Enterprise Development Conference 2016では、IT企業やユーザー企業の関係者が最新の開発動向や事例を紹介した。
3トラック構成で行われたこのイベント、A会場は、Incrementsの海野弘成氏と及川卓也氏の講演で幕を切った。同社は国内最大級のプログラマー向け技術共有サービスのQiita、チーム内情報共有ツールのQiita:Team、プログラミングのメモやスニペットを記録するためのKobitoなどを提供する。同社は開発チームが最大のパフォーマンスを上げられることを重視し、その場所で働けるリモートワークを採用したりしている。海野氏は大学生のときからプログラマーとして活躍し、同社を設立した海野氏は「開発チームの意思疎通を図るためオンライン上での円滑なコミュニケーションに力を入れています。感情も表現したいので、オンラインでは絵文字を積極的に扱うようにしています」と話す。グーグルなど様々なIT企業を経て入社した及川氏は「入社して日報に絵文字が入っておりゆるくて驚きました」と振り返る。
ソフトウエアの活用を基軸に新たなイノベーションを起こす米国のUberやAirbnbといった企業が業界の勢力図を書き換えている状況に触れたのはビットアイル・エクイニクスの長谷川章博氏。「ビジネスに勝つためにはスピードが重要です。それに対応し、開発を高速化するにはOpenStackなどのクラウドインフラの活用と、継続的インテグレーション(CI)の実施がカギを握ります」(長谷川氏)。プライベートクラウド構築におけるデファクトスタンダードの技術であるOpenStackを基盤に据えたクラウドネイティブな開発について事例を交えて紹介した。
金融界では、Fintechという言葉が注目を集めており、金融とITの高度な融合が急速に進んでいる。このFintechについて金融界の立場から語ったのは三菱UFJファイナンシャルグループの藤井達人氏だ。「Fintechの動向を一層加速させているのが金融界によるIT経済圏ともいえる『APIエコノミー』です。金融界でもオープン化の動きが生まれているのです」と藤井氏は語る。三菱東京UFJ銀行は毎年、Fintech Challengeを開催し、銀行APIハッカソンに取り組んでいる。今後、銀行APIがどのように使われていくことになるのか、どのようなAPIの提供が準備されているのか、などについて藤井氏は解説した。
B会場は、あいおいニッセイ同和損害保険の梅田傑氏による講演で始まった。各界から注目を浴びるIoTの進展に伴って自動車分野におけるテレマティクスサービスの普及も拡大している。あいおいニッセイ同和損害保険は、車から様々な走行データを取得し、センターと車の間で双方向の通信を行って、得られたデータを基に最適な保険料を決めるテレマティクス自動車保険を商品化した。「経済的メリットの提供だけでなく、安全運転の促進にも効果がある保険商品として期待されています」。梅田氏はこう話した。
人工知能に関連し、ディープラーニング(深層学習)について講演したのはリクルートテクノロジーズの白井祐典氏。リクルート・グループは中古車販売、就職情報、住宅情報など多種多様なWebサイトを展開しており、不適切画像の検出や類似画像の検索を行うためにディープラーニングの技術を導入した。「ディープラーニングでは、人工知能に何をどう学習させるか、効率性や精度が重要です。当社は独自に考案した高精度のモデルを適用し、適切なチューニングを行いました」と梅田氏は話す。
建設業界の立場から最新ITの動向を語ったのは竹中工務店の粕谷貴司氏である。「IoTやクラウド技術は建物設備にも使われ、様々な側面で新たな付加価値を生み出しています」と粕谷氏。竹中工務店はこうした技術の活用した「ビルコミュニケーション」と呼ばれる仕組みの構築を推進し、空調や照明のコントロールによる省エネ化やデマンドレスポンスへの対応、セキュリティの強化、施設や設備の運営管理の効率化などの実現を目指す。粕谷氏は関連システムの設計・開発の手法についての解説に加え、建物設備から収集したデータを使った電力デマンドにかかわる機械学習と予測制御についての取り組みなども紹介した。
C会場では、ヤフーの森下大介氏が口火を切った。ヤフーの広告システムを事例として取り上げ、ソフトウエア開発の世界で急速に注目が高まるテストの自動化、それを推進する際の開発者の悩みなどについて講演した。「ビジネス現場のニーズに応えるには、常に改修し、スピーディにリリースする必要があります。それには、やはりテストの自動化は欠かせません。ただし、自動化そのものが目的化しないよう留意することも肝要です」と森下氏は語る。
トレタの増井雄一郎氏は、Web技術の最新事情とその活用方法を解説した。WebRTC(Web Real-Time Communication)では、サーバーなどを経由せずに2台の端末のWebブラウザー間で直接ビデオチャットなどのやり取りが可能となる。また、SNSなどで自動応答するボットをつくるためのChatBotという技術もAPIがLINEやFacebook上で公開されている。「こうした技術を応用した新しいユーザーインターフェースは、B2B、B2C両側面でWebシステムの可能性を大きく広げるに違いありません。今後、その動向に目を離せません」と増井氏は話す。
C会場は、KDDIの佐々木徹氏による講演で幕を閉じた。ソフトウエア開発では、急速な市場変化に対応した俊敏性が求められる一方で、国内ではエンジニア不足が深刻化している。KDDIは、その解決策として、アジャイル開発とオフショア開発を採用している。自社の経験をもとに佐々木氏は「アジャイルを採用したオフショア開発の実践には、定量的なKPIを設けて明確な目標を設定し、それにより『振り返り』と『改善』のループを確立することが重要です。短期的な改善を繰り返すアジャイルとオフショアとの相性は非常に良いと思います」と語った。