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ビジネス価値提供に至るリードタイムを短縮

「アイデア」から「価値提供」に至る
リードタイムの短縮を

アトラシアン シニア エバンジェリスト 長沢 智治 氏
アトラシアン
シニア エバンジェリスト
長沢 智治 氏

  「Netscape Navigatorなどの開発で知られるマーク・アンドリーセン氏は『Software is eating the world(ソフトウエアが世界を飲み込んでいく)』と発言しました。デバイス、クラウド、IoTによって、アンドリーセン氏が指摘する世界が現実のものになろうとしています」。アトラシアンの長沢智治氏はこう語る。

  ビジネスにとってITは欠かせない存在だが、2010年代に入ると両者は融合を始めた。ビジネスモデルは常に変化するようになり、以前のように1つのビジネスモデルに安住することはできない。また、意思決定権はこれまで経営者にあったが、マーケットや消費者が握り始めている。それに伴って、ソフトウエア開発のあり方も大きく変わらざるを得なくなってきた。具体的には、以前のようにビジネス開発によって要件を固めたうえで、システムを企画し、それからソフトウエア開発を実践していくというプロセスを踏むのではなく、アイデアをビジネス化する企画部門とシステムの開発部門が一体感を持ち、ビジネス開発、システム開発、ソフトウエア開発を同時並行的に進めていくことが不可欠になっている。

 その際、重要なポイントとして浮上してくるのが「リードタイム」という考え方だ。リードタイムは、ビジネス上のアイデアが生まれた時点から、それを実現するための仕組みをつくり上げ、最終的にユーザーに対する価値提供に至るまでの時間だ。「リードタイムが長くなるほど、価値を提供するのに時間を要してしまい、企業競争力は低下してしまうことになります」と長沢氏は説明する。

リードタイム短縮には
カンバンが有効策の1つ

 リードタイムは、通常、仕掛かりをスループットで割ることで算出できる。仕掛かり(WIP:Work In Process)とは、「やらなければならないこと」を意味するのに対し、スループットは「ある期間でどれだけの業務量をこなせるかについての能力」を指す。スループットが同じなら仕掛かりの量を減らせばリードタイムは短くなり、仕掛かり量が同じならスループットを改善することでリードタイムを短縮できる。

 ソフトウエア開発では、リードタイムを短縮する1つの有効なアプローチが「カンバン」と呼ばれる方法論だ。ソフトウエア開発では、実施すべきタスクを「収集」したのち、それを「バックログ」に入れ、「分析」「実装」「検証」を経て、成果物を「デプロイ」してユーザーの利用に供する。このとき、「バックログ」「分析」「実装」「検証」という工程の一つひとつには仕掛かり中のものがある。カンバンでは、この仕掛かりの数を工程ごとに制限することで、作業量がスループットを超過してボトルネックが生じてしまうことを防ぐ。

 また、それぞれの工程で仕掛かり中のものについては、品質基準を設けて作業完了を判断し、作業が完了して所定の仕掛かり数に“空き”が生じたら、後工程側が前工程から“プル型”で作業を取り出す。そうすることで、それぞれの工程で品質を維持しながら、スループットを調整する。「仕掛かりの制限とスループットの改善により、全工程が円滑に流れるようコントロールすることがカンバンの骨子です」。長沢氏はこう説明する。

開発の可視化、効率化、自動化で
工程全体の可視化を

 アトラシアンが提唱する「価値のパイプライン」は、このカンバンの考え方にも対応でき、あらゆる開発手法でも共通する仕組みを提供する。ソフトウエア開発では、「バックログ」「分析」「実装」「検証」「デプロイ」といった各工程で、要求管理ツールや開発ツール、バージョンコントロールツール、テストツール、デプロイツールなどの数々の開発ツールを活用している。こうした開発ツールは、通常、各工程の成果物に紐付いているため、開発工程全体の現状を把握するには、それぞれの開発ツールが保持する情報を収集しなければならない。これは、労力的にも、また時間的にも開発担当者に大きな負担を強いることになる。価値のパイプラインは、様々な開発ツールを連携させ、開発全体の現状把握や効率化、自動化を図り、開発工程全体を可視化する。そうすることで、企画チーム、開発チーム、運用チームのコンセンサスを確立できる。

図●ツール連携による「価値のパイプライン」の構築を
図●ツール連携による「価値のパイプライン」の構築を
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 アトラシアンは、価値のパイプラインを構築するために不可欠な様々な製品を開発・提供している。ソフトウエア開発のためのプロジェクト管理ツールのJIRA Software、JIRA専用のポートフォリオ管理ツールのPortfolio for JIRA、アイデアを具体化し、チームメンバーに共有し、議論するために役立つドキュメント作成・管理ツールのConfluence、インラインコメント機能やプルリクエストでソースコードの共同開発が便利になるGitベースのコードコラボレーションと管理を担うBitbucket、ビルド・テスト・デプロイの自動化を図り、継続的なリリースを可能にするBambooといった数々の製品を用意し、タスク管理、情報共有、自動化、運用管理の各ツールを連携することで、アプリケーションライフサイクルのすべてをカバーする。長沢氏はEnterprise Development Conferenceの会場でJIRA Software、Portfolio for JIRA、Confluence、Bitbucket、Bambooを連携させ、価値のパイプラインをどのように形成していくかデモンストレーションした。10人の開発チームなら、デモで紹介した開発環境は50ドルで構築できる。

プロジェクト規模を問わず
価値のパイプラインは効果を発揮

 価値のパイプラインは、開発プロセスやプロジェクトの規模などを問わず、小規模の開発プロジェクトはもちろん、エンタープライズ規模での開発プロジェクトでも効果を発揮する。エンタープライズ規模のプロジェクトで活用する際、長沢氏は「アイデア」「チーム」「リリース」という3つのポイントで、エンタープライズ規模ならではの複雑性を整理することを勧める。アイデアについては相互依存関係、優先順位などを、チームに関してはペロシティ(開発能力)、スキルマップ、人員リソースを、リリースについては期日、リリース範囲を把握しておく必要がある。これらの複雑さを軽減しながら、価値のパイプラインを活用することで、計画と実際の乖離を防ぎ、状況に応じた意思決定や計画変更を迅速に行うことができる。

図●アイデア×チーム×リリースでエンタープライズの複雑さを克服
図●アイデア×チーム×リリースでエンタープライズの複雑さを克服
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 アトラシアンは2002年、オーストラリアのシドニーで起業し、アジャイル開発を支援する数々のツールを開発・提供し、米ナスダックにも上場する。日本法人の設立は2013年。「営業組織を持たず、情報開示と社会貢献を企業理念に据え、口コミマーケティングとパートナーとの協業をベースにビジネスを展開していることがその大きな特徴です。小規模チーム向けのスターターライセンス(サーバー版)は、売り上げをチャリティとして寄付している。日本だけに配置しているエバンジェリストは、お客様の現場訪問による講演やコンサルティングといった無償支援なども積極的に実施しています。ぜひ気軽にお声をかけてください」。長沢氏はこう語り、講演を終えた。

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