステアリング」(第1段階)、有人機が近くの無人機も動かす「有人-無人協調作業システム」(第2段階)、無人機を近くで監視する「無人作業システム」(第3段階)、無人機を遠隔監視する「遠隔監視無人作業システム(マルチロボット)」(第4段階)のうち、第1段階は終え、2020年に第4段階に達する計画だ。

 実証実験はロボット活用にとどまらない。ビッグデータ活用にも取り組み、リモートセンシングデータや気象データ、作業データなどを活用し、営農支援情報を提供する。新規就農者の早期育成、農産物品質・収穫量の高位平準化、生産の低コスト化を図る。「様々な情報を収集することで農作業用ロボットは賢くなります」。野口氏はこう未来を語り講演を終えた。